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大事なのは現状を知り、考えるだけでなく実践していくこと。
オンラインシンポジウム「仏教×SDGs×ジェンダー-身近な課題から持続可能な世界を考える-」レポート

龍谷大学では『誰一人取り残さない』という世界共通の目標SDGsと、仏教の思想を重ねた「仏教SDGs」を掲げ、多様性を認め合う教育と研究を進めています。

そのひとつとして、2017年「性のあり方の多様性に関する基本指針」を策定。「性的指向や性自認など、性のあり方は多様であり、これらに関する差別や偏見を解消し誰もが自分らしく安心して過ごすことができる大学や社会を目指すことは、すべての本学構成員が取り組むべき課題」と明記し、ジェンダーに配慮した環境づくりを行なっています。

2022年6月28日には、オンラインシンポジウム「仏教×SDGs×ジェンダー-身近な課題から持続可能な世界を考える-」をYoutubeでライブ配信。差別や人権侵害を克服し誰もが共存できる社会のために、何ができるのかをディスカッションしました。

シンポジウムの総合司会をつとめたのは龍谷大学ジェンダーと宗教研究センター長である岩田真美さん。「貧困、飢餓、差別、環境汚染など、人間が生み出した危機を乗り越えるためには、一人ひとりが行動を変革していくことが欠かせません」と開会の挨拶をしました。

女性の心にも響く寺づくりを

最初に登壇されたのは、仏教の立場からSDGsやジェンダーに関する活動をしてこられた全日本仏教界前理事長の戸松義晴さん。まずは全日本仏教界で制作したレインボーステッカーをスクリーンに投影し「僧侶でありLGBTQの当事者から、カミングアウトは家族や近しい人にこそしづらいものだと聞いたことがステッカー制作のきっかけです。お寺の玄関に貼ったこのステッカーが『いつでもお話を聞きますよ』という目印になります」とご説明がありました。

さらに「仏教とジェンダー ─教義と現実の狭間で─」と題して、『宗教年鑑』令和3年版のデータをもとに、仏教界の現実を教示してくださいました。

「全日本仏教会に所属する主な10宗派(曹洞宗、浄土真宗本願寺派、真宗大谷派、浄土宗、日蓮宗、高野山真言宗、臨済宗妙心寺派、天台宗、真言宗智山派、真言宗豊山派)。この10宗派で約6万のお寺があり、全体の8割を占めています。この10宗派に特化して話をしますと、女性の教師数はだいたい10〜11%。女性の教師数が非常に少ないのが現状なのです。さらに教団の宗議会における女性の割合になるとわずか2%。そんな中、のちほど登壇される西永亜紀子さんが、国際交流審議会の委員長をお務めされたことは画期的で、たいへん嬉しいことでした。仏教界はそうとう長い年月、男性の立場からいろんな制度を決めてきた歴史があります。しかしこれからは、仏教界・寺院の意思決定者に女性を積極的に登用し、世の女性の心に響くお寺にしていかなければなりません。現実を受け止め考えるだけではなく、それぞれできる範囲で実践する時期にきています」と述べられました。

仏教の教えそのものがSDGs

続いて入澤崇学長が「仏教SDGs ─龍谷大学の取り組み─」をテーマに講演しました。

「『誰一人取り残さない』というSDGsのメッセージは、仏教の精神、そして龍谷大学の建学の精神に通じるものです。SDGsは「生きとし生けるもの」(衆生世間)の危機および「地球環境」(器世間)の危機を訴えるもので、問題を引き越しているのは、関係性を無視する人間の自己中心性にあります。人間の根源を見つめ、私たちの意識と行動を変えることが急務なのです。衆生の安寧を願う菩薩の心=摂取不捨(せっしゅふしゃ)、つまりこの世の生きているものすべてをおさめ取って見捨てない、をSDGsとの結節点として仏教とSDGsを重ね合わせる活動をなす。さらに言えば、人間と社会を凝視する仏教の教えそのものがSDGsであると受け止めます」と述べました。

これまでにない発想で社会課題と向きあい、私たちの意識と行動を変える試みとして龍谷大学は環境省と「地球脱炭素の推進に関する協力協定」を締結し、脱炭素社会や地域循環共生圏の実現を担う「グリーン人材」の育成に努めていきます。そして目下のところ、貧困ゼロ、失業ゼロ、CO2排出ゼロ、3つのゼロの世界を打ち出しノーベル賞を受賞されたユヌス・ムハマド氏を招き設立したユヌスソーシャルビジネスリサーチセンターから新たな活動を発信しているところです。また、猪や鹿といったジビエを加工する「株式会社RE-SOCIAL」、障がいのある学生とともに靴磨きの分野で起業した「株式会社 革靴をはいた猫」など龍谷大学卒の起業家の活動も注目されます。深草キャンパスの中央にある障がい者スタッフと学生がともに働く「カフェ樹林」の存在はこれからの社会のありようを示唆するもので、「仏教SDGs」が息づく典型的な活動として紹介されました。

最後に「私たちは将来、よき祖先となれるのでしょうか。次の世代に負の遺産を残さないために、今活動を起こさなければならない。自らを常に省みて他者に安寧をもたらす「自省利他」という本学から発信する行動哲学をSDGsに結びつけ、社会に貢献できる「人」を生み出すべく、これからさらに推進していきたい」と仏教SGDsの重要性を語りました。

シンポジウム後半に行われたのは、おふたりの提言とディスカッションです。

「だれでもトイレ」をめぐる課題から気づいたこと

龍谷大学宗教部課長の安食真城さんが語ったのは、「LGBTQ/SOGI ─身近な性の多様性に気づく─」について。

「龍谷大学に通う学生は約2万人、教職員は1000人近くいます。性的指向や性自認に関する取り組みをはじめたのは2016年頃。性的マイノリティが本当は困っているのではないか、と学内で発言しましたが、反応の多くは『本当にそんな人いるの?』。現状把握をするため、ジェンダー・セクシュアリティ問題に熱心な東京の国際基督教大学でお話を聞く機会を得ました。その時、ゲイの牧師さんから『龍大の学生さんの相談にのっていますよ』と聞いてびっくり。龍谷大学の学生が悩んで困っていることに私たちは気づいていなかった。龍谷大学は何をしていたのか、仏教は何をしているのか、とショックを受けたんです」

その経験を経て学内でアンケートを実施し、回答者858人のうち、130人が性的マイノリティ当事者だという回答を得ました。この結果をうけて2017年に『性のあり方の多様性に関する基本指針』を策定し、様々な取り組みをはじめました。性別にかかわらず利用できる構造の多機能トイレを「だれでもトイレ」に名称変更し、必要な人は誰でも利用できるようにしたこともそのひとつ。これによってトイレの選択肢を増やすことができたのですが、その一方で、車いすユーザーの学生から「トイレが混雑する」という声も聞こえてきました。そこで、「みんなのキャンパストイレフォーラム」というオンラインイベントを開催。多様な人から意見を聞いたところ「そもそも多機能トイレが少なく、マイノリティ同士が困り合っている。本来は、マジョリティの人の意識こそが問題ではないか」という意見が出されたのです。これって仏教の現状に似ていると思うんです。仏教はマジョリティの視点でしか物事を見てこなかったのではないでしょうか。

締めには「LGBTQ /SOGIの問題解決は、ジェンダーを含む人権問題の解決とも共通します。身近な課題から持続可能な世界がはじまるのではないでしょうか」と、ちいさな一歩が次のつながりを創出することを伝えました。

※LGBTQの関連記事です。あわせてご覧ください。
学生も教職員も安心して語り合える平等で公平なキャンパスをめざして(2021.06.10公開)

坊守という不平等な立場から

提言のおふたり目、SDGsおてらネットワーク代表の西永亜紀子さんが挙げられたテーマは「お寺の中のジェンダー不平等」でした。

「私は二年前まで、九州のあるお寺の坊守でした。浄土真宗のお寺は多くが家族経営。住職が男性、それを支えるのは女性が一般的です。坊守は住職とともに寺院をまとめていく立ち位置であるはずなのに、実際はそうではないと感じます。結婚した当時、女性は25〜30歳が適齢期。その年齢に近づくと結婚して家庭に入るのが当たり前であり、幸せな人生だとみんなが信じていた。結婚すれば自動的に幸せになれると思っていましたが、実際はそんな甘いものではなかったのです」

坊守になってから、不平等な経験をたくさん経験したという西永さん。「お手洗いの掃除は女性がすればいい、男性ばかりの仏教壮年会の準備と片付けは女性がするもの、などの慣習にモヤモヤしていました。今も相変わらずお寺の中には性別役割分担があります。変われないのは、意思決定の場に女性が圧倒的に少ないからです。お寺の中はまるでジェンダー後進国である日本の縮図のよう。女性の能力が低いとか向いていないではなく、これは構造の問題です」と力強く、女性の本音を語られました。

自分と違う人を受け止める選択を

おふたりの提言の後は全体討論の時間、司会からそれぞれの方に踏み込んだ質問が投げられました。その一部をご紹介します。

安食さんへの「一歩を踏み出すためにどうすればいいのか」という質問には、「LGBTQといった言葉自体は浸透しているが、実際に自分ごとにとらえるためにはきっかけやタイミングがあると思う。私のように、レインボーの数珠をつけたり、レインボーのステッカーを手に入れたり、日曜学校で小学生に話したり。そういう小さな行動からスタートしていくんじゃないかな。大学としては、そのきっかけをつくることはもちろん、性的マイノリティに対するヘイト的な言説が増えている今こそ、学生がいつでも正確な情報にアクセスできるようにしておくことも大事だと思います」と返答しました。
「当たり前を問い直すために、できることとは」という質問にお答えくださったのは西永さん。「私がするのは他流試合。違う立場の人のところに飛び込むことです。全日本仏教会で審議会委員長をさせていただいたのも、ひとつのチャレンジでした。それ以外にも、銀座のど真ん中にキリスト教専門の本屋さんがあるんですが、そのビルをめぐる、キリスト教徒ばかりのツアーに参加しました。こういう悩みは一緒なんだなと共感したり、ここは違うんだなと違いを楽しんだり。いろんな人がいることを肌で感じ、自分と人とは違うことを認識していくことが大事だと思っています」と、体験を交えた軽やかな返答をいただきました。

日々の暮らしのすぐそばに、実は見過ごされているたくさんの社会問題があります。ジェンダー問題もそのひとつです。シンポジウムを通して、身近に悲しんでいたり、苦しんでいたりする人がいたら、排除せずに認めあうこと。迷った時は、多様性を排除しない選択をすることが、持続可能な世界のためにできる第一歩なのだと感じました。

 

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