menu

みんなの仏教SDGsウェブマガジン ReTACTION|みんなの仏教SDGsウェブマガジン

誰ひとり取り残さない社会実現のための 孤独死ではない、在宅ひとり死のススメ

住み慣れた地域で自分らしく老い、安心して人生を終えるにはどうしたらいいのか。龍谷大学ジェンダーと宗教研究センターでは、2021年12月、社会学者の上野千鶴子氏をお迎えし、「誰ひとり取り残さない社会を目指して― 老いと死をめぐる課題 ―」と題したオンラインの講演会を開催しました。講演会の後半には、僧侶の立場から在宅医療に取り組む大河内大博氏から、地域社会での介護や看取り、寺院の役割についてのお話を伺い、誰もがいつかは自分ごととなる、老いと死について考察する時間を共有しました。

満足のいく老後の暮らしとは?その先に見えてきた自由なひとり暮らし

—-2007年の『おひとりさまの老後』から、2009年の『男おひとりさま道』を経て、2015年には『おひとりさまの最期』と、ベストセラーとなったおひとりさまシリーズで知られる社会学者の上野千鶴子氏。2007年には「おかわいそうに」「おさみしいでしょう」というネガティブイメージだったおひとりさまですが、今はそんな偏見もなくなってきています。おひとりさまへの偏見がなくなったのは、親も子どももそのほうが気楽だと気づいたからだと上野氏は言います。

「高齢者がいる世帯は、独居世帯が27%、おひとりさま予備軍といえる夫婦世帯33%。合わせると半数を超えます。さらに90歳を超えて生きる確率は、男性は4人に1人以上、女性だと2人に1人以上。おひとりさま増え続けています。実はおひとりさまは生活満足度が高く、お悩みも少ない。それは気持ちの通じない家族からのストレスがないからです。慣れ親しんだ土地を離れない、信頼のおける友を持つ、家族に気を使わず自由に暮らす、という満足のゆく老後を送るための三条件が揃うのも、やはりおひとりさま。満足のゆく老後の暮らしを追いかけたら、おひとりさまに行き着くというわけです」

「ほぼ在宅、ときどき病院」そして「医療より看護、看護より介護」

—-多死社会に突入している今、死に場所についての考えも転換期にきています。これまで多くの人にとって死に場所は病院でしたが、本来の病院は病を治して生かすところであって、死に場所ではない。これから増えていくのは、在宅ひとり死だと上野氏は続けます。

「2015年に施工された医療介護一括法に、病床数を増やさない、入院日数は抑制する、療養型病床は廃止するなどと記されていることから、これからの時代は「医療より看護、看護より介護へ」。医療と介護の一体運用=地域包括ケアシステムが進んでいく流れです。なぜ他人様のお世話を受ける高齢者になると施設に入所し、高齢者ばかりが集まって暮らさなければならないのか。自宅にいることはおひとりさまの悲願だと思います。そのために必要なのは、訪問介護、生活支援サービス、緊急時対応、1日3食の食事提供をフルパッケージしたサービス。これさえあれば、要介護5のひとり暮らしでも自宅に住み続けることが可能です」

「また在宅ひとり死についても、可能な条件が『家族がいること』から『関係者が少ないこと』へと現場は変化してきています。このことからも、おひとりさまのほうが在宅ひとり死を実現しやすいと言えます。それというのも介護の現場の経験値が増え、ノウハウが進化して、20年前には不可能とされた在宅ひとり死が可能になってきているからです。看取りに医者は必要ない、看護職や介護職だけでお看取りできる時代になりました」

—-老いと死の間で、避けて通れない課題は認知症。認知症になると在宅暮らしは不可能になるのではなのかという課題についても、可能であると上野氏は語ります。

「ひとり暮らしの認知症の方は、家族と暮らす人よりBPSD(認知症の行動・心理症状)が起こりにくい。興奮や暴力は明らかに少なく、介護否定や妄想、物盗られ妄想や嫉妬妄想も多くありません。その理由は、家族から叱られたり、責められたり、しっかりしろと言われたり、急かされることがないからです。実際にひとり暮らしをしておられる認知症者の生活を拝見して、在宅が可能だと実感しました」

すべての人の安心を下支えし在宅ひとり死を可能にする介護力

「在宅ひとり死を支えるのは、訪問介護、訪問看護、訪問医療の3点セット、なかでも大事なのは介護力です。にもかかわらず、現在の政権が進めようとしているのは、介護力が弱まる介護保険制度の改悪です。長期的なシナリオでは、要介護度3〜5の重度に対象を限定、生活援助をはずし、ケアプランを有料化、自己負担率1割から2、3割へ上げるなど、在宅ひとり死が遠のく恐れがあります。この介護保険の後退を許すことなく、安心して弱者になれる、安心して要介護者になれる、そして安心して認知症になれる社会こそ、超高齢化が進む日本が目指す社会だと考えます」

「社会×お寺」で困難を救う地域共生社会のためのプロジェクト

—-続いて、お話してくださったのは大阪市住吉区の浄土宗願生寺住職であり、臨床仏教研究所特任研究員、訪問看護ステーション「さっとさんが願生寺」共同代表兼チャプレン、大学非常勤講師など、幅広く活躍されている大河内大博氏。「地域共生社会のためのお寺の役割とはーさっとさんがの試みー」と題して、ご自身の実践を紹介してくださいました。

「現代、お寺は大変な時代を迎えています。伽藍の老朽化だけでなく、墓じまい、仏壇じまい、儀礼の簡素化、檀信徒数の減少など、さまざまな問題を抱えています。一方、2070年には人口が8800万人、高齢化率が48.4%になるであろう社会も、認知症患者の増加、闘病しながらの生活、単身世帯の増加、超多死社会、若者の激減など、どんどん生きづらい社会になっている。そういう社会にこそお寺が必要、残していかなければならないのではないかと考えるようになりました」

「死んでからではなく、今困っている人に来て欲しい。今につながるお寺でありたいという思いから、さまざまなプロジェクトを立ち上げています。そのひとつが訪問看護ステーション「さっとさんが願生寺」。住職が地域包括や社協などとの連携に飛び込むことで、制度の訪問看護外での利用者・家族のサポートができるではないか、地域との新しい連携が生まれるのではないか、と願っています」

さっとさんがの試み『まちの保健室 』&『介護者カフェいっきゅう』

—訪問看護ステーションの以外の活動にも意欲的な大河内氏。大阪大学との協力で実現した、ゼミ生が自転車と車の衝突事故が多いお寺近辺に警告ポスター貼るなどを実行した交通事故防止プロジェクト。看護と福祉が両輪となり、参加者の介護予防や介護難民の早期発見・介入の場を提供する「まちの保健室&介護者カフェ」。ボランティア団体「にじっこ」と大学生のボランティアの協力で実現した「こども食堂&寺子屋」。人工呼吸器をつけたり胃ろうをつけたり、自力で動けない医療的ケア児の福祉避難所づくりを考える防災プロジェクト。さまざまな活動を通して、地域との多角的なつながりを模索しておられます。

「お寺が地域社会のハブとなり、檀信徒、学生ボランティア、地域住民、行政、医療・福祉をつないでいく。お互いが安心して助け合う、ソーシャルキャピタルな関係づくりに関与していきたいと考えています。つながりが強く地域力のある場所こそ、最後まで幸せに暮らしていける地域なのだと思います」

さっとさんがの試み『寺子屋さっとさんが』