京都府の南東部に位置する宇治田原町は、日本緑茶発祥の地と言われており、静かな茶畑の風景が広がる町です。龍谷大学先端理工学部の知能情報メディア課程3年生である古川絢奈さん、谷口ひとみさん、井上想子さんの3人は、大学の自発的な発想に基づく調査・研究活動を支援する「プロジェクトリサーチ(※1)」と、課外活動をサポートする「龍谷チャレンジ(※2)」を活用し、2024年6月から宇治田原町の地域活性化に取り組んでいます。学生たちは町役場やバス会社などと連携し、期間限定バスの特設ホームページを制作したほか、施設のホームページリニューアルや地域イベントの開催も行いました。今回、プロジェクトの指導にあたった先端理工学部の岩嶋浩樹実験講師とともに、プロジェクトの経緯と成果についてお聞きしました。
(※1)プロジェクトリサーチ…主体性や課題解決能力を養うことを目的に、学生の自発的な発想で調査・研究活動を行う実験・実習科目のこと。活動期間は3年次の6月中旬~9月中旬まで。
(※2)龍谷チャレンジ…学生の自主活動や社会連携活動(いずれも正課以外)を支援する制度で、支援金をはじめとするさまざまなサポートを行う。活動期間は9月~翌年2月まで。
「観光資源にあふれているのに、情報が散漫でもったいないと感じた」
「宇治田原町を知ったきっかけは、宇治市出身の岩嶋先生から『宇治田原町には魅力的なスポットがたくさんある』と教えていただいたことです。春に宇治田原町を訪れると、川沿いに咲く桜がとても美しく、名物のお茶の美味しさに感動しました。もっと宇治田原町を知りたいと思い、インターネットで検索したのですが、詳しい情報がほとんど掲載されていませんでした。観光資源がたくさんあるのに、情報が散漫で、観光プランを計画しにくい点がもったいないと感じました。
その後、町役場の方とお会いする機会がありました。そこで、宇治田原町が地域活性化と観光促進に関する課題を抱えていること、そして『宇治やんたんライナー・やんたんライナーコネクト』について教えていただきました。『やんたん』とは、宇治田原町の湯屋谷(ゆやだに)のことで、地元では親しみを込めて『やんたん』と呼ばれています。『宇治やんたんライナー』は、宇治市や宇治田原町の観光名所を巡る観光ループバスで、『やんたんライナーコネクト』は、宇治田原町内をより便利に周遊できる接続バスです。どちらも京都京阪バス株式会社が運行しています。
私たちは先端理工学部知能情報メディア課程で、プログラミングやソフトウェア、画像処理、サーバー構築のほか、メディア戦略について学んでいます。こうした私たちの学びが、宇治田原町の集客や魅力発信に活かせるのではないかと思いご提案したところ、『宇治やんたんライナー・やんたんライナーコネクト』のホームページ制作を担当させていただけることになりました。そこで、プロジェクトリサーチのテーマを『宇治やんたんライナー・やんたんライナーコネクト利用促進プロジェクト』と設定し、本格的なプロジェクトが始動しました。」(古川さん)
「宇治やんたんライナー」と「やんたんライナーコネクト」は毎年期間限定で運行されており、2024年は8月24日から11月10日の土日祝日に運行されました。運営は、一般社団法人京都山城地域振興社(通称:お茶の京都DMO京都)、宇治市、宇治田原町、京都京阪バス株式会社が連携して行っています。
3人は制作した特設サイトに、バス停近くの社寺やレストラン、観光施設などのスポット紹介や、お茶の歴史・特徴・製法・淹れ方などの情報を掲載。また、町のマスコットキャラクター『茶ッピー』との会話形式で回答が得られるチャットボット(自動会話システム)には、訪日外国人向けに英訳も併記しました。
ホームページには、学生ならではのリアルな視点を盛り込んだ
「本プロジェクトが発足した後、6月中旬に宇治田原町を視察しました。観光紹介ページには、『宇治やんたんライナー」と『やんたんライナーコネクト」の両路線の停留所8カ所を紹介する予定で、停留所から徒歩圏内のレストランや寺社、観光施設を中心にピックアップ。自らアポイントを取り、取材のために週に1~2度は宇治田原町に足を運びました。
取材では、社寺や店主の方々からお話を伺うことに注力しました。文章作成や写真撮影も私たちが担当しましたが、意識したのは学生ならではの視点です。ホームページには、私たちが実際に訪れて、お話を聞き、食べて……と、感じた印象を盛り込みました。ホームページへのアクセス数を増やすため、バスの各停留所にホームページへリンクする2次元コードを掲示したほか、インスタグラムとX(旧Twitter)を活用しました。」(古川さん)
メディア露出の効果もあり
1日あたりのバス利用者数が約1.7倍に
2024年8月9日(金)には、メディア向けに本プロジェクトの記者発表会を開催しました。3人は「たくさんの人たちに宇治田原町と茶文化について知ってほしい」との思いを込めて、パネルやモニターを使って町の魅力や観光バスの利便性を紹介。朝日新聞、読売新聞、京都新聞、洛タイ新聞、時事通信、FM京都三条ラジオカフェ、K PRESS、月間茶の間など、さまざまなメディアでプロジェクトが紹介されました。
「宇治やんたんライナー」と「やんたんライナーコネクト」は、前年度と比較して1日あたりのバス利用者数が約1.7倍、具体的には1日平均15人から26人に増加しました。これは、情報技術とメディア戦略、SNSを駆使した本プロジェクトの成果であると考えています。
「宇治やんたんライナー」と「やんたんライナーコネクト」をテーマにしたR-GAP「プロジェクトリサーチ」は9月中旬に終了しましたが、その後も引き続き宇治田原町の地域活性化に取り組むため、活動期間が翌年2月までの学生活動支援制度「龍谷チャレンジ」の社会連携・社会貢献活動部門に申請し、採択されました。これにより、活動を継続することが可能となりました。
観光交流拠点「宗円交遊庵やんたん」のホームページをリニューアル
「湯屋谷(やんたん)には、地域住民の団体『1738やんたん里づくり会』が運営する観光交流拠点『宗円交遊庵やんたん』があります。ここでは、宇治茶カフェや地域の商品の販売のほか、体験プランやガイドツアーを実施されていますが、観光客が少ないという悩みがあることを知りました。そこで、『ホームページのリニューアルをさせていただけませんか』とお声掛けしたところ、快諾していただきました。
ホームページ作成はCMSをベースにし、プログラミングの知識を活かしてデザインをアレンジ。こちらも、文章作成や写真・動画の撮影を行いました。観光客の皆さんに特におすすめしたいのは、お茶の体験プランです。私たちが実際にお茶の石臼挽きや利き茶を体験したところ、とても楽しかったので、日本人だけでなく外国人旅行者にも興味を持ってもらえるような構成に仕上げました。」(谷口さん)
観光客だけでなく、地元住民にも喜ばれるwebサイトを目指した
「大変だったことは2つあります。ひとつは、たくさんのタスクを確実にこなすためのさまざまな調整です。町役場、お茶の京都DMO、京都京阪バス株式会社、取材先など、それぞれの立場や想いを汲み取りながらも、学生ならではの視点を大切にしたい。ホームページを目にした方々や観光客、宇治田原町の皆さんに喜んでいただけるようにしたい。そのような思いから、関係者とのコミュニケーションを密にとることを心がけました。ホームページ構築、チャットボット機能、写真・動画などの素材収集、関係者との連携など、活動期間中は多くのタスクがありましたが、3人で役割を分担し、負荷の大きなタスクは柔軟に対応し、協力し合いながら作業を進めました。
もうひとつは、プログラミングです。ホームページが思うように動かないのに、エラー表示が出ないという原因不明のトラブルも多々ありました。その際は、岩嶋先生に助けていただきながら試行錯誤を繰り返し、ようやく公開に至りました。」(井上さん)
地域住民との交流を目的に、マルシェを開催
2024年11月30日(土)、AQUA株式会社協賛のもと、宗円交遊庵やんたんと共催で「第一回秋のマルシェ」を開催しました。会場は、同年10月に宇治田原町に初めてオープンしたコインランドリー「AQUAランドリーサテライト京都宇治田原店」。本プロジェクトを通して関係を深めてきた日本茶専門店や喫茶店などの地元の商店5店舗が出店し、お茶漬けや茶器、鯖寿司などの販売とお茶の試飲を実施しました。「私たち学生を通して、地元の方々に町の魅力を再発見していただけるように取り組みました。」(井上さん)
大学での学びを地域に還元
「先端理工学部 知能情報メディア課程は、座学や演習が多いのですが、2年生からは課題解決に向けて実践的な学習をおこなうPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)を推進しています。また、授業の一環であるプロジェクトリサーチではフィールドワークを通じて研究や調査ができ、「龍谷チャレンジ」では学生の自主的な活動を支援しています。
『バス利用促進プロジェクト』では、宇治田原町の地域活性化という課題に向けて、3人は多くの人々と関わりながらさまざまな仕掛けを行ってきました。ホームページ作成やプログラミングを活用したチャットボットの開発など、大学で学んだことを地域に還元し、結果としてバス利用者の増加に繋がったことを高く評価します。
2025年2月をもって本プロジェクトはいったん終了しますが、滋賀県のビール醸造所『近江麦酒』、宇治田原町の日本茶専門店のコラボレーションとして、お茶を使ったクラフトビールの企画を進めています。監修は全国で十数人しかいない『茶師』、使用するのは手摘み茶葉の高級玉露です。私を含めた関係者同士で、甘くてまろやかな味わいの玉露と、スッキリしたビールをどう組み合わせるか、ターゲットをどう設定するかなどを話し合っています。今後は未定ですが、宇治田原町と本学との縁をつないでくれた学生3人にも、何らかの形で関わってもらいたいと思います。」(岩嶋 先生)