menu

みんなの仏教SDGsウェブマガジン ReTACTION|みんなの仏教SDGsウェブマガジン

持続可能な仕組みで地域を救う
学生がジビエのソーシャルビジネスに挑戦

龍谷大学では、大学発学生ベンチャーの育成や学生の起業家精神の醸成を目的に、2001年度から毎年、ビジネスプランコンテストを開催しています。

同大学は、仏教系の総合大学としてSDGsに取り組む「仏教SDGs」を掲げ、”誰ひとり取り残さない” 持続可能な社会に貢献する「ソーシャルビジネス」の地域実装を目指しており、このコンテストにも多くの「ソーシャルビジネス」のアイデアが寄せられます。

2019年に行われたコンテストの大学生部門では、代表取締役の笠井大輝さん、江口和さん、山本海都さんが立ち上げた株式会社RE-SOCIAL(リソーシャル)のジビエ肉の狩猟・加工・流通プランがグランプリを獲得。

「ジビエの利活用及び地域循環共生圏の構築に向けて」をテーマに掲げ、世の中でメジャーではないジビエ肉の狩猟・加工・流通を世の中に精通させていくプランを考えました。

仏教SDGsの精神から生まれた”誰ひとり取り残さない”ビジネス

仏教SDGsとは、SDGsの思想が仏教における「摂取不捨」(全ての者をおさめとって見捨てない)という考え方と通じる発想であることから、仏教とSDGsをかけ合わせることで持続可能な社会への実現につながるという龍谷大学独自の思想です。

株式会社RE-SOCIALのビジネスプランは、「シカやイノシシが銃殺され、大量に捨てられているジビエ市場の仕組みを変えたい」という笠井さんを始めとした学生たちの強い想いから生まれました。

2020年10月撮影。撮影時のみマスクを外しています。

きっかけは龍谷大学で行われる社会課題や地域課題を学ぶ授業、その一環として行われる獣害被害の実地調査でした。

シカやイノシシが銃殺され、そのまま大量に廃棄される現場を見て、笠井さんは衝撃を受けました。シカやイノシシが引き起こす獣害には、農作物を食べられたり荒らされたりする被害のほか、営農意欲の低下や防護柵の設置コストの増加、車体との接触、イノシシとの接触による怪我などがあります。そのため、捕獲や銃殺が不可避である場合も多くあります。

しかしその一方で、殺された動物たちは約9割が焼却や埋設によって廃棄されているのが現状です。「1つ1つの命を最後まで大切に扱うためにジビエの流通を増やしたい」「その持続可能な仕組みを作りたい」という想いを実現するために、笠井さんは起業を決意しました。

ジビエを広める仕組み作りができるまで

笠井さん達は、有害鳥獣、その中でもまずは鹿の捕獲の効率化を図り、捕獲した鹿も有効活用されるという好循環を生む持続可能なビジネスモデルを考えました。

そもそも鹿肉を含む「ジビエ」が、実生活で普及していない大きな原因は「安定供給」ができないことにあります。

野生動物であるため一定量の捕獲を確約できないこと、また、銃殺されることが多く、すぐに劣化が始まり早急に加工しないと食肉として使えないことなどが課題になっています。だからこそ、笠井さんたちは捕獲から処理の技術を自分たちで習得し、販売までを一括して行うことが必要だと考えました。

そうして立ち上げたのが株式会社RE-SOCIAL(リソーシャル)です。社名の由来はRE(繰り返す)×SOCIAL(社会)で、りそうしゃる(理想の社会)。限りある資源をサスティナブルな仕組み作りで循環させる社会を作りたいという願いを込めたそうです。

世の中に必要としてもらうためには、質の良いものを作る必要がありました。そしてそれは、大切な命を無駄にしないことにもつながります。彼らは良質な肉をつくり卸すまでの持続可能なビジネスプランを実行に移していきました。

仕入れでは、笠井さんたち自身が狩猟・解体・精肉加工の技術をジビエ業界で有名な方がいる徳島で修業し習得しました。実際の狩猟では、箱罠やくくり罠にIoT機能を導入し、素早く現地に向かうことができる仕組みを作りました。そうすることで、状態の良い効率的な捕獲が可能となります。

その後生体搬送を行い、広場にて国内ではまだ例の少ない一時的飼育にも挑戦。これにより、安定的な供給と肉質を確保ができるようになりました。さらに、製造は保健所の許可を受けた施設で精肉に処理し、日本各地の飲食店などに卸す販売までを自分たちで行うことで、好循環な仕組みを構築しました。

そして誕生したのがジビエブランドの「やまとある」です。生体搬送による徹底的な血抜きや素早い処理、丁寧なトリミングによって、臭みの少ない柔らかい肉質を実現した高品質に定評がある鹿肉ブランドです。やまとあるは、現在日本各地の飲食店への卸しと、WEBでの販売を行っています。

地域へつながる循環の仕組みを築く

笠井さんたちは事業をするうえで、動物や企業への好循環だけでなく、地域とのつながりにも強い想いがありました。

やまとあるの工房があるのは、京都府相楽郡笠置町。古くから鹿にゆかりのある笠置町は、キャンプ場やボルダリングエリア、笠置寺を筆頭に、自然豊かな地域です。

もともとは、融資を受ける銀行からの紹介でしたが、笠井さん達は地域の方々へのヒアリングで、現在はたくさんの農家さんが獣害被害に悩まされていることを知りました。

これが原因で実際に農業を辞めてしまったという方も少なくありません。また現在は、専業農家に比べ家庭菜園が多数を占めている為、農作物被害の総額として上がらず「見えない被害」が多い地域でもあります。

だからこそ、株式会社RE-SOCIALの行うジビエ事業は、多くの地域が直面する課題の解決にも繋げていくことができると笠井さんは言います。限りある資源を大切にし、消費者や地域まで利益を還元できるこの仕組み作りこそ、笠井さんたちが実現したいRE-SOCIALなのです。

龍谷大学は、ビジネスプランコンテストを始め、起業を支援するのための実践プログラムなどをもとに学生のソーシャルビジネスの起業のサポートを多方面から行っています。

今後も経済と社会どちらの利益も上げられるようなソーシャルビジネスの視点を養い、活躍していける学生起業家が数多く育っていくことに期待しています。