カフェ樹林
深草キャンパス内の真ん中にあり、学生も、職員も、近隣の住民の方も、誰でも気軽に利用できる「Café樹林」。バリアフリーで自然光が注ぐカフェは、障害者就労継続支援B型事業所(※)としての役割も担い、障がい者、引きこもりの学生たちが働いています。
今ではすっかりキャンパスに溶け込んだ「Café樹林」が、どんな道のりを歩んできたのか。実現に尽力された龍谷大学の加藤博史名誉教授と、「Café樹林」の店長を長年担っておられる河波明子さんに、お話を伺いました。その模様を2回に分けてお伝えします。
※障がいのある方が一般企業への就職が不安、あるいは困難な場合に、雇用契約を結ばないで軽作業などの就労訓練をおこなうことが可能な福祉サービス。
シルバーを基調とした円形の建築デザイン、どこか宇宙船のようで楽しい気分になりますね。
加藤/「Café樹林」は、龍谷大学深草キャンパスの修景事業のひとつとして、2006年に誕生しました。円形の空間をデザインしてくださったのは、世界的な賞に輝いている著名な建築設計士さん。身内に障がいをお持ちの方がいらっしゃるそうで、真心を込めて設計してくださいました。また「Café樹林」の名付け親は、当時の神子上惠群学長です。親鸞聖人の「讃阿弥陀仏偈和讃(さんあみだぶつげちわさん)」にある言葉「七宝樹林くににみつ 光耀たがひにかがやけり 華菓枝葉またおなじ 本願功徳聚を帰命せよ」に由来するもの。
緑豊かなキャンパス内で爽やかな風を感じながら憩い、樹々が成長するように人も成長し、人間と人間との関係を育くむ場となってほしいという願いを込められたそうです。
ノーマライゼーションの理念を大学が内側から実践し、ひいては地域社会へと発信していくために生まれたカフェだとお聞きしています。
加藤/私が龍谷大学に赴任したのは1998年。短期大学部のゼミで、社会福祉について、ノーマライゼーションの重要性について、学生たちに話をしていました。ノーマライゼーションとは福祉用語のひとつで、障がい者や高齢者などが特別扱いされず、役割を持って暮らせる社会を整備していく考え方を意味しています。そんなフラットな社会を作っていくことが大事だよ、と話しているにも関わらず、学生を実習に向かわせる障がい者福祉施設は、障がい者ばかりが集まっている。ノーマライゼーションから遠い、アブノーマルな世界です。そこに風穴を開けるのが大学の役割だと考え、まず2002年に障がいのある人が同世代の学生と交流できるオープンカレッジ「ふれあい大学」を開設しました。
それまで家族と、先生と呼ばれる専門職の人たちだけの小さな世界におられた障がい者が、大学生になる。4年後には学長のハンコを押した修了書をもらえることが、ふれあい生たちのかけがえのない誇りになりました。そして、ふれあい生から聞こえてきた「働きたい」という次なる目標を実現するため、それまで実習でお世話になっていた社会福祉法人向陵会に委託する形で、2006年春に「Café樹林」がオープンしました。
それは、障がい者雇用の場と雇用サポートの場となり、さらに、短期大学部を中心とする学生がインターンシップなどの形で共に働き、学生も実践的に学べる場にもなりました。障がい者と身近に接することにより、優しさの文化が学内全体に広がっていくことにも期待しました。
「Café樹林」が軌道にのるまで、ご苦労はありましたか?
河波/社会福祉法人向陵会の職員として、「Café樹林」と関わり始めたのは2013年です。当初は障がい者の子たちがまったく馴染めていないし、喧嘩が絶えないし、売り上げもままならない。現場を見て、これは真剣に取り組まなければならないと、自分の意識も変わりました。日々の売り上げを報告したり、ロゴを作ってみたり、加藤先生の研究室に時々お邪魔して、いろいろお伺いしたり。そうして動き続けているうち、いろんな学生がこの場に集まって、アイデアをくれるようになったんです。
どのような学生が集まってきたのですか?
加藤/とにかく素晴らしかったのはね。短期大学部社会福祉科(現:社会福祉学科)の学生だけじゃなかったということです。経済学部の学生5人がフェイスブックを立ち上げくれたし、軽音楽部の学生が「カフェ樹林」の歌をつくってくれた。美術部は看板をつくってくれましたよね。それも、河波さんがいてくださったおかげ。東北の野菜などを売るマルシェも盛況でしたよね。
河波/ここがあまりにも閑散としていましたから、学生のみなさんがお手伝いしないといけないと思ってくださったんでしょう。毎年、ボランティアで東北支援に行く学生が中心になって、東北の特産品をここで販売して、売り上げを現地に寄付するマルシェを開催しました。あと、印象に残っているのは、日頃は口数の少ない文学部の学生が、仏教用語とその解説を「Café樹林」のツイッターで365日発信しくれたこと。その感動は、すごく大きかったです。