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エチオピアに魅せられた地域研究者が
オリジナル地下足袋で歩き続ける協奏の旅【後編】

中学生の時、スタディーツアーで訪れたエチオピアが、人生のフィールドに。「将来は、エチオピアのためになる仕事がしたいと」という気持ちをあたため続け、地域研究者になった経済学部現代経済学科の田中利和准教授。2007年の再来当初、フィールドワークの目的は牛耕の調査でしたが、いつしか焦点は予期せぬ方へ。裸足で畑に入ると激しい痛みに襲われる黒土から農民の足を守ることが、課題として浮かび上がりました。現地の仲間、研究仲間と二人三脚で進むうち、視界はどんどん広がり続けています。後半は、この世にもユニークなエチオピア産の地下足袋「エチオタビ(Ethio-Tabi)」プロジェクトの全貌についてご紹介します。

編集部:ご自身で耐え難い痛みを経験した黒土の農作業、実はエチオピアの人にとっても痛くて苦痛なものだった。その気づきを課題と捉えたエチオタビのプロジェクトは、どのように動きだしたのですか。

田中:最初はアフリカで地下足袋を普及させる計画をさまざまなコンテストに応募して落ちまくりましたし、中には馬鹿にする人もいましたが、「メゾンマルジェラ」のTabiシューズの影響もありヨーロッパの研究者からは手応えのある反応を得ていた。なによりエチオピアの人も面白がってくれていた。アクションしながらどんな化学反応が起きるのか、とことんやってみよう!という気持ちが強かったです。大きく動き出したのは「京都大学学際研究着想コンテスト 1枚でつたえるイノベーション」で優秀賞を受賞した2013年あたりから。大まかに言えば、エチオピアで地下足袋を作り、産業も作るという内容が認められ、その提出案に改良を重ねた研究計画が2016年度の文部科学省の科学研究費助成事業として、2016〜2018年の期間で採択されました。

 

編集部:現地のありのままを調査するというフィールドワークの領域を飛び越え始めたわけですね。

田中:ただ観察者として調査するのではなく、飛び越えて一緒に問題解決していくフィールドワークをやってもいいんじゃないかと。現地の一員としてアイデアをエチオピアに持ち込んで、彼らの生活を豊かにしてくれるものを現地の物資で作りだす。そんな考えが育っていきました。3年という期間を有益なものにするために、研究計画で設けたのが「つかう」「つくる」「うる」「つたえる」という4つの実践です。「つかう」に関しては、岡山県倉敷の老舗地下足袋メーカー「丸五」さんから最初に提供していただいた30足を農家に届け、使用に関する情報を収集しようとしたのですが、地下足袋を奪い合うという状況になり断念。「つくる」に重点をシフトしました。「つくる」プロセスは、首都から115キロ離れたウォリソというずっと滞在してきた農村と街で、職人を探すことから開始。以前から友人だったカッバラくんという革の職人の協力を得て、2017年1月21日にようやくプロトタイプがでてきた時の感動といったら!私が知っている限りではアフリカ地下足袋第一号、この日はエチオタビの誕生記念日です。2017年夏からは、革の特性を考えながらハイカットにしたり、ジッパーをつけたり、脱げずに履けてデザインも優れたものを試行錯誤。2018年には200足を製作する目標も達成。その製作中に、看板をつくったり、展示会をしたり、「うる」「つたえる」に移行していきました。「丸五」さんから情報提供もいただき、縫い付け式で底がはがれないエチオタビの
試作品も完成。今ではカッバラくんの工房に行けば、デザインもサイズも多彩なエチオタビを作ってくれて買えますよ。

編集部:2020年以降、コロナ禍で渡航することもできない状況です。プロジェクトはどうなっていますか?

田中:コロナ禍でもFacebookのMessengerの通話機能で農民に渡してきた労働用のエチオタビは、「この季節はたいへん重宝したよ」「足場が悪い日だけ使っている」など使用状況の声は届けてもらっています。エチオピアの農民たちの足を守る、エチオタビ着装文化の種がようやく芽吹いてきた。これからは「つたえる」ことにもっと尽力したいです。それも、専門分野が異なる仲間を巻き込みながら。イメージは、自分たちの持っている楽器を奏でて共鳴する、アンサンブルや協奏でしょうか。2018年以降も、当時東北大学材料科学高等研究所・助教の甲斐洋行さんと「エチオタビセンシングのための異業種連携のプロトタイピング」、東北大学大学院医工学研究科・特任助教の伊藤大亮さんと「エチオピアのとある村人達の身体機能を診てみました」などの共同研究のフィールドワークをパネルで発表し、サイエンス的に地下足袋にまつわる価値や意味づけを検証。さらに2020年には、美術家の是恒さくらさんが中心となって協働で、現地の人に描いてもらった絵とエチオタビを一緒に展示しました。帰国後、その原画を編集し、英語、日本語、オロモ語、アムハラ語の4ヶ国語併記の絵本『うしのあし ひとのあし』を作成。エチオタビのことも、ウォリソのことも知ってもらえる絵本を携え、日本のいろんな人や場所とつながりながら活動を盛り上げていきたいです。

編集部:エチオタビと仲間が、ひとりではたどりつけない場所に連れて行ってくれますね。

田中:エチオタビに関する発表を最初にしたのは2011年でした。このプロジェクトの面白いところは、僕が仕掛けてはいるけれど、エチオタビ自身が勝手に進んでいくと感じることがあることころ。やればやるほど多彩に変化し、歩いてくれていると感じています。5年、10年後、想像もできない化け方をして、みんなに面白がってもらいたい。もちろんエチオピアの人の足を黒土の痛みから守るという原点は決して忘れず、より良い社会にエチオタビとともに向かっていきたいです。

編集部: エチオタビのストーリーは、フィールドワークに関心のある学生にとって良い刺激になりそうです。

田中:経済学部現代経済学科で担っているゼミナールのテーマは「アフリカにまつわる企業と起業」。最近は、若い世代もどんどんアフリカとつながり、新しいことを仕掛けています。学生たちになにか伝えられることがあるとしたら「やりたいと思ったら、迷わずやりなよ」ということでしょうか。考えすぎないで、まず動くこと。それは、研究だけでなく人生にも言えることです。エチオタビと歩んできた僕の人生みたいな生き方もあることを、少しでも自身の参考にしてもらえれば嬉しいです。

前編もあわせてご覧ください。

Infomation

エチオピアの農民たちの足を守り、より良い未来へと歩を進めるために生まれたエチオタビ。実物に見て、触れられる特別展のお知らせです。開催中~2022年5月22日(日)に、龍谷大学の学生が運営している「カフェリタ」(龍谷ミュージアム1階)にてエチオタビ展が開催されます。これまでの研究をこれからの社会につなぐ特別展は、入場無料。興味のある方は気軽に覗いてみてください。

https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-10421.html?msclkid=4a86798fd02b11ecb0ea2d4b73eabf8b