2021年9月、龍谷ミュージアム1階のスペースに「café rita(カフェ リタ)」がオープンしました。実はこのカフェを運営しているのは龍谷大学に通う学生のチーム。企画を立ち上げ、ドリンクやスイーツの仕入れ先を探し、実際にエプロンをして提供するところまで、全て自分たちで行っています。自らを省みて他者のために行動する、龍谷大学が掲げる行動哲学「自省利他」にちなんだ店名のカフェは、一体どのような経緯で誕生したのか、3人に話を聞きました。
授業と両立しながら3人で週2日営業
人懐っこい笑顔で常連さんとの会話を楽しむ前田滉太さんと、カウンターに立ちハンドドリップでコーヒーを淹れる高岸武美レスターさんは国際学部2年生。大学近くのパン屋でアルバイトをしていて2人と出会った石澤優紀さんは文学部3年生。毎週水曜と日曜の10~17時、週2日限定で「café rita」を営業しています。
カフェの構想が持ち上がったのは2021年の夏頃。3人でごはんを食べながら「誰もが集えてホッとできる居場所を作りたいね」という、なにげない会話が全ての始まりでした。
地域の活性化を専門にしている教員に相談したところ、「ミュージアムの人達がスペースの活用を検討しているよ」という情報を入手。龍谷大学が公募する『2021年度仏教活動奨励金※』なども利用し、動き出してから数カ月という驚きのスピードで「café rita」をオープンさせました。
※建学の精神に象徴される龍谷大学の設立の意味に鑑み、宗教的価値観を醸成し、仏教(宗教)を基盤とした活動を奨励することを目的とし、学生に給付する自己応募型の助成金。
コロナ禍で初めて感じた孤独と不安
コロナ禍において、学生も、ご高齢の人も、休業せざるを得ない人も、離れた家族と会えない人も…みんなが漠然とした孤独や不安を抱えました。そんな孤独や不安がある人の心を少しでも癒せたら、というのが「café rita」のテーマです。いつかカフェがしたいね、と話すだけで終わらず、すぐ行動に移せたのは、コロナ禍の影響が大きかったと3人は言います。
「私は山形県出身で、コロナ禍ではなかなか実家にも帰れず、大学の授業もオンラインになっちゃって、人と会う機会がなくなって、とにかく寂しかったです。2020年の春は2年生だったので友達はいるけれど、会えない状況。コロナ禍を通して、人とつながれる場所があったら、と強く思うようになりました」(石澤さん)
「入学のタイミングと同時にコロナ禍に突入。入学式もオンライン形式でしたし、そこから半年くらいは兵庫県の実家にいました。大学生になったばかりでパソコンにもそんなに慣れていませんでしたし、履修ってなに?という状況なのに、相談できる先輩も友達もゼロ。前期は無我夢中でしたね」(前田さん)
「僕は静岡出身なのですが、2020年の1年生の前期はずっとオンライン授業。京都に行くこともなく静岡で暮らしていたので、大学の友達はいなかった。9月下旬に京都に来ましたが、当初はしゃべれる友達も全然できなくて、孤独を感じていました。そんな時に、同じ学部の前田と知り合い、一杯のコーヒーを飲みながらいろんなことを話せた時間がすごくありがたかった」(高岸さん)
一人じゃないことを感じられるように
新鮮な気持ちでキャンパスに通い始めた2020年の秋、学校の帰りにコーヒー店で語らい、すぐに意気投合した前田さんと高岸さん。まちのパン屋さんと大学とを繋ぐ「きょうパン」という独創的な活動をはじめ、深草キャンパス近くのパン屋「BOO」でアルバイトをしていた石澤さんとも知り合います。
コロナに負けず何か行動したい、けれど何もできていないという、同じ葛藤を抱いていた3人。どうすれば、誰かの役に立てるのかと考えた先に見えたのが、地域のコミュニティスペースの役割を果たす、カフェ空間でした。
店内には、ひとりで寛げるテーブル席のほか、3人でDIYしたという大きなメインテーブルの席も配置されています。大きいテーブルを知らない人同士が囲んで、気軽に話してほしい、そんな思いで手作りしたそうです。
ここから新しい繋がりが生まれるよう
カフェで提供するコーヒーは、起業した龍谷大学卒業生の営むコーヒー豆の輸入販売店「アカイノロシ」からタイ産のフェアトレードのコーヒー豆を。紅茶は龍谷大学経営学部藤岡ゼミと高級紅茶ブランド「ムレスナティーハウス」がコラボレーションしたオリジナルブレンド紅茶「深草“OTOME”」を使用。
コーヒーと相性抜群の洋菓子カヌレは3人が大好きな深草キャンパス近くのパン屋「BOO」から、月替りの和菓子は「café rita」のすぐご近所にある「亀屋陸奥」から仕入れています。
「メニューで扱う商品は、僕たちと何か繋がりのある方のものばかりです。だから商品の良さはもちろんですが、商品の背景やストーリーも一緒に紹介していきたいなと思っています。ご近所にあるうどんの名店「大阪屋」さんみたいに、いつものあの人がいて、いつもの味があるから安心できる。そんな場づくりをめざしています」(前田さん)
「僕が前田さんとコーヒーをすすりながら、いろいろ語り合って今があるように。コーヒー1杯からはじまる物語があると思っていて。一緒にコーヒーを飲みながら、一緒に何かを考えるってリラックスできるし、相手との距離も縮まりやすい。学生が話している会話に地域の方が混じっていける、そんな環境が作れたら嬉しいです」(高岸さん)
「この間も、農学部の学生が私たちのツイッターを見て、わざわざ休みの日に来てくれて。たまたま同い歳だったこともあり話が弾んで、新商品に対する貴重な意見をもらいました。学生間の繋がりも少しずつ増えてきているし、経営学部、政策学部、農学部など、いろんな学部を巻き込んで、いろんな人と新しいこともやっていきたいです」(石澤さん)
前田さんはイラスト、高岸さんは写真、石澤さんはアクセサリーと、それぞれの得意ジャンルを活かしたイベントを不定期に開催するなど、新しい繋がりがどんどん広がっています。地域住民、学生、龍谷大学卒業生、観光客など、様々な人を繋ぐ「café rita」の今後の活動に期待が膨らみます。
前田さんが作成したホームページはこちら