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みんなの仏教SDGsウェブマガジン ReTACTION|みんなの仏教SDGsウェブマガジン

一人ひとりが「志の炎」を燃やして輝く存在に
インクルージョン経営で社会を明るく照らしたい

龍谷大学在学中、ノーマライゼーションの理念を発信する「カフェ樹林」で恩師や同志と出会い、自分が進むべき道に光が射したという後藤大輔さん。2018年に実店舗を構え、大丸京都店にも出店している「株式会社 革靴をはいた猫」取締役、2019年に設立された「一般社団法人 日本インクルージョン協会事務局」次長を兼任しながら、2022年4月8日には「株式会社たいまつ」を創業。「人を活かす組織文化」の普及に情熱の炎を燃やす、後藤さんにお話をお聞きしました。

※ノーマライゼーションは福祉用語のひとつで、障がい者や高齢者などが人と平等に生きるために、社会基盤や福祉の充実などを整備していく考え方を意味しています。

ノーマライゼーションの活動を事業に

社会の仕組みに合わせて障がい者が変わるのではなく、障がい者があるがままで生活できるよう社会が変わっていけるように。龍谷大学内にある「カフェ樹林」を拠点に活動する同好会「チーム・ノーマライゼーション」から生まれた「革靴をはいた猫」。靴磨きと靴修理の専門店として、現在は御池店、大丸京都店という2店舗を経営しています。その立ち上げに尽力した後藤大輔さんが2022年4月8日、偶然にもお釈迦様のお誕生日と同じ日に「株式会社たいまつ」を設立しました。人的資本経営やウェルビーイング経営をめざす企業に対して、研修やコーチング、組織風土づくり支援サービスなどを行っています。

「昨今、人事関係者がよく口にする言葉のひとつに、人的資本経営があります。人材を人件費のかかるコストとみなすのではなく、投資をして育てる資本だとみなし、人を大切にして育てていける、そんな組織活動をしていきましょうという気運が高まっています。成長する企業には必ず良い人材がいる、人材こそ最大の競争力だと、社会が気づき始めたのです。しかし、具体的にどのように人を育て活かす組織を作ればいいかは多くの企業が手探りの状況です。人を育て活かす組織をスタンダードにするために「たいまつ」を創業しました。」

障がい者就労支援の事業所ではなく、株式会社として発展を続ける「革靴をはいた猫」と日本インクルージョン協会に籍を置く後藤さんのもとには、障がい者雇用に関する問い合わせも少なくないそうです。

「様々な企業が障がい者雇用に取り組んでいますが、なかなかうまくいかない。それは障がい者雇用を、特殊な狭い領域の話だと捉えているからです。人事部があって、その中にダイバーシシティ部門があって、障がい者雇用の担当がいる。落ち込みやすく、自分の強みを見出せていない人材をマネージメントし、活かせる仕組みではありません。そもそも障がい者雇用という枠組み自体に無理があるのだと思います。必要なのは、障がいの有無に関係なく、お互いを高めながら全員を活かせる組織をめざす、インクルージョン経営なのだとお伝えしています」

くすぶっていた心に炎を点けた出会い

現在、インクルージョン経営に関する依頼を受け、多方面で活躍する後藤さんだが、大学までの道のりは順風満帆ではなかったそう。

「小学校4年生で不登校になったことをきっかけに、心を開くことが無意識に怖くなり、深く考え込むタイプになりました。高校時代は勉強が手につかず、本屋さんで見つけた脳科学、心理学を読みあさっていましたね。大学に入学してからも、行く意味が見出せずに半年で休学。心から望む目的が見つからず、何をしてもしっくりこない、内側から湧いてくるものがないことに悩んでいました」

内側から湧いてくるなにか、生きる目的を示してくれたのは、「カフェ樹林」の店長を務める河波明子さんでした。障がいという概念を超えて若者がともに学び合っていく場づくりのために尽力する河波さんから「チーム・ノーマライゼーション」の基礎となる教育メソッドを作ってくれない?と提案された日から、後藤さんの心に炎が灯り続けていると言います。

「マザーテレサのもとで働いておられたお話など、河波さんの言葉はとても新鮮で。社会のために自分を活かすことを心から楽しんでいました。そんな河波さんから、これまで深く考え悩んできたこと、抱えてきた葛藤は他の人の力にできるんじゃないのって。あなたが実体験から得た学びを、若者を育てるためにメソッド化してほしいとおっしゃったんです。それがすごく嬉しくて。初めて本気で追いかけたいと思える目的が見つかった瞬間でした。その瞬間の視界に光が射したような感覚は、今も鮮明に覚えています」

人の心に灯った炎が社会を明るくする

「株式会社たいまつ」をつくるきっかけとなったのも、誰かの心に炎を燃やすサポートをしたいと考えたから。ロゴマークに描かれた赤々と燃える炎は、一人ひとりの心の中に必ずある「利他の心の炎」をイメージしているのだそう。

「職場を見ても、障がい者とそうでない人の区別がつかない「革靴をはいた猫」は、まさに障がいの概念なく働けるインクルーシブな現場です。一人ひとりが炎を燃やし仕事に打ち込める環境だと言えると思います。そのための組織づくりや教育自体を事業化して、「株式会社たいまつ」が担おうと。教育研修も長期に渡るものから、イベント形式のものまで様々です。先日は、先入観を壊しコミュニケーションを良好にするボードゲームの研修を開催。チーム・ノーマライゼーション時代からの後輩の岡村勇輝くんが3年を費やして作ったボードゲームが素晴らしいんです。斬新なゲームだったと参加者からもご好評いただきました。これからも、いろんな人や法人を巻き込みながら、社会自体のたいまつを燃やしていきたいと思っています」

「株式会社たいまつ」が次の目標地点にしているのは、2025年の大阪万博。「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマは、人間一人一人が、自らの望む生き方を考え、それぞれの可能性を最大限に発揮できるようにするとともに、こうした生き方を支える持続可能な社会を、国際社会が共創していくことを推し進めることを意味しており、まさにインクルージョンやウェルビーイングの概念とも重なります。

「2025年万博のレガシーは、それ以降の社会に普及していくと思いますので、万博をマイルストーンと捉えて、各方面と連携しながら大きな動きを作っていきたい。インクルーシブな社会をつくるためにどんなことができるか。企業、行政、学校、若者、市民もみんな一緒になって考え、人を大切にする組織風土が当たり前になる社会をめざし「株式会社たいまつ」は進んでいきたいです」

心にあるのは同じ色、大きさの炎じゃなくていい。既に心の炎が燃え上がっている人がいれば、別の誰かの炎が燃え移ることもある。そうして、それぞれのタイミング、それぞれの出会いをきっかけに、炎を燃やしていけば、世界はおのずと明るくなっていくと語る後藤さん。これから社会に出る後輩たちにも心温まるメッセージをくれました。

「自分の心の奥底にある本心、欲とか煩悩ではなく、それよりもっと奥にある素直な心に従うようにして、人生の決断をしてほしいなと思います。そして、今それができなかったとしても、人生はいつからでもやりなおせることも知ってほしいです。心ある人はどこかに絶対にいるし、決してひとりで考え込まない方がいい。素直な心に従って行動すれば、新しい出会いが起こってくるし、生きる目的もきっと見えてくるはずです。自分も他者も幸せになれる道を見つけ、行動できる人になって欲しいと思います」

株式会社たいまつは、12月20日(木)にカフェ樹林で行われる「就活生のためのボードゲーム企画」(カフェ樹林・チームノーマライゼーション主催)に協力しています。龍谷大学生対象に、企業研修で活用している、オリジナルボードゲームを楽みながら、ゲームを通じてコミュニケーションを取ることで、自己表現を学べる内容になっています。是非ご覧ください。
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-11712.html