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みんなの仏教SDGsウェブマガジン ReTACTION|みんなの仏教SDGsウェブマガジン

生きづらさを抱え可能性を眠らせる若者の
働く意欲に平等に応える社会へ

ノーマライゼーションは福祉用語のひとつで、障がい者や高齢者などが人と平等に生きるために、社会基盤や福祉の充実などを整備していく考え方を意味しています。

「Normalization」という英語の意味は「標準化」「正常化」。社会の仕組みに合わせて障がい者が変わるのではなく、障がい者があるがままで健常者とともに生活できるよう社会が変わっていく、「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」の視点も含まれます。

平成28年より施行された「障害者差別解消法」や、平成30年に義務化された「障がい者雇用促進法」でも、ノーマラーゼーションは重要な概念として注目を集めています。教育や福祉、介護といった限られた分野だけでなく、あらゆる領域においてノーマライゼーションの考え方が浸透し始めているのです。

龍谷大学の同好会のひとつ「チーム・ノーマライゼーション」は、障がい者や引きこもりという言葉を超えて若者が共に学び、「働く」という夢に向かって挑戦を続けています。

障がい者と学生、若者が共に学び、高め合う「トリムタブ・カレッジ」

「チーム・ノーマライゼーション」主体の就労移行支援プログラムの柱となるのが、「トリムタブ・カレッジ」です。

トリムタブとは、舵の先端にある小さな部品のこと。この部分が動くことで、はじめて船全体が動き、大きな船の進路を変えることができる。このことを引用し、20世紀を代表する思想家・バックミンスター・フラーは「か弱い個人でも最大限の決意を以って正しいことを行えば、人類という巨大な船を動かし得る」と主張しました。

「トリムタブ・カレッジ」という名前には、「関わるすべての若者と障がい者が自らの行動によって周囲に良い影響を与えられる人になろう」という想いが込められています。「トリムタブ・カレッジ」は、「チーム・ノーマライゼーション」と社会福祉法人向陵会が連携し、「障がい者と学生、若者が共に学び、高め合う場を創りたい」と開講され、障がい者や引きこもりの若者がカレッジ生として参加しています。2年間のカレッジ生活では、他者への思いやりを大切にしながら、発言や議論を重ねる座学「人格を磨くメソッド」と、「技術を追求する4つの実践」を軸としたカリキュラムを実施しています。

まずは独自メソッドで人格を磨き、実際の現場に出向いて学びを得る

座学で行うメソッドは、「トリムタブ・カレッジ」の土台です。自分自身が変わることで、周囲に良い影響を与える人間になることを目標とします。受講当初は戸惑いもあるカレッジ生が、座学への参加を重ねることで自信を持ち、進んで発言する力を身につけていきます。また、学生もそんなカレッジ生たちの変化に刺激を受け、自分たちの日々の行動、言動を見直していくのです。

実践部門には、「飲食(カフェ事業)」、「靴磨き」、「英会話」、「ボードゲーム」という4つのコースを用意し、実践を行っていきます。2年目には企業へのインターンも実施し、就労への準備につないでいます。

飲食(カフェ事業)

龍谷大学深草キャンパス内にある「Cafe樹林」のカフェ業務と接客が主な実践。単純作業を反復するのではなく、フードを仕上げたり、ドリンクを提供したり、レジ精算をしたり、接客を担当したり、さまざまな仕事を経験します。

靴磨き

龍谷大学発のソーシャルベンチャーである「株式会社 革靴をはいた猫」様にご協力いただき、靴磨きの研修を実施。「靴磨きは、心みがき」を合言葉に、お客様とのコミュニケーション、礼儀や身だしなみを学び、1人の職人として自立することをめざします。

英会話

日常的に使える英語のフレーズや単語を、クイズやカルタなどのゲームを交えて紹介しています。時には、外の世界への視野を広げることを目的に、留学経験のある学生の留学先でのエピソードや写真も紹介しています。

ボードゲーム

コミュニケーションの促進を目的として、オリジナルのボードゲームの開発を行なっております。「協力」や「対話」をテーマにした、新しい形のボードゲームを、どのように楽しんでもらえるか等様々な意見交換を行いながら共に創造しています。

学生とカレッジ生、社会をつなぐ「Cafe樹林」というプラットホーム

「トリムタブ・カレッジ」の拠点であり、飲食コースの実践の場となるのが、龍谷大学深草キャンパス内にある「Cafe樹林」です。学生たちが自由に寛げる学内カフェであるとともに、障がい者就労継続支援事業所としての役割も果たしている、全国的にみても珍しいカフェとして注目されています。

キャンパスで学ぶ学生をはじめ、職員、さらに地域の方々も自由に出入りできる「Cafe樹林」。しっかりお腹を満たせるランチメニュー、手作りサンドイッチやケーキといった軽食、コーヒー一杯で寛ぐこともできます。使い勝手がよく、すべてのお客様が心地よく過ごせる空間を、みんなで作り上げています。カレッジ生は、お客様に喜んでもらうことを優先して考え、チャレンジを積み重ねることで、咄嗟の判断やコミュニケーション能力を高めていきます。

最初は知らない人とのコミュニケーションを苦手にしていたカレッジ生も、経験を積むうちに接客の楽しさを実感。「もっとこうすれば喜んでもらえるのでは」「こんな新メニューを増やしてはどうか」と、主体的に考える習慣を身に付けていきます。

また、カフェメニューを提供する通常業務を飛び越えて、キャンパス内でコーヒーイベント、音楽サークルと連携した店内ライブなども行っています。学生が考えた企画に、障がい者がただ参加するのではなく、企画の段階から一緒に意見を出し合い、より多くの方から愛される場づくりを追求しているのです。

若者が共に学び合い、多くの方々と接する環境の中で芽生えていくのは、障がい者やひきこもりの若者の「働く意欲」です。「働く意欲」が根底にあれば、技術習得に向けて努力を続けていけます。カフェメニューの知識が増え、対応力やコミュニケーション能力を高めることは、人生の大きな糧に。将来、どんな職業についてもカフェでの学びと経験が活きる実践をめざしています。

また、ともに学ぶ「チーム・ノーマライゼーション」の学生にとっても、「Cafe樹林」での学びは机上では得られない貴重な体験です。障がいを持っていない人にも、苦手なこともあれば、得意なこともあります。

「働く意欲」さえあれば、お客様に喜んでもらうことはできる。障がいを持っている、持っていないということは関係なく、ひとりの人間として関わっていく、本質的な人のつながりに気づきます。他者のためを思って実践できる人が増えること、それはSDGsの理念にある「誰一人取り残さない」社会に近づくこと。「Cafe樹林」は、学生とカレッジ生、そして社会をつなぐプラットホームであり続けます。