龍谷大学は学生発ベンチャーの発掘・育成を目的に、ビジネスプランコンテスト「プレゼン龍(ドラゴン)」を2001(平成13)年度から開催しています。2022年度は、先端理工学部と農学部の学生4名による、貨物コンテナ内で大豆の種まきから収穫までを自動で行う「可搬型全自動 栽培システム」が準グランプリに輝きました。
今回は、リーダーの小熊 龍さん(先端理工学部 機械工学ロボティクス課程/4年)、金谷 悠斗さん(先端理工学部 数理・情報科学課程/4年)、神谷 悠さん(先端理工学部 機械工学ロボティクス課程/4年)、楠 凌太朗さん(農学部 資源生物科学科/4年)に、システムの概要と課題、展望についてお聞きしました。
先端理工学部×農学部の学生がタッグを組む
ビジネスプラン「可搬型全自動 栽培システム」は、先端理工学部と農学部の学生4名によるアイデアです。4人は、龍谷大学付属平安高校で同じクラスでともに学び、龍谷大学に進学した仲間です。小熊さんと神谷さんは、「単三電池で動く自動車(Ene-1)」の活動で、龍谷エクステンションセンターが開催する「プロジェクトリサーチ ポスターセッション評価報告・表彰式」でもREC センター長賞を受賞しています。今回、「可搬型全自動 栽培システム」のアイデアを出したのは、リーダーの小熊 龍さんです。
「東日本大震災のとき、私は小学生でした。震災を機に福島県から移住してきた同級生が『福島には、避難生活を続けている友だちがいる』と話してくれたとき、自分が何か助けられることはあるだろうかと思いをめぐらせました。当時は子どもだったので何もできませんでしたが、2023年2月のトルコ・シリア大地震でふたたび、支援について考えました。地震だけでなく台風など自然災害がおこったとき、まず必要になるのが食料です。物資は被災地に運ぶ必要がありますが、道路が遮断されるなどで輸送できない場合もあります。そこで、『災害時に食料を現地調達できる』『安定的に生産できる』『生産管理に手間がかからない』『太陽光発電で運用するため電気代がゼロ』『被災地にコンテナごと運ぶことができる』方法として思いついたのが、可搬型全自動 栽培システムです」。(小熊さん)
「このシステムで栽培するのは大豆です。日本の食料自給率はカロリーベースで38%。多くの食料を輸入に頼っています。大豆はそのまま食べるだけではなく、納豆や醤油、味噌などの加工品、若採りして枝豆として、と私たちは毎日口にしていますが、大豆の国内自給率はわずか7%です。国産大豆は価値があり高価格で取引される、高齢の農家や若い新規就農者が参入しやすくなる、地方で使い道に困っている土地を活用できるといったメリットが考えられます。大豆は乾燥させたり、加工したりすれば保存期間が長くなるため、今後予想される食糧難や、大規模災害に備えることもできるでしょう。
大豆をはじめとするマメ科は、土の中で根を伸ばし、根に着く根粒(こんりゅうきん)菌と共生します。根粒菌との共生で空気中のチッ素をアンモニアに変え、生育に欠かせないチッ素を大豆に供給するという特性があります。しかしマメ科植物は水の中に根粒菌が存在しないと育つことができません。大豆の水耕栽培を成功させるのがこれからの課題となります」。(楠さん)
ロボットアームやアプリ開発で独自性を出す
彼らが考案した栽培システムを説明してもらいましょう。
「栽培するコンテナは、長さ12メートル、幅2.5メートル、高さ3メートルを想定しました。一般的な貨物コンテナと同じ大きさです。栽培は、塩ビ管を棚のように組み上げたもので行います。そして、穴を開けた塩ビ管の中にスポンジを入れ、大豆の種子をスポンジに蒔きます。塩ビ管には培養液を流し、水と栄養を補給します。大豆は熟すと勝手にサヤが落ちるので、落ちたサヤはベルトコンベアを使って収穫ボックスに入ります。大豆がなくなった苗はロボットのアームで引き抜き、これもベルトコンベアで除去します。2回目以降の栽培には、収穫した大豆の一部をタネにします。空いた塩ビ管にアームでタネを植え付けていく、という流れです。人間の仕事は、水と液肥の補充と、集積した作物の回収のみです。
コンテナ内の天井には空調や照明を取り付け、生育環境をコントロール。庫内360度カメラで内部の様子をスマートフォンに送ることもできます。家庭用電気を使うと年間の電気代は118万円という試算が出ましたが、このシステムではコンテナの屋根に設置した太陽光パネルで発電した電気を使うので、電気代はかかりません。必要な運用費用は、液肥、交換フィルター、補充用の水で年間8144円となります」。(金谷さん)
手間いらずの栽培で「災害時の食料になる」「人手不足を解消」
「水耕栽培は既存の方法論を応用できますし、コンテナや塩ビ管は市販の製品を安く入手できます。今回、準グランプリをいただいたことをきっかけに、瀬田キャンパス内の創業支援ブースを使えることになりました。これからブースで着手するのは、ロボットに取り付けるアームの開発です。アームは3Dプリンタで造形します。また、制御コンピュータ、映像中継アプリ開発も行います。コンテナでの実用化を目指すため、まずは小さい箱での実験に着手したいと思っています。ただ、大豆は栽培期間が長いため年に2回しか収穫ができず、コストの回収に時間がかかります。年に6回収穫できる、サニーレタスなど葉物野菜の栽培も同時に試していきたいと思います」。(神谷さん)
「栽培コンテナのビジネスプランとしては、自分たちで収穫物を売るほか、使っていない土地がある自治体に栽培コンテナを貸し出し、システムのノウハウを提供することで利益を得る方法を考えています。大豆の水耕栽培など課題はありますが、栽培システムのハード面については、すぐに開発に取り掛かることができます。災害時の備えや省人化といった特徴があり、ポテンシャルは大いにあります。学部卒業までは1年しかないため、どれだけ開発を進められるかわかりませんが、院に進学してからも研究を続け、プロトタイプをつくりたいです」。(小熊さん)