プレゼン龍
「すべての人間は生まれながらにして起業家です」
社会課題の解決に取り組むソーシャルビジネスの重要性を説き、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス博士は、龍谷大学での講演の中でこう語りました。
「もし、自分が望む仕事がなかったのなら、自分でつくり出すことも考えてみてください。人間は誰しも内なる素晴らしい創造力を持っています」と。
龍谷大学は、学生が自ら課題を見いだし、解決のためのビジネスを創造することをコンテスト形式でサポートするプログラム「プレゼン龍(ドラゴン)」を実施しています。
大学発学生ベンチャーの発掘・育成を目的に毎年開催されており、20年以上の歴史を持つプログラムで、これまで多くの学生ベンチャーを輩出し、関西の大学でも有数の実績を誇ります。
起業家育成における、この数年の重点テーマはSDGs。貧困や飢餓、健康、福祉、エネルギー、環境保全など、世界で解決すべき社会課題を身近なところから考え、事業を通して解決する“社会変革の担い手”の育成をめざしています。
実際に「将来に希望を感じにくい状況を打ち破りたい」「世の中の矛盾を解消したい」と社会貢献に意欲的な学生は増えており、ここ数年の受賞者は、社会課題の解決を目指す「ソーシャルビジネス」が中心になってきているのだそうです。
ビジネスプランコンテスト
「プレゼン龍(ドラゴン)」とは
参加資格は、代表が龍谷大学に所属する学生であることだけ。
個人・チームを問わず、広くビジネスプランを募集。書類審査、面接審査を勝ち抜くことでコンテストへの出場権を手に入れることができます。
コンテストでは、大学教員や、有識者からなる審査員を前に、ビジネスプランの「新規性」や「完成度」、「実現可能性」をプレゼンテーション形式で発表し、グランプリを決定します。
高い意欲を持ち、様々な人の力を借りながら、課題に対して果敢に挑戦していく「起業家精神」を養うのがねらい。
現実を疑い、大人たちが見過ごしてしまうような課題に対して理想的な未来を描く学生ならではの感性、実現に向けた行動力には驚かされるものがあります。一方、実現可能で収益性のあるビジネスにまで落とし込むところに、多くの学生が頭を悩ませます。
それを乗り越え、見事にグランプリを獲得した学生は、実際に起業することも。しかしながら、経営基盤が弱いベンチャービジネスは事業継続が最大の課題。そのため起業した学生には、卒業後も相談や経営資源の仲介など継続的な支援で経営の安定化を後押しします。
とはいえ、プレゼン龍の目的は起業家を多く輩出することではありません。生まれた“社会変革の芽”が育ち拡がることで、持続可能な社会に貢献することです。
学生が活躍し続けられるようにサポートすること、社会を動かす原動力となる起業家精神を身につけた人材を育てることを重要視しています。
プレゼン龍から生まれたソーシャルベンチャー
2019年のグランプリに輝き起業した「株式会社RE-SOCIAL」は、獣害を防ぐために駆除・廃棄されていた野生動物を食材として活用するジビエ事業を提案しました。
京都府笠置町では、過疎化、猟友会の高齢化に伴って、鹿や猪の個体数は増加し続け獣害による環境破壊に悩まされておりました。被害抑制のため、捕獲や銃殺が不可避でしたが、適切に処分することが出来ず、9割が埋設・焼却処理されています。
RE-SOCIALの発起人である笠井大輝さんは「一つ一つの命を最後まで大切に扱うためにジビエの流通を増やしたい」「持続可能な仕組みを作りたい」と起業を決意。
捕獲から処理、流通までを一貫して管理し、野生動物の適切な個体数の調整と、食肉の安定共有を両立するビジネスにチャレンジしています。
タイの少数民族が手掛ける上質なコーヒーを、品質に見合う適正な価格で流通させるビジネスに取り組むのは「株式会社アカイノロシ」。
豊かな自然環境に育まれたタイ山間部。少数民族による手作業で丁寧に選別された豆は、その手間に反して、非常に低価格で取り引きされており、必要な収入を得られない現地の農家さんが大勢いました。
コーヒーを飲んだこともなかった矢野龍平さん、三輪浩朔さんがこの課題に奮起。
プレゼン龍ではグランプリこそ逃しましたが、困難を乗り越え、モノやヒトの価値が適正に評価される社会の実現を目指すべく、2017年に起業。2020年10月には焙煎所兼店舗「Laughter」もオープン。雑味がなく、生命力を感じるような、はじける酸味と芳醇な香りが特長のコーヒーです。
持続可能な社会に向けて、
誰もがアントレプレナーシップを持つことが重要
コロナ禍を初めとして、これからの急激な社会変動には、様々な社会課題、つまりチャンスが広がっています。そのため、起業を志す学生だけでなく、誰もがアントレプレナーシップを持つ必要があります。
市場調査、課題設定、需要創造を見据えた仮説検証、システム思考やデザイン思考を駆使したビジネスモデルの設計、プロトタイプ作成、収益モデル設計、資金調達のためのプレゼンテーションなど… 起業に必要な能力はプログラムの中で身に付けていきます。
しかし最も重要で、必要なのは、困った人がいる社会を変えたいという想い。そして、課題との出会いです。
学生ベンチャー育成事業に継続して携わってきた深尾昌峰教授は「龍谷大学の学生全員が必修で受ける仏教の思想が、学生の考えに根付いている」といいます。
「日常的に仏教を意識しているわけではないけれど、利他(他人に利益となるように図ること)的な精神を入口として課題を捉え、経営を組み立て、そこから自分がどう生きていくかを探求する意識が学生にはみられます。仏教の教えが、知らず知らずのうちに自分の人生と重なっている、そんな環境が龍谷大学にはあるように思います」と。
龍谷大学は「誰一人取り残さない」持続可能な社会をめざしています。
持続可能な社会の実現を阻害する社会課題を認識し、それを事業により解決する社会変革の担い手が、今後も数多く生まれることを期待しています。