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仏教SDGsに学ぶ 親鸞はなぜ「インターネット的」なのか(第1話)

1639年に京都西本願寺に設けられた学寮をルーツとし、2039年に創立400周年を迎える龍谷大学。仏教の精神に基づく先進的なプロジェクトを、地域を巻き込みながら多方面で展開している。“最先端のSDGs”の手本とも言える実践から、ビジネスに生かせるヒントを解き明かす 。聞き手はPIVOTチーフグローバルエディターの竹下隆一郎。

――今日は仏教にご縁の深いお二人をお招きして、ビジネスの最前線と仏教の関係について解き明かしていきたいと思います。お一人目のゲスト、連続起業家の家入一真さんは仏教に詳しいことでも知られています。

家入 詳しいなんておこがましいですが、特に親鸞の考えはすごく「インターネット的」だと思っていて、僕がビジネスを考える上での価値観に強く影響しています。この話を語りだすと2時間では収まらないです(笑)。

――この後の対話が楽しみです。深尾先生は龍谷大学副学長で、政策学部教授として教壇に立っていらっしゃいます。ご専門はベンチャー育成や非営利組織のマネジメントですね。その傍ら、社会起業家の面もあるのだとか。

深尾 「大学の先生らしくないね」とよく言われます(笑)。

SDGsをはるか前に先取りした「摂取不捨」

――龍谷大学は浄土真宗を建学の精神に敷き、およそ400年の歴史があるそうですね。現代に生きる私たちビジネスパーソンが、仏教から学べることはあるのでしょうか?

深尾 もちろんあります。例えば、仏教に伝わる「摂取不捨」という考え方。

すべての生きとし生けるものを決して見捨てないという意味ですが、これはまさに「SDGs」が目指す社会像、「誰一人取り残さない」と一致します。ことさらSDGsと強調しなくても、持続可能な社会を目指す行動を先人たちは重ねてきたということです。

現代に受け継ぐ知恵を生かし、社会変革のハブとなる大学でありたいと考えています。

――ビジネスと仏教の関係について、家入さんはどう感じますか。

家入 仏教はビジネスを進める上で必要な「本質を問う力」を与えてくれますね。目の前の仕事に日々向き合っていると、どうしても視野が狭くなったり、近視眼的な考えに偏ったりしがちなんです。

仏教を通じて、「そもそもなぜ僕たちはこのビジネスの成功を目指すのか」「どんな世界を実現したいのか」という問いを重ねることができるんです。

ビジネスの変化耐性を磨く「問い続ける力」

深尾 問い続ける姿勢は、今の時代に求められていますね。単にもうければいいのではなく、少しでも社会を良くするために私たちは何ができるのかを見極める。

従来の“当たり前”を疑って、新しい解を皆で見つけていかなければならないのが、現代のビジネスの姿だと思います。

家入 おっしゃるとおりですね。僕自身も「CAMPFIRE」というクラウドファンディング事業を10年やってきましたが、社会の変化に合わせて形を変えて、今に至ります。

変化に対応するためには、やはり「今の自分たちにとっての正解」を常に問い続ける必要がありました。

また、人との向き合い方で迷ったときにも、仏教は高い視座での気づきを与えてくれます。

深尾 人とのつながりの求め方も問い直されている時代ですよね。

今の若い世代は「知らない人を見たら逃げなさい」と言われて育った世代なので、他者とリアルにつながる方法をあまり知らない。しかしながら、人は一人では生きられない。つながりをどう保つかを考える機運が、社会全体で高まっていると感じます。

親鸞の「悪人正機」は孤独を癒やす

家入 僕は親鸞の「悪人正機」という考え方がすごく好きなんです。「善人が救われるなら、悪人はなおさら救われる」という意味で、まさにオープンでフラットなインターネットの世界観に通じるなと。

僕は15歳のころにいじめが原因で学校に行けなくなって、10代はほぼ「引きこもり」でした。家の中に一人でいると本当に孤独で、苦しいのは自分だけじゃないかと思い詰めていました。

そんなとき、まだ世間に普及する前だったインターネットに接続してみたら、そこには年齢や肩書きを超えてつながれる人との出会いが広がっていて。「ああ、一人じゃないんだ」と心から救われたんです。

今は誰もがネットでつながれる時代になって、だからこその苦しさを抱えている人もいますよね。新たな孤独を解消できる社会の仕組みづくりが求められているのだろうと思います。

地域に開いた教育で「知の往復」を

――龍谷大学は「社会変革のハブ」を目指すということですが、具体的にはどんな教育を?

深尾 地域と密着した教育を実践しています。学生が実際に地域の中に入って、社会課題を発見し、その解消のためのアクションに取り組んで大学に持ち帰ってまた考える。表面的な体験ではなく、矛盾や摩擦のプロセスも含めての複層的な学びを目指しています。

例えば、地域と関わる中で、学生たちは「孤独死」という問題を知るわけです。「あの家のおじいちゃん、この間、一人で亡くなっちゃったのよ」というショッキングな話を聞き、身近な地域での孤独死のリアリティに直面する。

すると、「高齢者が外出しやすい環境づくり」をテーマにグループ研究が立ち上がって、体操やスマホ教室のような試みが始まります。

実際に始めてみると、「そんな余計なことはしないでほしい」といったネガティブな声が寄せられるときもあるんです。でも、この摩擦を乗り越える経験こそが社会変革の基礎力になる。批判をどう捉えて、次にどう動くべきか。葛藤や迷いも抱えながら問い続ける営みこそ、真の学びになるはずです。

社会への「怒り」が強い起業家を生む

家入 僕は日頃、投資家として若い起業家と話をするときに、「なぜあなたがこのビジネスをやらないといけないのか」という問いを深掘りします。ビジネスモデルや戦略よりも重要なのは、動機だと思っているので。

そして「なぜやるのか」を突き詰めていくと、その人特有の原体験に紐づく「怒り」に行き着くことが多いんです。

生きづらさや理不尽さに対する怒りが起点となって、「この世の中をなんとかしたい」と思っている起業家は強い。創業メンバー解散や資金枯渇寸前のようなハードシングスを乗り越えるだけの力を持っているからです。

負の感情はビジネスの原動力になると感じています。

イノベーションを生む「自省利他」

深尾 今のお話は、本学が行動哲学として掲げる「自省利他」の精神そのものです。すなわち、自分の内面を深く見つめ直し、不足を知ることから挑戦は始まる。内省こそイノベーションの源だと思いますし、学生を見ていても「未知」や「不足」を自覚した後の学びの吸収力は目を見張るものがあります。

家入 僕自身がやってきたクラウドファンディングの事業も、資本主義経済の金融システムの中で取り残されてきた人たちが力を取り戻すために何ができるのかと、自分なりにインターネットやスタートアップが担える役割を考え抜いた答えの一つです。

深尾 ビジネスの構造そのものを変化すべき時期に来ているのでしょうね。本学も変革を促進する環境づくりに、一層力を入れていきます。

第2話に続く

 

 

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龍谷大学副学長・政策学部教授

深尾昌峰氏

熊本県出身。滋賀大学大学院修了。1998年きょうとNPOセンターを設立し事務局長に就任。2009年には公益財団法人京都地域創造基金の理事長に就任し、市民による公益創造のインフラづくりを展開。10年4月に龍谷大学准教授に就任し2018年4月から教授。22年4月から龍谷大学副学長。12年には社会的投資を促進するPLUS SOCIALを起業、16年に日本初の社会的投資専業金融会社プラスソーシャルインベストメントを起業。