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再生可能エネルギーで地域経済を回す、福知山市の地域貢献型プロジェクト

龍谷大学は福知山市や関係機関と連携し、福知山市内にある地域資源を最大限活用する事業を進めています。政策学部 的場信敬 教授は、龍谷大学「地域公共人材・政策開発リサーチセンター(LORC )」の研究員であり、福知山市でおこなわれている事業の中心的メンバーとして携わっています。プロジェクトの目的は、エネルギー事業を基軸とした地域の社会問題・経済問題の解決です。2019年より、地域貢献型の再生可能エネルギー実装がスタートしました。その成果や課題、未来の展望について的場教授にお話しいただきました。

エネルギーの地消地産が地域社会の持続性につながる


1987年に、国連が設置した「環境と開発に関する世界委員会」によって、環境保全と経済成長を両立させる「持続可能な発展」の概念を示した「Our Common Future(地球の未来を守るために)」という報告書が公表されました。1992年の「国連環境開発会議(地球サミット)」では、この概念を国連の永久原則として設定し、それ以後現在のSDGsに至るまで、環境保護や貧困撲滅といった国際的課題解決のための共通概念として機能しています。

当時日本国内では、持続可能な発展は狭義の環境(保護)政策と捉えられ、社会全体にインパクトを与えるまでには至りませんでした。現在、国際的な取り組みとなったSDGsが日本でも達成目標となった大きな理由は、この取り組みが企業や投資家などの経済活動に大きな影響を与えることが理解されたからです。私は持続可能な社会の実現についての研究を長く続けてきたので、SDGsの取り組みが広まっていること自体については歓迎しています。

2018年9月、北海道胆振東部地震が発生し、ブラックアウトが起こりました。ブラックアウトとは、大手電力会社が管轄するエリアすべてで停電が起きる現象です。ブラックアウトは日本で初めてのことで、北海道全域で約295万戸が約11時間停電しました。もし発電装置が分散配置されていれば、もしくは自治体など地域レベルで自前のエネルギーを有していれば、あのようなブラックアウトは防げていたかもしれません。地産地消のエネルギーを考えることは、防災上のリスク分散をはかるという意味でも重要です。

オーストリアやドイツでは、地域の発電により地域の電力を100%まかなっているという例は少なくありません。地域発電に対し銀行が積極的に融資をおこなっているため、導入コストを低く抑えることができるという背景もあります。ヨーロッパの国々は地続きですので、自国で電力が不足した場合、他の国から電力を購入することもできます。

太陽光・水力・風力といった再生可能エネルギーは、その地域固有の資源です。地域の企業がみずから事業を起こし、地域で生まれたエネルギーを電気に変え、地域で使う。このサイクルは地域経済活動への貢献にもなり、地域社会の持続性につながります。

LORCでの地域貢献政策研究を実践

2019年1月、「地域貢献型再生可能エネルギー事業の推進に関する協定」が締結されました。龍谷大学、福知山市、京都北都信用金庫、たんたんエナジー株式会社、プラスソーシャルインベストメント株式会社の産官学民5者間協定で、地域エネルギー事業により地域課題の解決を目指しています。

龍谷大学では、「地域公共人材・政策開発リサーチセンター(LORC /ローク)」が事業に関わっています。持続可能な発展の実現を目指し、研究と現場実践を行う機関です。2019年からの第5期では、深尾昌峰教授(龍谷大学副学長)が「地域還元型再生エネルギー政策関係ユニット」のユニット長を務めておられ、私もメンバーの一員でした。ソーシャルファイナンス(社会金融)と地域のエネルギー自立をつなぎ、地域に貢献する政策の研究を進めていました。NPO法人など外部団体と協力し、スキームを固めていきました。

第5期での成果は、新電力を供給するたんたんエナジー株式会社の設立です。ちなみに社長は、京都府の地球温暖化防止活動推進センター長を務めた方で、龍谷大学の政策学研究科の修了生でもあり、さらに今は政策学研究科の非常勤講師も務めています。
たんたんエナジーが行う事業の柱の1つが、「市民出資型オンサイトPPA」という方式での太陽光発電所の設置です。たんたんエナジーが100%出資するたんたんエナジー発電合同会社は、福知山市内の公共施設に太陽光発電設備を設置して電力を提供し、電気料金を受け取ります。設置のための資金の多くは京都北都信用金庫から融資で賄い、売上から返済します。また、資金の一部は、プラスソーシャルインベストメント株式会社を通じて市民出資を募り、分配金という形で出資者に還元します。龍谷大学 LORCがたんたんエナジーにノウハウを提供しています。出資は1口1万円とし、3口以上の出資者には、特典として、京都北部の観光や体験で使えるクーポン等を提供し、関係人口の創出・強化も図っています。出資は、募集開始からわずか3週間で定員に達しました。市民が、地元の発展を「自分ごと」として望んでいることがわかりました。

産官学民5者間協定による事業は3年目に入りました。再生可能エネルギーを地産地消し、地域経済に貢献するという仕組みはうまく回っており、日本環境学会からも成功例として評価されています。

福知山市の公共施設で再エネ・CO2排出ゼロの電力を供給

福知山市・三段池公園には太陽光パネルを設置。停電時には蓄電池から電力が供給されるほか、トイレ入口や授乳室などの照明が点灯する

現在、福知山市の三段池公園、武道館、学校給食センターの3箇所に、合計約350kWの太陽光発電システムが設置されています。これは、家庭に設置される太陽光発電システムの約70世帯分にあたる規模です。

市民の理解を深めるために「地元還元の意義」を伝える必要がある

しかし、エネルギーの自立が完全にできているかというと、そうではありません。課題のひとつは、電気の価格です。価格競争では大手電力会社には勝つことができません。太陽光パネルの設置、風力発電の検討・調査、技術向上のための研究にもコストがかかります。もうひとつは、資源の種類を増やすことです。現在の電力は太陽光のみでまかなっていますが、今後は風力やバイオマスなどの採用も可能性としてあり得ます。風力発電については未知数ですので、これから調査が必要となります。バイオマス資源を燃料とした発電ができる最低条件は、森林資源があること。林業が成り立っている国では余った端材をバイオマス資源として活用していますが、国内の林業は低迷しており発電に十分な量の木材端材がありません。

しかし実質再エネ、CO2排出ゼロ、そして地域経済の貢献という付加価値があるのがこの事業の特徴です。地域に根ざした会社が電力を作り、新たな循環型の地域経済の形を模索しています。小学校に再生可能エネルギーが使われているということが、子どもたちへの環境教育の一助となっています。収益の一部を地元が取り組むSDGs活動へ寄付し、エネルギーを超えたより広い範囲で「持続可能な地域づくり」に貢献しています。「地域の電気は地域の自分たちで作っている」という認識を市民に理解してもらうためには、これら再生可能エネルギーの価値と地元還元の意義をもっと伝える必要があると感じています。