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SDGs EYEs:SDGsのその先を考える

2030年が期限となる国連の持続可能な開発目標(SDGs)まで10年を切りました。最近は、早くも30年以降のポストSDGsの話がちらほら耳に入るようになってきました。中でも、日本総合研究所が開催した「ビヨンドSDGsセミナー」がとても興味深く、今回はこのセミナーの話を取り上げたいと思います。

私が視聴したのは「SDGs×死 ゆたかな最期を迎えるために」をテーマにしたユーチューブのセミナーでした。今の2030年までのSDGsにおいて、「死」に関わることは「妊産婦死亡率」や「新生児死亡率」など、医療水準が十分ではない途上国の話が中心になっています。しかし、途上国の経済発展や医療技術の進歩で、将来的には新生児死亡率などは先進国のように低下し、寿命は長くなっていくことが予想されます。2030年以降は、多くの国で高齢化が社会課題となり、いかに「尊厳ある死」を迎えるかは大きなテーマとなりそうです。

セミナーでは、ゲストとして千葉県を中心にサービス付き高齢者向け住宅、いわゆるサ高住を手がけるシルバーウッド(千葉県浦安市)の下河原忠道代表取締役が登壇していました。下河原さんが手がけるサ高住「銀木犀」は、「施設っぽくないこと」が特徴となっています。住宅の見た目も木質を基調とした普通の住宅である上、介護を行う職員もできるだけ管理をしようとはせず、入居者の自由を尊重し、普通の日常生活が送れるよう気を配っています。
このサ高住では入居者の「看取り」まで手がけており、「無益な延命措置を施さない」方針をとっています。下河原さん曰く、「人間以外の生物は、すべて自然死。食べないから死ぬのではなく、死ぬために食べなくなる」とし、「点滴や人工呼吸器などの延命措置は、生体プログラムの自然死に対する逆処置であり、一種の苛虐(人をいじめること)にほかならない」と語っていました。

昨今、病気になると病院に入院し、8割の日本人が病院で最期を迎えています。病院ではほとんどの人に延命措置が施され、体にたくさんの管を通されて自分のしたいことができない状態で亡くなることが多くなっています。下河原さんのサ高住では、こうした延命措置は取らずに、「最期まで生きたいように生きる」ことをサポートしています。
印象的だったのは、死ぬ直前まで、タバコを吸いたい人にはタバコが吸えるよう介助しているとのこと。日本総研のモデレーターは下河原さんの話を聞き、「『死んでいない』と『生きている』は違う。最期まで『生きている』という実感を持って死にたい。それを手助けしているのが下河原さんのサ高住だ」と表現していました。本当にそうだなと私も感じました。

サ高住では、「生きている」ことを実感できる一つの仕掛けづくりとして、地域との接点の場を設けています。住宅の1階に駄菓子屋を開設し、希望する入居者には店員として働いてもらい、アルバイト代も支給します。人は仕事がある、何か人の役に立てることがある、と実感することが、生きる喜びにつながるそうです。

店には学校帰りの子ども達が多く訪れ、1日200人来る日もあるとのこと。1階には子ども達が菓子を食べたり、くつろいだりできるスペースもあり、時には高齢者に「うるさい!」と叱られながら、ワイワイガヤガヤ過ごしているそうです。
子ども達にとってもサ高住はよい学びの場となっています。下河原さんは、駄菓子屋の店番などをしたことのある高齢者が臨終を迎えようとしていると、積極的に子ども達を部屋に招いて死に際を見せているとのこと。「人の死に近づいて、自分の目で見ることは、ものすごく教育になる。もっと『死』を身近にしたい」(下河原さん)と話していました。

一連のセミナーの話を聞き、私は昨年、80代後半で亡くなった母方の伯母のことを思い出しました。伯母は独身で、亡くなる直前まで大きな病気もせず元気に過ごしていました。まさに「ピンピンコロリ」の典型例。しかし、亡くなった場所が「自宅」だっただけに、警察を呼び、地元ではちょっとした騒ぎとなってしまいました。最終的には「老衰」で決着しましたが、本来、生き物は老衰が自然なところ、自宅で亡くなると、現代では事件や事故などと大げさに捉えられかねない状況だと感じました。
私の母は、伯母の死について「苦しんだ様子はなく、死に顔は穏やかで、幸せな最期だったと思う」と話していました。伯母はもうあの世にいるため、本当のところはどうだかわかりません。本来ならもっと、どのような最期を迎えたいのか周りは聞いておくべきでした。
セミナーでは「死をタブー視すべきではない」との意見がありました。本当に現在は、生きている間に人の死について語ることは、はばかられる状況にあります。しかし、死について考えることは、どう生きるかを考えることの裏返しで、充実した人生を送るには日頃からどう死にたいかを考えておくにこしたことはないでしょう。

2030年以降のSDGsのゴールの一つに、日本総研が挙げるような「ゆたかな死」が盛り込まれるかどうかはまだわかりませんが、世界でも群を抜いて高齢化が進む日本から一つのテーマとして課題を提起し、国際的な議論をリードしていくことが期待されます。

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文/松本麻木乃:専門紙記者
2004年、日刊工業新聞社入社。化学、食品業界、国際を担当、2020年から不動産・住宅・建材業界担当の傍らSDGsを取材。近著に「SDGsアクション<ターゲット実践>」(共著)。

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