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SDGs EYEs:企業が地方の関係人口創出に貢献

最近、都市と地方の関係が以前より密接になってきた気がします。さまざまな要因があると思いますが、筆者は都市と地方の架け橋となる企業が増えてきた効果もあると感じています。

旅人が地域の力になる

ユニークなところでは旅人求人サイトを運営するSAGOJO(サゴジョー、東京都渋谷区)があります。同社は旅人が農作業などのお手伝いをすると無料で泊まれる宿泊拠点サービス「TENJIKU(テンジク)」を提供しています。宿泊所は京都府京丹後市や和歌山県田辺市・本宮町(熊野地域)など全国10カ所以上にあり、お手伝いを通じて旅人が地元の人々と交流することで、地方の「関係人口」創出を狙っています。

総務省によれば、関係人口とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、「地域と多様に関わる人々を指す言葉」だそうです。※1 近年は「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されており、テンジクはこうした地域づくりの担い手を地方に派遣する取り組みを行っています。

2021年12月には大手不動産会社、日鉄興和不動産が13カ所目の宿泊拠点「テンジク香取」(千葉県香取市)の開設に協力したと発表しました。テンジク香取は築50年の古民家を改装した宿泊施設(広さ4LDK、120平米)で、日鉄興和は改装の企画やリノベーションを支援したそうです。そして、日鉄興和が開発した分譲マンションの入居者向けに優先的に大部屋(家族用の14畳の和室)を予約できるなどの取り組みを始めました。日鉄興和は学生向け賃貸マンションやオフィスなど都心で幅広い不動産を扱っています。今後、日鉄興和を通じ、都心におけるテンジクの認知度が高まりそうです。※2
※2 日鉄興和不動産リリース
https://www.nskre.co.jp/company/news/2021/12/20211223.pdf

地域産品の掘り起こしを通して起業家を育成

「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げる創業300年の老舗商店「中川政七商店」(奈良県奈良市)は三菱地所と組み、大学生が調達・店舗運営を行う地域産品のセレクトショップを2022年8月、東京駅前の複合ビル(東京トーチD棟)にオープンすると発表しました。学生の有志を募り、地方に派遣し、自分達が良いと思った地域産品を仕入れて販売してもらいます。

中川政七商店は単に地域産品を販売するだけでなく、芽が出ていない製品については売れるための包装や広報活動などの工夫を提案するコンサルティング事業も行っています。学生に対しても、お遊びではなく、「起業家育成の一環」(中川政七商店の担当者)と捉え、売れるためのノウハウを伝授するほか、店舗運営は黒字になるよう指導していくそうです。この取り組みを通じ、学生と地方の接点をつくり、ひいては学生が地方で就職したり、起業したりすることを視野に入れています。地方の関係人口を創出する面白い手法だと感じました。※3
※3 学生経営×地方創生「アナザー・ジャパン」
https://www.mec.co.jp/j/news/archives/mec211209_anotherjapan.pdf

産地をもっと身近にするIT

ITで都心と地方をつなぐ動きも盛んです。ポケットマルシェ(岩手県花巻市)は、地方にいる農家と都心の消費者をつなぐ産直アプリを提供しています。消費者はアプリを通じ、農産品を買えるだけでなく、農家に直接、食材の調理の仕方などを聞くことができ、地方の農家とつながりを持てます。

家族4人でトマト農園「ヨダファーム」(山梨県中央市)を営む功刀隆行さんは「都心のお客さまからマーケティングの知見を得ることができる」と、アプリは農家にとっても役に立つと話していました。都心の消費者からパッケージや宣伝文句の助言をもらい、事業にいかしているそうです。ヨダファームはクラウドファンディングも上手に活用し、5回の挑戦までで総サポーター数1,846人・総額約1,400万円を調達しています。今後は「輸出もしていきたい」(功刀さん)とし、海外にいるサポーターや知人のツテを借りてチャレンジしているとのこと。アプリやクラウドファンディングといったテクノロジーを使い、都心だけでなく、世界ともつながることに感銘を受けました。

ポケットマルシェは地域の課題解決に向けて挑戦する生産者を表彰する「ポケマルチャレンジャーアワード」を設けており、2022年3月の表彰式には鹿肉を販売する龍谷大学発ベンチャー、RE-SOCIAL(京都府相楽郡笠置町)も優秀賞に選ばれていました。※4
※4 ポケマルチャレンジャーアワード2021
https://www.pocket-marche.com/news/2022030816201926/

地域の害獣を食肉として経済循環させるRE-SOCIAL

都心の消費者はポケットマルシェを通じて地方の農家と親しくなり、就農体験や宿泊体験に発展することもあるそうです。まさに「関係人口」の増加です。ポケットマルシェの高橋博之代表取締役によると、「移動に制約のあるコロナ下で、新たな関係人口の形が関心を集めている」とのこと。例えば、ZOOMなどウェブ会議を使って農家と密に交流したり、リモートワークの広がりで都心と地方の二拠点居住に移行したりする人が増えているようです。

国連の持続可能な開発目標(SDGs)のゴール11「住み続けられるまちづくりを」のターゲットの中に、「都市部とそのまわりの地域と農村部とが、経済的、社会的、環境的にうまくつながりあうことを支援する」(11a)とあります。コロナ下という特殊な状況においても、このターゲットの達成に貢献する活動が着実に増えています。

文/松本麻木乃:専門紙記者
2004年、日刊工業新聞社入社。化学、食品業界、国際を担当、2020年から不動産・住宅・建材業界担当の傍らSDGsを取材。近著に「SDGsアクション<ターゲット実践>」(共著)。

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子ども食堂の可能性 (2022.05.25)
コロナ禍で劇的に変化した働く場所 (2022.04.14)
広がるサステナブルツーリズム (2022.03.23)

 

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