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SDGs EYEs:コロナ禍で劇的に変化した働く場所

コロナ禍で17項目の国連の持続可能な開発目標(SDGs)は多方面で影響を受けました。中でも個人的に劇的に変わったと感じたのがゴール8「働きがいも経済成長も」です。さまざまな業界でテレワークが普及し、仕事は必ずしも会社ではなく、カフェやホテル、自宅でもできる人が増えました。中にはこれまで仕事場とは思えないような場所でも、仕事ができるようになってきました。

私が一番驚いたのは、三井不動産が商業施設「アーバンドッグららぽーと豊洲」(東京都江東区)に設置したトレーラーハウス型のサテライトオフィス(法人会員限定)です。トレーラーハウスの中にはタタミ1畳ぐらい小さな個室が4、5部屋あり、防音対策が施され、一人でこもってウェブ会議や資料作成などをするのに適した環境が整えられています。商業施設にあるため、妻と子が買い物をしている間、夫だけウェブ会議に出席するといった使い方ができます※1。
※1 ワークスタイリングSOLO
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2020/1203/download/20201203.pdf

現地で実際に見て感じたことは、もはや仕事はオフィスビルの中で肩肘張ってやらなければいけないものではないということ。トレーラーハウスでも、自宅でも、きちんと結果を出してさえいれば立派な仕事になります。買い物のついでに仕事をするという、プライベートと仕事が地続きな、両者の間に線引きが難しい時代になってきました。

これはコロナ禍でワーケーションが以前に増して広がり、ホテルが仕事場にもなってきたことにも通じることでしょう。ホテル各社は、高速通信網や働きやすい机と椅子を備えた部屋を用意するなどワーケーション対応を強化しました。例えば高級ホテルを得意とする森トラストは、シェラトン沖縄サンマリーナリゾート(沖縄県恩納村)や伊豆マリオットホテル修善寺(静岡県伊豆市)などで宿泊者が仕事に使えるワークプレイス用のラウンジを整備しました※2。宿泊者といえども、通常はみなが使うラウンジで長時間、パソコンと向き合って仕事をしていると、周りに白い目で見られたり、本人も居心地の悪さを感じたりしそうですが、ワークプレイス用のラウンジとなれば、気兼ねなく仕事ができます。ワーケーションについては、「せっかく休むなら100%休みたい」とする声もあり、賛否両論ですが、コロナ禍でホテル側の環境整備が加速した点は間違いないでしょう。今後は企業の文化や個人の価値観次第で普及するかが決まりそうです。
※2 森トラストワーケーション事業
https://www.mori-trust.co.jp/pressrelease/2020/20201214.pdf

働く場所があらゆるところに広がる一方、本家本元の働く場である企業のオフィスも以前に比べ位置づけが変わろうとしています。2020年4月の1回目の緊急事態宣言が発令された際、多くの企業が一斉にテレワークに移行しました。その際に経済紙を中心に「オフィス不要論」が台頭しましたが、その後は「テレワークだと同僚に聞きたいことが聞けず仕事が進まない」や「チームワークが醸成しづらい」などと「オフィス回帰論」の揺り戻しの声も聞かれるようになりました。そして、ここにきて不要論と回帰論の折衷案である「ハイブリッド論」、つまり適度にテレワークをし、適度にオフィスにも来る、という意見に集約されつつあるように感じます。

 

 

いずれにせよ、自宅やホテルなど働く場所は他にもある中、オフィスに改めて来る意味が問われています。こうした中、ビルを手がける不動産会社はいち早くオフィスでしか体験できないコトづくりを提供しようと動いています。

三菱地所は、2021年夏、東京駅前に新しく完工したオフィスビル「常盤橋タワー」(東京都千代田区)にキッチンスタジオを用意しました※3。ビルの入居企業に料理を通じた社員同士のチームワークづくりを促すのが狙いです。せっかくみなが顔を合わせるオフィスは、「社員がコミュニケーションをとる場所」、「親睦を深める場所」との意味を込め、スタジオを設置したそうです。テレワークが多くなると、同僚と疎遠になりがちで、同じ部署のチームワークにも微妙な隙間風が吹きかねません。生身の同僚らと出会えるオフィスは、社員同士が結束を深める場所というのは、一つのあり方かもしれません。

※3 三菱地所 常盤橋タワー
https://www.mec.co.jp/j/news/archives/mec210719_tokiwabashitower.pdf

同時期に、三井不動産グループの空間デザイン会社、三井デザインテックは、「Well-Beingでイノベーションを誘発する場」をコンセプトにした新本社を東京・銀座に開設しました。社員が健康的に働けるようオフィス内に植物を適度に取り入れたり、癒やし系のロボットを配置したり、社内外の人と交流できるサロンやカフェを設けたりしました。サロンやカフェは、何気ない雑談からイノベーションの芽となるアイデアが浮かぶことを狙っています。自宅やサテライトオフィスよりも会社の方が健康的に働け、良いアイデアも浮かぶとなれば、自然と会社に足が向かいます。これも一つのオフィスのあり方です。

※4 三井デザインテック新本社
https://www.mitsui-designtec.co.jp/topics/20210715_newsrelease.pdf

今後は企業ごとにそれぞれの理念に基づき、オフィスのあり方を探っていくことになるでしょう。自社のオフィスのあり方を探る過程で、多くの企業がSDGsゴール8の重要テーマ「働きがいのある人間らしい雇用」を意識していけば、日本においてSDGsは一段と根付くことになりそうです。

文/松本麻木乃:専門紙記者
2004年、日刊工業新聞社入社。化学、食品業界、国際を担当、2020年から不動産・住宅・建材業界担当の傍らSDGsを取材。近著に「SDGsアクション<ターゲット実践>」(共著)。