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SDGs EYEs:CO2排出量、簡単にわかる時代に

個人がワンクリックで二酸化炭素(CO2)排出量を把握できる時代が到来しました。クレディセゾンは、決済データに基づきCO2排出量を可視化できるクレジットカードを6月上旬に市場投入しました。利用者はスマホの専用アプリをクリックして簡単に排出量を確認できます。可視化することで消費者に環境にやさしい行動を促すことが狙いです。クレディセゾンによれば、日本人のCO2の平均排出量は年間9tCO2で、パリ協定で掲げられた1.5℃目標を達成するには、年間2tCO2に抑える必要があるとのこと。目標実現に向けては、まず現状、どのぐらいCO2を排出しているのかを把握することが大切です。クレジットカードに限らず、個人や企業向けにCO2を可視化するツールが流行っています。

 

クレディセゾンは、データサイエンスに強いベンチャー、DATAFLUCT(東京都渋谷区)と連携し、スウェーデンのベンチャーであるドコノミーのCO2排出量可視化技術を駆使して新カードを開発しました。ドコノミーの技術は、多くのデータからカテゴリーごとのCO2排出量を割り出した気候インパクト指数「オーランド指数」を基にCO2量を示すもので、例えば靴屋で1万円分の製品を購入すると43kgCO2の排出量などと表示します。本当に43kgCO2を排出したかどうかは指数・基準により異なるため議論の余地がありますが、まずはおおよその量を知ることで自身の行動を省みるきっかけにはなりそうです。
私がおもしろいと感じたのは、このカードの説明サイトに書かれた文言です。

「公共料金の支払いをクリーンエネルギーに変えると、どれだけCO2排出量が変わるのか。外食と自炊ではどちらの方が環境にやさしいのか。正直なところ、まだ私たちにもわかりません」

こう“正直”に書かれていました。セゾンカードのテスト段階でも、同じ40万円の利用に対し、CO2排出量が月1000kg CO2の場合と3000kg CO2の場合で大きな差が出たこともあったそうです。今後、データを蓄積していくことでどのような項目が数値に影響しているのかが見えてくる見通しで、より具体的にどう行動すればよいのかがわかってきそうです。※1
※1「SAISON CARD Digital for becoz」NewsRelease
https://corporate.saisoncard.co.jp/wr_html/news_data/avmqks000000btxs-att/20220602_Release.pdf 

 

CO2算出技術を提供したドコノミーは、母国のスウェーデンでは「DO BLACK」と呼ばれる独自の「CO2排出量制限付き」カードも発行しています。何かと言いますと、国連の2030年目標に基づく国別の一人当たり排出量を基に個人のCO2排出量の年間上限を決め、上限に達するとカードが使えなくなるものです。日本でもウェブマガジンなどでこのカードのニュースが複数報道されており、こうしたより環境対策にストイックなカードが早晩、日本にも登場しそうです。※2
※2 DO BLACK https://chizaizukan.com/property/639/

 

企業の間でもCO2可視化はブームになっています。CO2可視化技術を持つベンチャーが相次ぎ誕生し、市場を創出しています。代表例がゼロボードです。同社は三菱UFJ銀行をはじめ、大分銀行や愛媛銀行など地銀と組んで銀行の顧客の中小企業向けにCO2可視化サービスを提供しています。他にもウェイストボックス(名古屋市中区)やバックキャストテクノロジー総合研究所(東京都港区)などがあります。主に電気料金や燃料費などからCO2を把握する技術が主流になっています。

企業の場合、個人よりも切実で、CO2削減において“尻に火がついた状態”になっています。なぜなら今春、開設した東京証券取引所の「プライム市場」の上場企業は、気候変動対策の開示を求められるようになったためです。国際標準である気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言と同水準の開示が求められており、サプライチェーン全体のCO2「スコープ3」までの情報開示が推奨されています。
つまり、プライム市場に上場する大手の製造業などは自社の取引先のCO2まで把握する必要に迫られており、大手と取引のある中小企業はCO2排出量を把握していないと取引の継続が危うくなる事態に直面しています。※3
※3 日刊工業新聞2022年4月12日付「温室ガス排出量、算定支援、可視化へ新興企業が続々開発」

 

金融機関が中長期の脱炭素目標を掲げる際に、「投融資先を含む削減」を掲げるようになってきたことも可視化を促しています。場合によってはCO2削減に取り組んでいないと融資を受けられない状況にあり、企業にとっては死活問題になりつつあります。もちろん、金融機関は太陽光パネルの導入など脱炭素への移行につながる設備投資には積極的に融資しており、環境対策で出遅れている企業を見捨てることはないと想像しますが、行動に後ろ向きな企業へは融資を控える可能性はあります。

 

最近、感じているのは、今の状況がダイエットと似ているなということです。ダイエットもまずは現状把握が不可欠で、今の体重や体脂肪率などを把握することからスタートします。今後はその先のいかに減量するか、具体的にCO2を減らしていくかがテーマになりそうです。

文/松本麻木乃:専門紙記者
2004年、日刊工業新聞社入社。化学、食品業界、国際を担当、2020年から不動産・住宅・建材業界担当の傍らSDGsを取材。近著に「SDGsアクション<ターゲット実践>」(共著)。

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