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孤独の正体を知るため行動する 京都府自死対策カレッジ会議

社会に出る一歩手前、日々の大学生活で感じているのは充実感だけでしょうか。人間関係についての悩み、就職することへの不安、目標が見つからないモヤモヤなどを抱え込んで、孤独に苛まれる人も少なくないでしょう。実は人と会えなくなったコロナ禍以降、学生の自死数が増えているそうです。出口を見つけられず、誰にも相談できぬまま自死を選んでしまう。そんな学生を一人でも減らしたい、という思いで京都府自死対策カレッジ会議に参加している3人に話を伺いました。

左から長尾菜摘さん、岡崎弾さん、林久瑠海さん

自分が感じた生きづらさを
誰かが抱えているかもしれない

京都府では3月1日を「京都いのちの日」と定めて、自殺への関心と理解を深めるために様々な取り組みを実施しています。その一環として2021年度に立ち上がった京都府自死対策カレッジ会議には、現在京都ノートルダム女子大学、京都文教大学、京都橘大学、京都府立大学、龍谷大学という、府内5大学の学生が参加。月1回ほどの頻度で会議を開催し、自死対策に関する学習会、各大学内での広報などを検討。
現在は、来年2月にイオンモール北大路にて開催する自殺対策啓発イベント「京都いのちの日メッセージ展」に向けた企画を進めています。

龍谷大学から今年度京都府自死対策カレッジ会議(以下、カレッジ会議)に参加しているのは、4人。今回は動画制作に関わった長尾菜摘さん(大学院実践真宗学研究科2年生)、岡崎弾さん(文学部哲学科3年生)、林久瑠海さん(心理学部心理学科2年生)の3人にお話を聞きました。参加しようと決めた理由やタイミングは様々です。

「カレッジ会議の存在を知るきっかけは、大学内のトイレに貼られた社会的孤立回復支援研究センターのポスターでした。コロナが少し落ち着いてきた1年生の冬だったと思います。私は福岡県出身で、福岡から京都に来たけれど授業もオンラインが多く、友達がなかなかできなくて。どんどん気持ちが塞いでいったんですね。同じ龍谷大学の学生さんたちは、今どんな気持ちで大学生活を送っているんだろうか。みんなの本音みたいなものを聞いてみたい、という気持ちで足を運んだのが最初でした」と岡崎さん。

大学院の授業の際に、黒川雅代子教授から声をかけられたというのは長尾さん。「社会福祉学がご専門で、京都府自死対策カレッジ会議の運営にも携わっておられる黒川教授から、一回行ってみない?とお誘いいただいたことがきっかけです。京都のいろんな大学生の方と話せる機会はすごく貴重ですし、本当によいご縁をいただいたと感じています」

「高校生の時、自分が悩む側の立場になったことがあって。幸いなことに私はそこから持ち直したんですけど、いろんな情報に触れるうち同じような思いをしている方が世の中にたくさんいることを知ったんです。本当に死にたいと思いながら生活されている方が、同世代にもすごく多いんだって。少しでもその孤独を和らげ、明るい方向に持っていけるように自分が働きかけられたらな、と考えるようになりました」と語るのは林さん。

動画制作やイベント企画など初めての挑戦で学びが深まる

現在は、毎年3月1日(2025年は2月16日予定)に行われている自殺対策啓発イベント「京都いのちの日メッセージ展」を準備中。そのほか、カレッジ会議の活動としては、専門家のもとでテーマを設けて話し合いや動画作成に挑戦したりして、自死に関する理解を深めることも多かったそうです。

「ゲートキーパーがテーマの回があって、とても学びになりました。ゲートキーパーとは、苦しみを感じている人たちに傾聴したり、共感したり、時には必要な支援につなげ、その人に寄り添う存在のことです。これまでも困っていそうな人がいたら声をかけることが正しいとはわかっていましたが、行動に移すのは難しいと感じていました。でもゲートキーパーに関する話を聞いて、気づいたなら躊躇せず動くべきなんだと再確認できました」と長尾さん。

2023年3月からカレッジ会議に参加している岡崎さんは、2024年9月に公開された京都府自殺予防週間の動画に出演。悩める学生のリアルな表情を見せてくれています。
「カレッジ会議内で出演者の募集があり、顔出しOKかNGかを選べたんです。私だけ顔出しをオッケーにしていたようで、すぐ主演をよろしく!とお願いされました(笑)。撮影当日は、あまり考えすぎると動きが固くなりそうだから、撮影のスタッフさんの細かな指示に従うことだけに専念しました。会議の仲間やプロの方々のサポートがあり、想像以上の作品になったと思います」


自殺予防週間にて制作した若者向け自殺対策啓発動画

心理学部に在籍する林さんは、昨年度の自殺対策啓発イベント「京都いのちの日メッセージ展」では心理テストブースを担当したことが印象に残っているそうです。
「心理テストを用いて、自分にはどういった特性、傾向があるのかを分析し、その特性を伸ばすにはどうしたらいいか、というようなお話をしました。テスト結果に紐づく悩みや経験に耳を傾け、その人の本音に近づいていくのは難しくもあり、興味深くもありました」

カレッジ会議の経験を活かし今後も人と向き合っていきたい

自死について理解することは、どう生きるべきなのか考え続けることでもあります。カレッジ会議で話し合い、イベントで様々な人と出会った経験は、自身がこれから進むべき道についてのヒントをくれると言います。

実家のお寺を継承し、将来は僧侶として人々と関わっていきたいと考えている長尾さん。
「大学院にいる間に、臨床宗教師の資格を取得する予定です。医療機関や福祉施設など終末期の心のケアに必要な資格なのですが、私自身はまだ自死念慮がある方と直接お話ししたことがなくて。来年のイベント「京都いのちの日メッセージ展」では、相手の立場に立ってお話させていただける機会があると思います。人って関係性に違和感があっても「コミュニティがおかしいんじゃなくて、自分がいけないんじゃないか」と思ってしまうことがあります。でも絶対にそんなことはないとお伝えしたい。コミュニティから離れ、自分の話を聞いてくれる場として、イベントを利用してもらいたいです」


岡崎さんは大学生のうち、今すぐできることを模索しているそう。
「自死を選んでしまう若者は、ものすごい孤独を抱いている人が大半だと思うんです。その孤独は表面的には、わかりづらいもの。キャンパス内に友達はいて、話す人もいるけれど、いつもひとりぼっちな気がする。友達が他の友達と楽しそうにしていると、さっきまでいた自分はあまり仲良くないのかなと寂しく思ったりする。そういうふとした孤独を埋められる、気軽に足を運んで話せる居場所作りができたらいいなと思っています。朝ちゃんと起きて、大学に行って帰って。それだけですごいこと、そういう日々の頑張りを認め合える機会をつくりたいです」

この先は大学院で公認心理師や臨床心理士の資格を取得し、カウンセラーになりたいと考えている林さんは、人間関係に悩む人へのアドバイスをくれました。
「その場の関係性って、人数によっても構成メンバーによっても変わってくるものです。2人で話す時とグループで話す時では相手の雰囲気や内容が違うなと感じることってあるでしょう。もしかしたら自分のことを、話すに値する相手だと思ってないんじゃないかって、不安を感じる人って意外と多いと思うんですよね。でもそれは場の関係性が変わっただけのことで、あなたのせいじゃない、気にしないで大丈夫だよと伝えたいです。安心して自分のしたい話を、一緒にいたい人にする。そんな時間を多く過ごしてほしいなって思います」