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福祉×工業のコラボで障がい者の工賃向上を目指す。政策学部 深尾ゼミの学生が取り組む「工福連携プロジェクト」

龍谷大学 政策学部 深尾ゼミに所属する学生4名が取り組む「工福連携プロジェクト」。障がい者が働く「就労継続支援B型事業所」は工賃が月平均1万6000円と安く、障がい者自身が幸福な生活を送れないことが社会課題となっています。そこで龍谷大学「ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンター」と城陽市にある社会福祉法人「南山城学園」が「工福連携プロジェクト」を立ち上げ、「就労継続支援B型事業所」にロボットを導入して高付加価値の製品を制作することで工賃を上げる取り組みを進めています。今回は、プロジェクトの経緯、社会福祉法人 南山城学園「就労継続支援B型事業所」における導入内容、社会的意義について、リーダーの山中 ちひろ さん、サブリーダーの栢村 翔太 さん、メンバーの梅原 初音 さん、川並 栞 さんにお話を伺いました。

ユヌス氏から「持続可能な社会貢献活動のモデルとなる」と励ましを受ける

「工福連携プロジェクト」は、2021年度より、龍谷大学 政策学部 深尾ゼミの有志で始められた取り組みです。障がい者が働く「就労継続支援B型事業所」(以下、B型事業所)に作業ロボットを導入し、ロボットと利用者が協働で作業をおこない高付加価値の製品を作り、工賃を向上させることを狙いとしています。先輩たちが企画立案し、ロボット導入の手前まで動いており、2022年度は4名のメンバーが引き継ぎました。また、龍谷エクステンションセンター(REC)による学生活動支援制度「龍谷チャレンジ」に採択されたことと、「ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンター」との連携をおこなったことで、本格的な事業実施に向けて活動しました。

栢村 翔太 さん(政策学部/3年)

「B型事業所の全国平均工賃は約1万6000円、時間額では約222円とかなり安く、障がい者年金があっても障がい者当人の自立は難しい。趣味や余暇を楽しむ人間らしい生活はできないと言えます。政策学部で学生たちが自由課題に取り組む『Ryu-SEI GAP』で、障がい児の兄弟・姉妹がいる『きょうだい児』のヤングケアラー問題を学びました。班のリーダーが『きょうだい児』だったのですが、きょうだい児の悩みは障がい者当人につながっていることがわかり、工福連携プロジェクトへの参加を決めました。

2022年の夏休み前、学内にあるユヌスソーシャルビジネスリサーチセンターを通じ、ユヌス氏に私たちの発表を聞いていただく機会がありました。ユヌス氏からは、『パラリンピックは障がい者たちがスポーツで輝く場ですが、ほかの障がい者も労働などで輝ける場所が必ずあります。持続可能な社会貢献活動のモデルとなる、素晴らしい取り組みですね』と、コメントをいただき、プロジェクトの実施に向けて頑張ろうと奮起しました」。(栢村さん)

障がい者施設を訪問。現状把握と工賃アップのヒントを得る

山中 ちひろ さん(政策学部/3年)

「障がい者の就労環境の現状を知るべく訪れたのは、城陽市にある社会福祉法人「南山城学園」です。障がい者・高齢者の支援施設のほか、常時10〜15名の利用者さんが軽作業をおこなうB型事業所『魁(さきがけ)』、カフェや自家農園も運営されています。障がい者福祉施設というと閉鎖的で暗いイメージを勝手に持っていましたが、南山城学園は明るい雰囲気でした。夏は新型コロナウイルスの影響で2〜3ヶ月訪問できませんでしたが、それでも何度も訪れました。職員さんも利用者さんも挨拶をしてくださったり、声をかけてくださったりし、私たちを温かく受け入れてくださいました。

多くのB型事業所では、職員さんが企業や行政から作業の仕事をもらってくるそうです。しかし、職員さんも企業や行政も『障がい者だから工賃が安くてもいいだろう』と思い込んでおり、かつ職員さんは『仕事をもらう弱い立場であり、企業や行政に頼み込むことに疲れている』ということがわかりました。また、箱折りや清掃など単純作業が多く、利用者さんのやりがいにつながっていないことも知りました。障がい者の方からは『自分の能力にあった仕事を与えてほしい』『自分の仕事の幅を増やしたい』という声がありました。私たちがプロジェクトへの想いをお話ししたところ、職員さんは『高付加価値の製品を作ることができれば、企業や行政と対等な立場で取引きできるだろう』とおっしゃいました。また、スムーズな生産体制の整備を前向きに検討していただけることになりました。ゼミの深尾教授は常々『当たり前を疑え』と、私たち学生に話されています。“慣習だから、障がい者だから、安いのは当たり前”という常識を疑うことからプロジェクトを進めることができたのは、深尾教授のご指導のおかげです」(山中さん)

梅原 初音 さん(政策学部/3年)

「夏には、石川県でB型事業所のほか、飲食店を運営する『ケアパーク金沢株式会社』の視察を行いました。平均工賃は月額約7万2000円と高く、どのように取り組んでいるかを調べるためです。飲食店はうどんもケーキも素晴らしかったのですが、その理由はホテルやパティシエ経験者が中心となり商品開発をおこなっていたからでした。地元のお客さんがいっぱいで、みんなが食事を楽しんでいる様子も印象的でした。社長は『福祉施設ではあるが、慈善事業ではありません。利益を出せるように挑戦を続けています』とおっしゃっていました。SNSでの情報発信にも力を入れており、メディアで取り上げられることで知名度が向上。結果、お客さまが増えるという好循環だとも教えていただきました」。(梅原さん)

2022年12月、大学コンソーシアム京都にて開催された「第18回 京都から発信する政策研究交流大会」では「就労継続支援B型事業所におけるディーセント・ワークの現状と課題-工業と福祉の融合による可能性-」で優秀賞を受賞した

手作業とロボット動作の連携で電子基盤の製作へ

川並 栞 さん(政策学部/3年)

「南山城学園のB型事業所に導入したのは、株式会社川崎重工の双腕ロボット『duAro2』と、株式会社JOHNANの特注ロボットアームです。利用者さんが電子基盤の電子部分を手作業でひとつずつ並べ、ロボットでハンダ付けをおこなうという協働作業になります。川崎重工では操作に必要な知識や情報の提供、JOHNANではノウハウ提供をお願いしました。ロボットが南山城学園に届いたのが9月末でしたが、誤動作が多く発生したため、JOHNANの担当者さんに何度か南山城学園に足を運んでいただきました。JOHNANは宇治市にあり、地域での連携を作ることができたのは思わぬ副産物でしたが、1月の城陽市消防出初式で市長が私たちの取り組みについてスピーチしていただいたと聞き、嬉しかったですね」。(川並さん)

「製作した電子基盤は、火災報知器に搭載されます。地域住民の安全に寄与する製品を京田辺市の幼稚園や小学校、一人暮らしの高齢者の家などに設置することが決まっています。2月上旬に南山城学園を訪問したところ、ロボットの動作が安定しているのを確認できました。しかし半導体不足で電気チェッカーが届いていないため、製品の出荷はもう少し先になりそうです。私たちは2022年度でプロジェクトから引退となるため、製造の継続や出荷、工賃向上については後輩たちへ引き継ぎました。利用者さんや職員のみなさん、地域社会に生まれた社会的インパクトの可視化にも取り組んでほしいと願っています。これまで福祉分野では、工業分野とコラボレーションすることはなかったようです。南山城学園での取り組みが軌道に乗れば、他の福祉施設にも展開できるのではと考えています」。(川並さん)