menu

みんなの仏教SDGsウェブマガジン ReTACTION|みんなの仏教SDGsウェブマガジン

「他力本願」「自省利他」 今知りたい仏教の教えとは(第3話)

1639年に京都西本願寺に設けられた学寮をルーツとし、2039年に創立400周年を迎える龍谷大学。仏教の精神に基づく先進的なプロジェクトを、地域を巻き込みながら多方面で展開している。“最先端のSDGs”の手本とも言える実践から、ビジネスに生かせるヒントを解き明かす。聞き手はPIVOTチーフグローバルエディターの竹下隆一郎。

――ここまでのお話で、仏教とSDGsが深くつながっていることが分かりました。龍谷大学では「仏教SDGs」を地域社会のビジネスに生かす取り組みも進んでいるそうですね。

ソーシャルビジネスの権威として知られ、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスさん(グラミン銀行創設者)の協力も得ているというのは本当ですか。

深尾 はい。2019年に本学の創立380周年を記念して開催した「世界宗教フォーラム」の基調講演にユヌス博士を迎え、同年にユヌスソーシャルビジネスリサーチセンター(YSBRC)を設立しました。

YSBRCは、世界97拠点にあるユヌスソーシャルビジネスセンターと連携し、仏教SDGsの研究と実践を推進することを目的とした施設です。

龍谷大学のユヌスソーシャルビジネスリサーチセンターHPより

ユヌス氏も支援する仏教SDGs

――具体的にはどのような取り組みを?

深尾 起業支援のプログラムのほか、力を入れているのはソーシャル企業認証の取り組みです。

「ESG投資」や「インパクト投資」といったソーシャルビジネスの実績を評価する流れは大企業の間では広がってきましたが、地方の中小企業の世界ではまだまだ認知されていません。

せっかく素晴らしい取り組みをしていても、ローカルの金融機関が評価の仕組みを持たないために埋もれてしまうという、もったいない事例は少なくありません。

そこで、大学が第三者機関として、企業の社会的取り組みを認証することで、金融機関の与信につなげる役割を果たそうという試みです。現在、3つの金融機関と連携をしています。

家入 そんな先進的な取り組みをなさっていたんですか。海外では「ソーシャルインパクト(社会的貢献投資)」がかなり浸透している一方で、日本ではまだ遅れているなという印象だったのですが。地道に頑張っている企業からすると、心強いと思います。

ソーシャルビジネスを評価する第三者認証

深尾 財務諸表には表れにくいけれども社会にとって価値ある企業活動をきちんと評価し、未来へとつなげていく。「社会変革のハブになる」と宣言している大学として、ソーシャルビジネスを盛り上げるエコシステムの輪をより大きく速く回していきたいという思いです。

利益至上主義のビジネスでは取り残されてしまう社会課題に目を向ける姿勢は、私たちの「自省利他」の精神とも一致します。そんな姿勢を持つ経営者のまなざしを形にしていくために、金融機関も巻き込みながら社会を変えていく。つくりたいのは、共に新しい価値を生み出す「共創関係」です。

――老舗企業が多い京都の地域性も影響しているのでしょうか。

深尾 そうですね。やはり京都には、歴史が長く、伝統的な催事など地域の文化を底支えしている企業が多いです。利益至上主義から脱却した経営をうまく評価する仕組みを整えなければ、地域の文化そのものが崩壊してしまいますよね。

それに京都というエリアに限定せずとも、今の若い経営者は「利益だけを追い求めるのは、しっくりこないな」という考えの方が増えているのではないでしょうか。

脱・利益至上主義の起業家が増えている

家入 それはその通りだと思います。僕は1978年生まれで、少し上の世代のIT起業家がイケイケだった背中を見た最後の世代。僕らより年下の起業家たちは、利益至上主義の経営に疑問を感じている人が多い印象はありますね。

「頑張ってたくさん稼いで、いい時計をつけて、いい車に乗ることが幸せ……なんて嘘じゃん」と気づいている。従来とは異なる物差しで世の中を見つめている世代が始めるビジネスはやっぱり革新的です。すごく面白い時代だなと見渡しています。

――最後に、お二人から「仏教SDGs」を象徴するキーワードを一つずつお願いします。

家入 僕は「他力本願」を挙げたいです。一般的なイメージだと、この言葉は「他人任せ」みたいなネガティブな意味合いで語られがちですが、浄土真宗で説かれる本来の意味は「他者と支え合って生きよう」というニュアンスなんです。

生きていれば誰でもつらいことや悲しいことはありますよね。それを一人で乗り越えてきたという自負がある人もいると思いますが、その自信が他人への厳しさに転換される場合もある。

人は弱さを見せ合って助け合っていいんだと、僕は言い続けたい。「一人で生きられるなんて思うなよ」という自分への戒めでもあります。

「自省」はクリエイティブな営み

深尾 いいですね。私はやはり、「自省利他」という言葉をもう一度お伝えしたいです。

「自省」というと、後ろ向きなふり返りと思われがちですが、実は非常にクリエイティブな営みなんですね。龍谷大学の歴史をさかのぼると、古くは学生たちが「反省会」という名称で、世の中の問題やその解決策について議論と対話を重ねる活動を行っていたんです。

そこから生まれた『反省会雑誌』というメディアは、現在の『中央公論』の起源になりました。

「社会はもっとこうあるべきだ」「いや、こんな問題もあるのではないか」と若者が青臭く議論する中で、自分の未熟さや社会のゆがみを受け入れる。そして、改善のために皆で知恵を絞っていく。「我が我が」という利己的な考えではなく、社会を前に進めるための輪が生まれる。

私も社会の一員として、クリエイティブな社会変革を生み出す起点となる「自省利他」の精神を大切にしていきます。