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放置竹林の竹炭を農地に散布し、収穫した野菜をPR・販売・スイーツ開発。 学生とともに進める「亀岡・南丹プロジェクト」

龍谷大学は2008 年より「亀岡カーボンマイナスプロジェクト」に携わっています。京都府亀岡市の放置竹林で伐採した竹を炭にして農地に散布し、そこで収穫された野菜を販売するほか、野菜を使ったスイーツ商品の開発もおこなっています。竹炭により大気中のCO2を直接削減し地球温暖化防止に貢献、消費者が野菜やスイーツを購入することで農村を支えるという地域循環型農業の仕組みです。現在は「亀岡クルベジファーマーズ」で取り組みを継続しています。
政策学部 大石尚子准教授は初期よりプロジェクトの実証実験に携わり、学生がプロジェクトに関わる授業を担当されています。プロジェクトの意義と内容、課題と将来像についてお話しをお聞きしました。

地域課題解決と環境配慮を経済活動へつなげる

京都府亀岡市は世界に誇れる環境先進都市を目指しており、「環境保全」と「地域の活性化」が一体となったまちづくりを進めています。全国で初めて、プラスチック製レジ袋禁止条例を制定したことでも知られています。

いっぽう、亀岡市の課題のひとつが放置竹林です。そもそも竹林整備は非常に手がかかります。春はタケノコが収穫できますが、それ以外の季節は伐採などの手入れをし続けなければあっという間に荒れてしまいます。しかし竹の伐採は重労働。人手不足により竹がうっそうと茂るとイノシシなどの害獣が竹林に入り、エサを求めて田畑を荒らすようになります。放置竹林は、害獣の温床となっているのです。

2008年より龍谷大学「地域公共人材・政策開発リサーチセンター(LORC )」、亀岡市、立命館大学、京都先端科学大学と協働でおこなう「亀岡カーボンマイナスプロジェクト」が始まりました。竹林を整備し伐採した竹を焼いた竹炭を、登録農家さんが土壌改良剤として農地に散布する「炭素貯留型農法」でお米や野菜を栽培します。竹やあらゆる草木は枯れて分解される過程でCO2が放出します。そこで竹が枯れる前に竹炭にすると炭素を閉じ込め、大気に放出されるCO2を削減することができます。また炭は土壌を肥沃にする効果が期待されています。「炭素貯留型農法」で栽培されたお米や野菜をクルベジ®︎として認定し、協賛企業の名前を入れたシールを袋に貼り、亀岡市内のスーパーマーケットや直売所で販売。市民はクルベジ®︎認定の野菜を購入することで地域を応援し、地球温暖化防止に貢献できるというスキームです。

亀岡市は約10年間、農家さん向けに竹炭の購入費用を負担していましたが、現在は補助金の交付を取りやめています。それもあって、クルベジ®︎野菜を栽培する農家が減りましたが、継続された農家の方々の間では「環境に配慮した農業をしたい」「生まれ育った地域を元気にしたい」「カーボンマイナスに貢献したい」という想いが高まったと感じています。2021年度より龍谷大学が亀岡市と連携を取りつつ、南丹市・日吉地区の大向営農組合も参加する新体制「亀岡・南丹プロジェクト」となりました。

学生の新鮮な視点が地域と社会を変えていく

2017年より私が担当教員となり、「政策実践・探究演習」という正課授業で「亀岡・南丹プロジェクト」を進めています。1年を通した授業で、テーマは「『つながり』が生み出す持続可能な農業・農村づくり」です。学生が地域に入り課題を見つけて解決に導くというフィールドワークが中心です。学生は20人前後で、<クルベジ®︎のPRと商品開発><南丹市の山村集落で地域の特性を活かした環境配慮方法の勉強会><農家さんとの相互理解を深めるワークショップ>の3チームに分かれて活動しています。地域にとっては、学生の視点から生まれる新鮮なアイデアが刺激になっていると感じています。

2022年度のフィールドワークは有機農家さんを訪問、田畑の見学、農作業体験から始まりました。学生たちはスイーツに向く野菜は何があるのか、どのような味が好まれるかを検討し基本アイデアを立てました。レシピは亀岡にある洋菓子店のパティシエに協力をいただき、商品名やキャッチコピー、パッケージデザイン作成に取り組みます。9月に野菜提供いただいた農家の方々や地域の方々に企画発表・試食・検討、10月に販売、12月に大学で報告会をおこないます。

学生たちは地域の農家さんとコミュニケーションを取ったり商品開発など企画を進めたりと積極的に動いていますが、授業の最終目的は企画の成功ではありません。私が学生に期待しているのは、より良い人間社会をつくるための根本に食農があることを知る、社会を変革させるために必要な視座を得る、イノベーションの価値を創造する、その価値を社会に実装する手法を試し学びにつなげることです。

全国のモデルケースとなることが理想

プロジェクトの課題は多くあります。まず竹炭作りです。実は放置竹林の整備がたいへん重労働でありそもそもの竹の量が足りないという問題です。また、竹炭を手作業で製造しているためCO2削減効果を数値化することが困難です。次に、経済です。CO2が削減できるだろうという机上論だけでは農家さんの数が増えません。クルベジ®︎野菜を育てる金銭的メリットを提示できるよう、何らかの形でインセンティブを考える必要があります。また、炭化作業の簡素化、クルベジ®︎野菜やスイーツの販売店の拡大、農家の担い手不足の解消なども、学生たちと方策を探っているところです。

「亀岡カーボンマイナスプロジェクト」開始から14年たちました。これまで数多くの農家さん、地域、企業、自治体の方々、学生たちと関わり、成果と課題がクリアになってきました。理想は、プロジェクトが私や学生から手を離れることです。プロジェクトが市民の方々に広く認知され、地域の方々が自発的に動けるような仕組みを作ることができれば社会的に大きなインパクトとなり、日本各地にある放置竹林に悩む地域でも同じ手法が採用されるでしょう。地域で循環する環境保全型農業が広まることを期待し、学生たちと研究を続けています。