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地域の在来種を絶滅させ、多様な生態系を崩壊させる「国内外来種」の放流が問題に

近年、キンギョやヒメダカといった観賞を目的に人工的に改良された魚類や、国内の他地域に生息していた魚類を野外に放流し、自然環境に悪影響を与える外来種問題が増加しています。生物多様性を守るためには、外来種の放流をさせないこと、放流されたとしても早い段階で駆除することを、広く伝える必要があります。今回は、淡水魚をメインに生態系の研究を進める、龍谷大学 生物多様性科学研究センターの伊藤玄客員研究員にお話を伺いました。

編集部:外来種と聞くとブラックバスやブルーギルなど、海外から持ち込まれた生物を想像していたのですが。

伊藤:外来種とは、もともとその地域にいなかったのに、人間によって持ち込まれた生物の総称。ブラックバスやブルーギルはもちろん、鑑賞用のキンギョやメダカも野外に放流されれば外来種です。もともと日本の野外にいた在来種であっても、本来の生息地ではないところで発見されれば、「国内外来種」と呼ばれます。

編集部:岐阜県の野外水域で観賞用メダカが発見されたという論文を、伊藤先生と世界淡水魚園水族館が共同で発表され、在来生物への悪影響を懸念しているとありましたが、放置するとどのような変化が起こりうるのでしょう。

伊藤:「世界淡水魚園水族館 アクア・トト ぎふ」の飼育員さんが野外で観賞用のメダカを採集され、僕に連絡をくださったのです。観賞用と在来種のメダカの見た目は違いますが、一緒に繁殖できる能力を持ち合わせています。もし放流されたメダカが在来種のメダカと交雑してしまうと、地域特有の遺伝子が喪失してしまう危険性が考えられます。例えば環境変動で、ものすごく寒くなり在来種のメダカが大量に死んでしまう事態が起きたとします。寒さに強い遺伝子を持っている個体がいれば生き残れる可能性があるのですけど、そのような遺伝子が失われてしまっていたら、生き残れずに絶滅してしまうかもしれません。

編集部:観賞用のメダカの放流は、なぜ行われたのでしょう。

伊藤:メダカを飼育するというのが昨今ブームになっていて、綺麗だから飼いたいという人も、高く売りたいという人もたくさんいます。でも、繁殖させたメダカの子どものほとんどは、綺麗じゃなかったり、形が悪かったりするのです。売れない魚を飼い続けるのはお金がかかり、持て余した結果、川に放流してしまうのだと推測します。ネット上で簡単に生物が売買されてしまう時代なので、放流している人が個人なのか企業なのかは特定できませんが、野外に逃す危険性をきちんと認識してもらいたいです。

編集部:2021年5月、大阪府淀川水系で採集されたタナゴをDNA分析したところ北陸地方のタナゴだった、という論文もありましたね。

伊藤:タナゴの鰭からDNAを分析し、おそらく福井県の大野市に生息しているタナゴだと推測しました。大野市で得られた遺伝子の種類とほとんど一致していましたし、大野市で密漁が増えているということも聞いていたので。淀川水系には、絶滅の危機にあるタナゴの在来種がいて、持ち込まれたタナゴと交雑してしまうことは避けなくてはなりません。外来種が生き残り、大事な在来種を失ってしまうという危機感を感じました。

編集部:ひと昔前ではわからなかった事実や危険性が、最新の研究で解明されつつあるのですね。

伊藤:例えば、真っ赤なアメリカザリガニって僕も飼った経験がありますし、子どもの遊び相手として、身近な水辺の生き物の代表でした。でも今は、生態系を改変してしまう注意が必要な外来種として扱われていて、放流や販売を禁止する動きが進んでいます。アメリカザリガニが繁殖した池では、水草が食べ尽くされ、水草に卵を産んでいた魚類や水生昆虫も一緒に激減してしまった、という事例があります。

編集部:在来種を守るためには、外来種を駆除していくことも必要なのでしょうか。

伊藤:個体そのもの、生き物には申し訳ない気持ちはあるのですけど、外来種を放置しておくと、罪のない在来種の生き物たちが減ってしまう。それが巡り巡って自然界にも、そして人間にも影響があると知ってほしいと思っています。手遅れになる前になるべく早く駆除することが大切です。在来種が絶滅したら生態系そのものも変わってしまい、僕らが親しんでいる生き物が世界からいなくなってしまうのですから。

編集部:自分の地域の生態系を知るには、どうすれば良いのでしょう。

伊藤:2017年に、龍谷大学瀬田キャンパスに生物多様性科学研究センターが設置されました。センターの活動の主軸となるのが、環境DNA分析です。環境DNA分析とは、汲んできた水から生き物由来のDNAを検出し、水を汲んだ場所にどういった生き物が生息しているのかを明らかにする技術です。
特にセンターで力を入れているのが、琵琶湖の生物多様性の保全です。昨年に続き今年も、センターと滋賀県が主催するプロジェクト「びわ湖の日 チャレンジ100地点環境DNA調査」を実施し、琵琶湖の環境や生き物に関わる様々な団体さんと一緒に、琵琶湖の湖岸100地点で採水を行いました。昨年の調査では、琵琶湖の北湖と南湖の環境の違いに応じて、魚類の種類も違うということが明確になりました。
今年の調査結果はまだ分析中なのですが、どのような魚が生息しているかなどをデータにまとめ、ご協力いただいたみなさんに広く公表します。そのような活動に参加することで、地域の生物多様性を知るきっかけになると思います。

編集部:禁止すべき放流の定義なのですが、ある川で捕まえた魚をしばらく飼育して、また同じ川に戻すのなら問題はないのですか?

伊藤:自然に返してあげるという名目で逃がすことは、厳密に言えばやめた方がいい行為です。同じ川といっても、同じとそうでない場所の境目って引けるものではないですからね。一度、人間が飼ってしまうと知らないうちに病気になっていて、在来種の魚に蔓延してしまうことも、考えられない話ではないので。一度飼い始めたのなら、命がある限り飼い続けていただきたいです。

編集部:生き物を飼うことが、生物多様性の保全に相反する行為になってゆくのでしょうか。

生き物を飼うこと自体は、決して悪いことではありません。生き物を遠ざけ、無関心になってしまうことの方がよっぽど怖いことです。
子どものころに生き物を飼い、生き物が身近に感じられる人ほど、大人になってからも自然や環境について、本気で考えることができると思います。
僕も、生き物を飼い鑑賞するのが好きな幼少期を過ごしてきましたし、周りには、生き物好きが高じて研究者になった方も多いです。なので、飼育ではなく、外来種を放流するのがよくない行為だということを、多くの方に知っていただきたいと思います。