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誰もが自分らしく生きられる社会へ―「Tokyo Pride」で龍谷大学が想いを発信

性的マイノリティに対する差別や偏見で誰かが傷つくことのない社会を目指し、龍谷大学では2017年に「性のあり方の多様性に関する基本指針」を制定しました。トイレや更衣室の利用においても、戸籍上の性別にとらわれず、自らの選択に基づいて利用できるよう環境整備を進めています。
こうした取り組みの一環として、2019年からLGBTQ+イベント「Tokyo Rainbow Pride」(2025年から「Tokyo Pride」)への参加もコロナ禍を挟んで継続しており、今年で4回目の出展となりました。今回は、会場で多様な想いにふれた学生3人に話を聞きました。

NHK Eテレ『虹クロ』でも取材を受けた、本学学生チーム「にじLOVE」の3名

心の内にある共感や想いを、かたちにして

2025年4月に梅小路公園で開催された「Kyoto Rainbow Pride」に続き、6月7日・8日には東京・代々木公園で開かれたLGBTQ+の祭典「Tokyo Pride」にも、龍谷大学の学生チーム「にじLOVE」が参加しました。今回、ブース運営を担ったのは、社会学部4年の野村碧海さん、松澤ひかりさん、実践真宗学研究科3年の長尾菜摘さんの3名です。彼女たちは、学内でジェンダーやセクシュアリティに関する取り組みを推進する宗教部職員と連携し、二人三脚で準備を進めてきました。

アジア最大級のLGBTQ+イベントである「Tokyo Pride」は、2025年も大盛況。2日間で27万人以上が来場し、180を超えるブースが出展されました。そのなかで、関西の大学として唯一ブースを出展したのが龍谷大学です。

ブースでは、「ほんまそれ!共感して繋がろ~」と題したシール投票企画を実施しました。これは、「Kyoto Rainbow Pride」で寄せられた参加者の声をピックアップし、その中から共感するメッセージの横にリアクションシールを貼ってもらうというものです。

松澤 ひかりさん(社会学部4年生)

「『周りに相談できる人が少ない』といった《不安》には82枚、『法律も医療も充実してほしい』といった《期待》には183枚、『他国と比べて理解も制度化も進んでいない』といった《怒り》には63枚のシールが集まりました。
中でも、《期待》のシートに最も多くのシールが貼られたことが印象的でした。“みんな、より良い社会を願っているんだ!”という想いが“見える化”されたようで、胸に残りました」(松澤さん)

野村 碧海さん(社会学部4年生)

「リアクションシールの合計は328枚。想像以上に多くの方が参加してくださって驚きました。投票の説明をしている際に、来場者の方々とお話しする機会もあったのですが、『東京では本当の自分でいられる』という言葉がとても印象に残っています。『自分が暮らす地域にもLGBTQ+関連のイベントはあるけれど、知り合いに会いたくなくて…。東京ほど多様性が浸透していないから肩身が狭い。でも「Tokyo Pride」では、本当の自分でいられる』と話されていて、このイベントの持つ意味を改めて感じました」(野村さん)

また、参加者に愚痴を自由に書いてもらう「グチコレ・コーナー」も設置しました。これは、長尾さんが所属する実践真宗学研究科で代々受け継がれてきた「グチコレ」をアレンジしたものです。

長尾 菜摘さん(実践真宗学研究科3年生)

「実践真宗学研究科の先輩方が2012年に始めた『グチコレ』は、街ゆく人々の愚痴や悩みを対面で聞き取り、コレクションするというユニークな活動です。
愚痴って、会社でも飲み会でもネガティブに扱われがちで、つい溜め込んでしまうことが多いと思うんです。でも、本音のひとつでもあるんですよね。だからこそ、“みんなが気軽に愚痴を言い合える社会になってほしい”という願いが込められています。
今回は対面ではなく、メモに愚痴を書いてもらって、それをくしゃくしゃに丸めるという、ストレス発散型のスタイルにしました」(長尾さん)

さらに長尾さんは、2人の協力を得て、自身の研究テーマでもある仏前結婚式に関するアンケートも行いました。

「私自身、将来は僧侶になることを目指している宗教者です。龍谷大学は浄土真宗の精神を建学の精神とする大学であり、その精神に根ざして行動することでLGBTQ+の方々が抱えさせられている生きづらさにも寄り添えるのではと感じています。
日本では同性婚は法的に認められていませんが、お寺では同性でも異性でも結婚式を挙げることができます。『どなたでもどうぞ』という仏前結婚式の存在を広めていくために、みなさんの意識を知りたくて今回アンケートを行いました。ちなみに、仏前結婚式を知っていた人は全体の約3割でした」(長尾さん)

「グチコレの中には『女同士でも結婚させて』という愚痴もいくつかありました。そうした声を受けて、長尾さんが仏前結婚式を広めようとしているのは、とても意義深いことだと思います。認知が高まれば、誰もが自分らしいかたちで結婚式を挙げられる社会に近づくと思います」(野村さん)

キャンパスの外に出て気づいたこと

大学キャンパス内では、「いろんな性的指向や性自認があって当たりまえ」という環境や意識は少しずつ浸透していますが、イベントへの参加を通して、社会にはまだ生きづらさを感じる場面が多いことを学生たちは実感しました。

「京都や東京のイベントに参加して、多様性に対する意識が大きく変わりました。出会った人の数だけ想いや考え方があると知って、自分の視野が広がったと思います。『にじLOVE』は、秋に関西で開催される『レインボーフェスタ!』にも参加予定なので、今回の経験を活かして、新しいことに挑戦したいです」(松澤さん)

「活動を振り返って、自分の言動を反省することも多くありました。例えば、サークルや飲み会で無意識に『彼氏いるん?』『彼女いるん?』と聞いてしまっていたこと。そうした何気ない発言に傷ついた人がいたかもしれません。これからは、もっと言葉遣いに気をつけていきたいと思いました」(野村さん)

「アルバイト先で『こんなイベントに参加したんですよ』と話しても、あまり興味を持ってもらえなかったり、『偏った考え』と受け取られたりすることもありました。“政治・宗教・野球”の話は御法度と言われますが、“人間の性”についても、まだ自由に話せる社会とは言いがたい。もっと自由に話し合える世の中にしていきたいです」(長尾さん)

後輩へとバトンをつないでいきたい

「にじLOVE」のメンバーたちは、現場で出会った人々の声や想いに触れ、「自省利他」を実践していくことの難しさや大切さを改めて実感しました。この活動を絶やしたくない、もっと多くの人に知ってもらいたいという思いが一層強まったといいます。

「今後ゼミの先生にも相談する予定ですが、大学生のうちにできることとして、今回の活動を後輩たちに受け継いでいきたいと考えています。東京のイベントでは、龍谷大学LGBTs交流サークル『にじりゅう』の卒業生の方が来場され、お話しする機会がありました。つながりを感じることができて、とても嬉しかったです。大学として長く続けてきたイベント参加など、貴重な経験を後輩たちにもぜひ体験してほしいです」(松澤さん)

「今回の経験を通して、より多くの学生が気軽に相談できる場が広がっていけばいいと感じました。龍谷大学には深草・瀬田・大宮の3つのキャンパスがあります。深草キャンパスだけでなく、それぞれのキャンパスに相談できる場があれば、より多くの学生が支援につながるのではないでしょうか。」(野村さん)

顕真館ロビーに設置されたLGBTQ関連の掲示や冊子

この活動のなかで、学生たちが大きな支えとして実感したのが、宗教部の存在でした。

「私は宗教部の活動をとてもリスペクトしています。ただ、学生のあいだでは、その存在があまり知られていないように思います。宗教部がある顕真館のロビーには、大学生のための『LGBTQサバイバルブック』などの冊子やポスターがたくさん展示されています。少しでも気になった方は、ぜひ気軽に足を運んでみてください」(長尾さん)

この活動に携わった学生たちは、現場で出会った声や表情から多くを学び、自らの言葉で社会へ発信する力を育んでいきました。大学での学びと実践が交わる場として、「Tokyo Pride」への参加は、彼女たちにとってかけがえのない経験となったはずです。
そしてその想いは、これから活動に加わる後輩たちにも、きっと静かに力強く伝わっていくでしょう。

また、こうした学生たちの取り組みは社会的にも注目され、NHK Eテレ『虹クロ』にて紹介されました。番組では、「にじLOVE」の学生たちが実施したアンケート調査やワークショップの様子が放送され、その活動の意義が広く発信されています。ぜひご覧ください。

 


▼NHK『虹クロ』番組テキスト版はこちら

初回放送日:2025年8月5日
「新しい環境って難しい… 自分らしさを貫くには?」
https://www.nhk.jp/p/ts/WYNW817V7Y/episode/te/BMM7513582/