2024年6月、滋賀県湖南市、龍谷大学井上辰樹研究室、タニタヘルスリンク、RIZAP、ABC Cooking Studioは、「健康づくり習慣化の推進に関するパートナーシップ協定」を締結しました。この協定は、湖南市民の健康維持をサポートし、生活習慣の改善を促進することを目的としています。
湖南市の20~64歳の働き世代で、週2回以上の運動を1年以上継続している人の割合は、男性22%、女性12.6%であり、県平均よりそれぞれ4.1ポイント、7.6ポイント低いことがわかっています。
この課題に対応するため、龍谷大学社会学部・井上辰樹ゼミの学生20名が、湖南市内でのフィールドワークを通じて運動・スポーツ資源の情報を収集しました。そして、市内4つの中学校区ごとに、運動ができる公共施設や公園などの活動場所、おすすめの運動方法をまとめた「運動・スポーツ関連資源マップ」(以下、「運動マップ」)を作成しました。
ターゲットは運動不足になりがちな働き世代(20~64歳)の女性
社会学部の井上辰樹教授は、体育学・公衆衛生学が専門で、10年以上にわたり滋賀県湖南市の健康増進事業に関わっています。ゼミの学生たちは、学生ならではの視点を活かし、市民が実際に利用しやすい運動マップを作成しました。
主なターゲットは、運動不足になりがちな働き世代の女性です。「小さな子どもを育てているお母さん」など、具体的な利用者を意識しました。
方向性を統一するため、ターゲットの視点を反映したワークショップを実施。多目的トイレの設置、街灯や歩道の安全性、休憩場所や自動販売機の有無、子どもが遊べる環境、駐車場の利便性、景観スポットなどの意見が出されました。
その後、学生たちは湖南市職員と共にフィールドワークを行い、市内の公共施設や公園、名所を巡って調査。ワークショップで出た視点を活かし、地域の魅力と運動習慣を結びつける方法を模索しながら、運動マップに反映しました。
湖南市でのグループワークとフィールドワークは計5回実施。運動マップでは、①三雲エリア、②石部エリア、③菩提寺・岩根エリア、④下田・水戸エリアの4エリアを取り上げ、各エリアを学生5人1グループで担当しました。
運動マップのプラン企画・編集・写真撮影を学生が担当
運動マップは、プロジェクト開始から約6ヶ月後の12月に完成。A4サイズ、12ページのカラーデザインで、エリアごとのマップやウォーキングコースのほか、おすすめポイントやイベント情報が紹介されています。所要時間やカロリーの記載に加え、寺社や絶景スポットも盛り込まれ、運動への関心を高める工夫が施されています。
各エリアには、消費量200キロカロリー程度の軽運動プランが提案され、市民が気軽に取り組める内容です。構成や写真撮影はすべて学生が担当し、デザインは地元のデザイナーが明るく親しみやすいイメージに仕上げました。
また、準備運動や座ったままでできるストレッチメニューも掲載。仕事場や自宅で隙間時間に簡単に取り組める内容になっています。メニューは学生が考案し、井上教授が監修。撮影モデルや写真も学生が担当しました。
今回は、この活動に参加した2人の学生にお話を伺いました。

左から生田 妃菜未さん・脇阪芽生さん
脇阪芽生さん(三雲エリア担当)
「三雲エリアのテーマは『歴史を感じ、子どもとめぐる三雲ツアー』です。子どもと一緒に歩ける運動コースや、国の天然記念物であるウツクシマツ自生地、三雲城跡などを、3段階の難易度で紹介しました。
三雲エリアには三雲城跡や寺社仏閣、公園など見どころが多く、スポーツ初心者の女性が気軽に運動でき、地域の魅力を再発見できる点を重視しました。私自身、彦根市出身ですが、三雲城跡に登るのは初めてで、標高330.9メートルの頂上からの絶景には驚きました。歴史と自然を楽しめるコースなので、運動が苦手な方にも挑戦してほしいです。」
生田妃菜未さん(菩提寺・岩根エリア担当)
「菩提寺・岩根エリアのテーマは『自然や歴史を感じながら親子で運動しよう!』です。ターゲットは子どもがいる働くお母さんで、遊びながら体を動かせるスポットや、生活圏内で立ち寄りやすい施設を紹介しました。
フィールドワークを通じて、子ども服の譲渡会や遊べる公園があり、子育てに適した環境だと感じました。最近滋賀県に引っ越してきましたが、湖南市には魅力的な場所が多いことに気づきました。湖南市外の方にも、ぜひ足を運んでほしいです。運動マップを活用して、運動を日常に取り入れ、健康増進に役立ててほしいと思います。」
報告会で学生が4エリアの魅力を紹介
2024年12月17日(火)、龍谷大学瀬田キャンパスで「運動マップ成果報告会」が開催されました。井上教授の概要説明の後、三雲エリア(脇阪さん担当)、菩提寺・岩根エリア(生田さん担当)に加え、石部エリア、下田・水戸エリアが紹介されました。
石部エリアでは、親子や家族で楽しめる公園や歴史ハイキングが紹介され、「自然を満喫しながら運動できるスポットが多い」と発表されました。下田・水戸エリアでは、多目的公園やトレーニング施設、日枝神社の夫婦杉が紹介され、「忙しい中でも気軽に運動を取り入れてほしい」と学生が語りました。
湖南市健康福祉部長の奥村氏は「健康マップには私たちが気づいていなかったスポットや伝統行事が紹介されており、新たな発見となりました。このマップが、市民の新たな健康づくりのスタートとなると感じています。井上教授と学生の皆さん、ありがとうございました」と感謝の意を表しました。
運動マップの配布と市民の反応
運動マップは、市役所東庁舎、西庁舎、まちづくりセンター、市内の大型商業施設などに設置されました。2025年2月時点で、配布した3,000部の在庫が残りわずかとなったため、2,000部を増刷し、3月にはこども園の保護者へ配布しました。
また、2025年1月に実施された健康づくり習慣化モデル事業の参加者アンケート(回答者247名)では、147名が『運動マップ』を見たと回答。そのうち約7割(100名)が『とても満足』『やや満足』と答えました。
具体的な意見としては、「手書きで親しみが持てた」「運動量の目安がわかりやすい」「知らなかった公園を知ることができた」などがあり、運動マップは市民の日常に役立つツールとして評価されています。また、「湖南市の見どころやウォーキングコース、ストレッチ体操まで掲載されており、とても充実した内容だ。全世帯に配布してはどうか」という声もあり、今後も湖南市民の健康づくりに役立つ一冊として期待されています。