地震や台風、豪雨などの自然災害が起こってしまうと、被災したごみである「災害廃棄物」が大量に発生します。例えば、損傷した家具や布団、家電、ガラス、陶磁器くず、土砂、ドアなど被災家屋の一部、畳などです。
「災害廃棄物の迅速な処理が、復旧・復興のカギになります」と話すのは、龍谷大学 先端理工学部で水処理技術を主に研究されている奥田 哲士 教授です。
今回は奥田先生に、災害廃棄物とは何か、災害廃棄物は誰がどのように処理しているのか、そして防災のために普段から準備すべきことをお聞きしました。
災害廃棄物の特徴は「大量のごみが短期間に出される事」
災害直後は人命救助とライフライン復旧が最優先となります。1週間程経つと、被災者の方々は被災した家財等の片付けを始められます。その時の片付けごみは、普段のごみよりは引っ越しや大掃除の際のごみに近く、とにかく居住スペースを確保せねばならない一方で、市町村も被害を受けて収集だけでなく受け入れすらできないこともあり、冒頭の写真のように街にごみが溢れることも少なくないです。これらのごみが片付かないと、通行の妨げというだけでなく精神的にも日常生活を取り戻せません。そのため、復旧・復興を進めるには災害廃棄物の処理も大切です。
2011年に発生した東日本大震災で発生した災害廃棄物は、平時の一年間に発生するごみの量の10倍以上で、早期に処理を完了するため、石巻市に仮設の焼却炉が建てられたりしました。
私の主な専門分野は水処理ですが、水処理でもごみが発生するので、そのリサイクルなど廃棄物処理の技術開発もしています。その延長で災害廃棄物の研究もするようになりましたが、災害時には水処理施設が停止したり、配水管が破損したりする場合もありますので、緊急対応の水処理の研究などに水処理の知識を活かすこともあります。
また私は、廃棄物資源循環学会の災害廃棄物研究部会や、環境省が事務局となり運営する「D.Waste-Net」に有識者として参加しています。「D.Waste-Net」は環境省が事務局となって運営されており、平時は災害廃棄物対策の伝承などをおこない、発災時は図に示すように、被災した自治体に専門家や技術者を派遣するなどして、現地支援をおこなうネットワークです。
このようなネットワークなどで、過去の復旧・復興の経験から、多くのデータや知識が蓄積されてきました。それらを活かして復旧が進んだ例もあります。
2014年8月、広島市内に線状降水帯がかかり、局地的な豪雨に見舞われました。私はこのとき、広島大学に勤務しており、個人的にボランティア活動をおこなったり、研究調査をしたり、図に示されている「仮置き場」や「中間処理施設」を見学したりしました。東日本大震災の経験や情報が、この豪雨災害での処理計画の早期作成や、99%以上の災害廃棄物リサイクル率などにつながったと思います。
災害廃棄物の処理は被災者、専門家、自治体、ボランティアが力を合わせておこなっている
2018年7月、岡山県倉敷市真備町で豪雨が発生し、河川が氾濫したことで町の全域が水に沈みました。私が訪れたときには、道路の脇にごみが壁のようになって続いていましたが、その時の写真が冒頭のものです。
そのごみの中には消火器や灯油缶、農薬類など、危険なものも混じっていました。生活する空間に危険物を放置するわけにはいきませんので、壊れた家財などと一緒にそれらも道路に積みあがってしまいます。
ただ、自衛隊や自家用トラックなどにより、災害廃棄物は少しずつ写真のような仮置き場に運ばれます。そこでは災害時であっても、また担当の自治体職員さんも被災されているにも関わらず、適切な処理やリサイクルのために分別されながら、一時保管されます。ボランティアの方々が、災害ごみの移動や分別を援助される場合もあります。
2024年1月にも、石川県で大地震(能登半島地震)が発生し、道路が寸断、迂回路がない、3ヶ月以上も断水していたためトイレも使えないという状態になりました。そのような酷い状況でしたが、龍谷大学のボランティア・NPO活動センターは、比較的早い時期から数十名の学生たちの支援活動をサポートされました。2回にわたる活動では、被災した家屋や納屋から家財の運び出しをし、ごみの分別もされたという報告を聞いております。
9月には第3回目のボランティア活動がおこなわれ、現地で家屋などの片付けが行われたようです。参加された学生さんには敬意を表するところですが、これから参加される学生さんも、自分たちの目で被災地を見ると「災害は他人ごとではない、いつ自分に降り掛かってもおかしくない」ことを実感され、防災や災害廃棄物処理への意識が高まることにもつながると思います。
日頃から不要なモノを捨てておくことも、防災対策となる
被災者に対し、災害廃棄物の分別についての意識調査をしたことがあります。研究室の学生とともに熊本、広島、仙台などに足を運び、被災からの年月が災害廃棄物やその適正管理の意識にどう影響するかの聞き取りをおこないました。
災害発生直後は正確な情報が不足し、「非常事態だから、ごみは何でも分別をせずに出して良い」などの独自の間違った認識を持つ人が過半数でしたが、1年後でも約1/4の方が同じように誤った認識を持たれていた場合もあったことはやや驚きでした。
災害により日常生活が奪われると、心身ともに余裕がなくなります。しかし、余裕がないからといって分別をせずにごみを出すなどしてしまうと、出された方にも危険が及んだり、災害廃棄物を適切に処理やリサイクルすることが難しくなってしまい、復旧・復興が遅くなる場合もあります。一方で調査からは、適切な情報を被災者やボランティアに伝えれば、大変な状況でもある程度の分別や一時的に排出を待ってもらえる可能性も見えてきました。
防災のために平時にしておくべきことは「事前の準備」です。防災グッズを揃えておくという物質的な準備はもちろん、災害発生時にどう動くべきかを具体的に考えておくことも大切です。友人や家族などと「災害が起こったらこうしよう」と話すこともひとつで、その話題に災害廃棄物も加えて欲しいです。
不要なものは普段から捨てておくことも、広い意味で災害廃棄物対策といえます。不要だけど持っているものを「退蔵品(たいぞうひん)」と呼びます。使っていない農薬、ガスボンベ、古くなった灯油などは、火災が発生した場合などに危険に直結しますので、防災のためにも、災害廃棄物を減らすためにも、退蔵品はなるべく捨てておくべきですね。
山や川、海、雨、風、雪などの自然は美しいです。しかし自然災害も自然の一部で、「自然は畏怖すべきものでもある」と思い出させてくれます。自然もお釈迦さまと同じく、「安らぎ」とともに「苦」も教えてくれ、私たちはそれらを受け入れて行動を変えることで幸せになるのだと思います。「正しく恐れ敬う」ことで、日頃からしっかりと防災対策、廃棄物対策をして、万一に備えてほしいと思います。
最後に、2024年1月の能登半島地震において被災された皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。一日も早く、皆様が日常生活を取り戻し、復旧・復興が進むことを心からお祈りいたします。