■会社名
TERA Energy 株式会社
■インタビュイー
代表取締役
竹本了悟さん
編集部:会社を設立するまでの経緯を、教えてください。
2018年6月に「TERA Energy 株式会社」をしたのは、2017年11月に参加した仏教と環境をテーマにした勉強会がきっかけです。当時の私は、恥ずかしながら全く環境のことに興味はなく、個人が何か行動したところで、いくら節電したところで、意味はないのではないかと考えていました。そんな中、その勉強会で耳にしたとある事例にとても興味が湧いたのです。その事例というのが、ドイツの地方都市のおじさんたちが電力会社を設立し、その収益で赤字路線のバス会社を買い取り、無償でバスを走らせているという話でした。地域のおじさんたちだけで電力会社を作っちゃったのが、まずびっくり。もうひとつ、いわゆるクラウドファンディングなど単発でお金を集める方法ではなく、インフラ事業に紐づけることでバス会社を継続的に運営でき、しかも無料で走らせる予算規模のお金をまわしている、ということにびっくり。インフラ事業だからできる、すごい仕組みだなと思ったのです。当時の私は、「京都自死・自殺相談センターSotto」を仲間たちと運営していて、安定した資金が十分にないため、必要としている多くの人にマンパワー不足で十分な支援を提供できていないという課題を強く感じていました。そんな中、この事例に出会って、このような仕組みを実現できれば、Sottoのような非営利の活動を継続的に支える経済循環の仕組みがつくれるのではないかと考え、新電力会社の設立にチャレンジすることになったのです。
編集部:御社の事業内容や強みを、教えてください。
私は僧侶ですからビジネスなどしたことがありませんでした。起業するにあたって、どの法人格でやるべきか迷いました。NPO法人、社団法人など、それぞれの法人のメリット、デメリットについていろいろな議論をした結果、株式会社として設立することにしました。その理由は、一般的に安心感が得られ、既存の電力会社と同じ線上にある選択肢のひとつになると考えたからです。また、寄付つきでんきの仕組みに、宗派を超えた多様なお寺や宗教界を巻き込んでいきたかったので、株主は宗教者ばかり、いろんな宗派のお坊さんに入っていただいています。
TERA Energyの提供するテラエナジーでんきの特徴は2つあります。一つは、起業の理由でもある経済循環の仕組みを提供するのが、寄付つきでんきという、電気代で身近な人を応援できる仕組みです。ご契約いただいているお客様の毎月の電気量料金の最大2.5%を「ほっと資産」として積み立て、お客様が選択した団体に「TERA Energy」が寄付をする仕組みです。ここで理解していただきたいのが、寄付はあくまでも「TERA Energy」の収益から行なっているということ。お客様の電気代に寄付分を上乗せしていない、というところがポイントです。寄付を上乗せする寄付つきでんきだとハードルが高いですし、よほど意識が高くないとやりたいと思わないものです。どちらかというと、「普段はそんなに寄付などしていません」と言う人に、「TERA Energy」の電気を使っていただき、誰かの支えになれていることに居心地のよさを感じてほしいのです。
もう一つの特徴は、仕入れている電力の約8割は再生可能エネルギー(FIT電気を含む)だということです。太陽光、風力、水力、バイオマスなどを活用した再生可能エネルギーを積極的に活用し、地産地消の電源を増やすことに貢献して、未来の子どもたちにできるだけ良い環境を残したいと考えています。
編集部:御社のサービスを受けるには、どんな手続きが必要ですか?
電力会社を変えること自体は、とても簡単。スマートフォンの会社を変えるより明らかに簡単ですよ。感覚としては、ネット上でサブスクの何かを購入するのに近いでしょうか。現状、契約している電力会社に何か伝える義務もありませんし、「TERA Energy 株式会社」のウェブサイト上で、基本情報と支払い情報を入力してもらえば、次の検針日には切り替わります。一度加入して、またほかによい会社が見つかれば、翌月に変えることもできます。それくらい気軽な手続きです。電気の質やエンドユーサーの使い心地は、どこの電力会社もまったく同じものですので、その点も安心していただければと思います。
編集部:ソーシャル企業認証に応募した理由を、教えてください。
僕自身も龍谷大学の大学院にお世話になったひとりですし、龍谷大学で4年ほど教えていたという、これまでのご縁が大きかったですね。浄土真宗の信仰を持っていることもあり、このような形でご一緒できてすごく嬉しいです。私たちの寄付つきでんきの考え方は、とっても仏教的だと思いませんか?仏教では、人間の行為を身業(体)、口業(言葉)、意業(心)の三種に分類した、身口意の三業(しんくいのさんごう)のうち、最も要なのは心だと言われています。寄付って一般的に行動を伴いますけど、うちの寄付つきでんきは心でできる意業と位置付けることができます。応援したいという気持ちが具体的な寄付という形でつながっていく。一般的な今ある仕組みだと、何か思ったところで状況は変わらない、ということがほとんどだと思いますが、そうではなくて、思ったり、応援したりする気持ちを表明するだけで、いろんなものが動いていく、影響し合えるという仕組みが、個人的にもとても気に入っています。
編集部:ソーシャル企業認証を受け、どのようなメリットが生まれるとお考えですか。
認証制度にどの様な効果があるのか、あまりイメージを持てていなかったのですが、ソーシャル企業認証制度に登録したことで、その考えが変わりました。「認証企業の中の企業と一緒になにかしたい」、「どうせ選ぶなら、認証を受けた新電力会社を選びたい」と言っていただけた案件が、いくつかありました。今では、中立的な立場から認証を受けるということに、大きな意味があると実感しています。ソーシャルビジネスをうたっているけれど縁もゆかりもない企業より、アカデミックな大学という教育期間が調査をして認証を与えた企業というのは、取引を開始する上でとても安心感があるのだと思いますね。
編集部:今後、取り組んでいきたい新事業、社会課題があればお教えください。
最終的にめざすところは、コミュニティづくりだと思っています。今は電力というインフラ事業の一部を担っていますが、将来的には衣・食・住すべてをまかなえる仕組みを作っていきたい。現在の資本主義、民主主義のルールでは生きづらい人が、居心地よく生きられるコミュニティ。そこに行きさえすれば、ぬくもり溢れるコミュニティで生きていける。そんなイメージですかね。「京都自死・自殺相談センターSotto」に関わっていると感じるのですが、家族がいて、仕事もあって、一見すると、すごく恵まれているにもかかわらず、死にたいと訴えるケースが結構あります。
一方で「私、ひとりでいるのが好きなのです」っていう人もいます。しかしそれは、日々の中で関心を持ってくれる人、自分に意識を向けてくれている人がいるから、ひとりでいいと言えるのです。この様な状態の人と比べて、さきほどの物質的に恵まれているけど死を願う人は、関係性が乏しかったり、苦しい関係ばかりの中におられて、孤独感がとても強いのです。
「TERA Energy」のコミュニティでは、お互いに温もりを持って人と人がつながり、一人ひとりがぬくもりを実感できるようにしたい。ひとりでいてもいいし、みんなといたければいればいい。心から自然と「自分はこの世界に居ていいんだ」「この世界も捨てたもんじゃない」と思えるような場所づくりが必要だと思います。
■S認証事務局による認定の評価ポイント
電気代の一部寄付を通じて、採算性の低い社会的事業に対する資金の循環を継続的に生み出していること。寄付先を指定できる制度により、顧客の社会課題への主体的な関与を促進する仕組みになっていること。再生可能エネルギーの流通を通じて普及に寄与しており、特に発電施設を厳選していること。これらを複合的に評価しS認証を行いました。また、ソーシャル企業認証第三者認証委員会には、龍谷大学の学生も参画しています。