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SDGs EYEs:ジェンダー平等とメディア

先日、北欧5か国(デンマーク,フィンランド,アイスランド,ノルウェー,スウェーデン)大使館主催の「ジェンダー平等とメディア」をテーマにしたトークイベントをオンラインで視聴しました。
アイスランド国営放送(RUV)編集長のソーラさん、NHK解説委員の山本恵子さん、ヘルシンギン・サノマット(北欧で最も発行部数の多い新聞)の元編集長で今はフィンランドのPR会社経営者のアヌさんの女性3人が登壇していました。とても興味深い話が聞けたため、このコラムで共有したいと思います。

世論をリードするメディアでのジェンダーギャップ

まずアイスランド国営放送のソーラさんが「ニュースの定義を疑え」と口火を切りました。今のニュースの定義は「中高年の男性目線で面白いと感じる話題」が中心になっています。
それは女性にとってニュースなのか。その問題意識を持ってほしいとのことでした。

この問いに対し、NHKの山本さんは、「どれをトップニュースにするかを決めるデスクは大半が男性。男性デスクは、政治・経済をトップニュースに置く。なので私が2カ月に1回、デスクを務める際には、意図的にトップにジェンダー平等や子育てなど女性も興味を持つ話題を持ってくる。そうしないといつまでたってもジェンダー平等に世の中のスポットが当たらない」と話していました。
筆者は専門紙で働いており、わが社のデスクの9割も中高年男性のため、お二人の話は非常に参考になると感じました。

またフィンランド人のアヌさんは「新聞社にいた時は自分も男性中心の編集に違和感を持った。だが、雑誌に転職すると、違和感は幾分か和らいだ」と語っていました。確かに、雑誌には「女性誌」という言葉があるように、女性目線でつくられた媒体があります。
対して、「女性紙」という新聞のジャンルはありません。えてして社説を通じて世論をリードする立場にある新聞が男性中心でつくられているという視点は、問題提起に値するかもしれません。

ちなみに世界各国の男女格差をランキングした「ジェンダーギャップ指数」(2022)によると、アイスランドは1位、フィンランドは2位に対し、日本は116位となっています(格差が少ないほど上位)。

アイスランドのソーラさんは、「1980年に女性大統領が誕生した。その当時、民主的に選出された国家元首では世界初の快挙だった。このことは、アイスランドの男女平等社会の構築において一つの大きなステップになった」と話していました。
フィンランドも今は女性が首相を務めています。指導的立場に女性が就くことは、男女平等社会をつくる上で大きなカギになると感じました。

3人とも意見が一致していた点は、「多様な意見を反映できなければ、そのメディアは滅びる」というものです。性的少数者(LGBTQ+)を含め、社会が多様化しているにもかかわらず、メディアが伝統的な中高年男性の目線だけで紙面をつくっていては、世の中の多様なニーズを捉えきれず、読者・視聴者離れが進むからです。
読者・視聴者を増やすというビジネス的な視点でも、日本のメディアはもっともっと変わらなければいけないと実感しました。

女性が活躍できる社会 ≒ 誰もが生きやすい社会

最後に質疑応答で面白かったのが、男性の大学生からの質問でした。学生曰く、「中高年の男性が女性活躍に抵抗を示すのは、女性活躍という言葉が男性を疎外する言葉に聞こえるからではないか。本当に女性活躍社会を望むのなら、もう少し中高年男性が良い気持ちで参加できるような工夫が必要なのではないか」。とてもまっとうな意見です。
現状、政治でも経済でも、権力を握っているのは中高年男性です。この方々を巻き込まなければ、社会を変えることは難しいことは言わずもがなです。この問いに対し、残念ながら3人の女性スピーカーは「中高年男性が抵抗を示すのは仕方のないこと」として、良い答えを持ち合わせてはいませんでした。

ですが、イベントの終了間際に良い答えが出てきました。閉幕の辞を述べた北欧の男性大使の発言です。
大使曰く、「私は60代のグレーのスーツを着た典型的な男性だ。私は息子や義理の息子たちが育児休暇をたっぷり取っているのを見ると、とてもうらやましく感じる。私の子どもが小さかった頃は、男性が長期の育児休暇を取るなんでありえなかった。思うに、男性も気持ちよく女性活躍を推進するためには、男性も恩恵を受けるような仕掛けが必要なのではないか」。

まさにその通りだと思いました。
大使のこの言葉を聞き、私は最近の岸田文雄首相の「産休・育休期間中の学び直し発言」を思い出しました。この件で「育休中に勉強なんてできるわけがない。そんな時間はない」「育児の大変さを知らない人の発言だ」と岸田首相は批判されました。
しかし、こうした批判よりも、むしろ私が首相発言に違和感を持ったことは「子どもを産むという人生の大きなイベントを経ないと長期で休みが取れない日本の仕組みがおかしい」でした。リカレントを叫ぶのなら、男性でも女性でも、普通の社会人が大学の先生のようにサバティカル休暇(学びのための長期休暇)が取れる仕組みをつくるべきです。

ちなみにフィンランドの大使館職員によると、セーフティネットが充実したフィンランドでは、失業中に大学に通うことも珍しくなく、「失業は学び直しの良い機会。フィンランドでは、失業が必ずしもネガティブに受け止められない」と話していました。

職場における女性活躍の話題でよく指摘されるように、女性が働きやすい会社は男性にとっても柔軟な働き方が認められた良い会社が多いです。
男女問わず、日本人がもっと自由で柔軟に生きやすい社会をつくるにはどうすればよいか。新聞記者の端くれとして、ジェンダー問題のイベントから誰もが生きやすい社会について考える良い機会を得ました。

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文/松本麻木乃:専門紙記者
2004年、日刊工業新聞社入社。化学、食品業界、国際を担当、2020年から不動産・住宅・建材業界担当の傍らSDGsを取材。近著に「SDGsアクション<ターゲット実践>」(共著)。

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SDGs EYEs:人的資本開示の動き(2023.04.12)
SDGs EYEs:広がる健康経営(2023.01.20)
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