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SDGs EYEs:広がる健康経営

企業の間で健康経営が盛んです。経済産業省によると、健康経営優良法人に認定された企業数は2021年度に大企業で前年度比3割増の2299社、中小企業で同5割増の1万2255社と、大幅に伸びています。今や残業が多く、従業員の健康を気遣わないブラックな企業には人が集まらなくなっています。企業は健康経営に取り組み、ホワイトな企業をアピールすることで優秀な人材の採用につなげようとしています。

健康管理を、生産性向上や組織活性化につなげる取り組み

健康経営とは従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること(経産省)、と定義されています。ポイントは「経営的な視点」という部分。いくら総務などの担当者が現場レベルで健康活動に取り組んでも大きな成果にはつながらず、経営者が健康経営を理解し、経営戦略として取り組むことが肝になります。自社の企業理念に基づき、従業員への健康投資を行うことは、「従業員の活力向上や生産性向上などの組織活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながることが期待される」(経産省)とされています。
※経産省HP参照
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei.html

健康経営銘柄2021に選定された企業の平均株価とTOPIX(東証株価指数)の株価指数を2011年9月から2021年9月の10年間、比較したデータによると、健康経営銘柄の平均株価がTOPIXを上回って推移するなど、健康経営と業績向上に相関がみられる数字も出てきています(経産省調べ)。業績がよいから健康経営に取り組む余裕があるのか、健康経営に取り組むと業績がよくなるのか、因果の解明は難しいですが、少なくても健康経営に取り組むと従業員が健康になり、健康だと仕事に前向きに取り組み、生産性も向上するといった効果は期待できそうです。

人材確保や公共入札にも健康が指標に

最近、企業にとっては、業績向上だけでなく、他にもメリットが見込めます。厚生労働省は2022年6月からハローワークインターネットサービスに企業が求人票を登録する際、「健康経営優良法人」のロゴマークを掲載可能にしました。「健康経営優良法人」は健康経営に取り組む企業の優良事例を顕彰する経産省が創設した認定制度のことで、認定された企業は専用のロゴマークをハローワークのサイトに載せられるようになりました。求職者はロゴマークの有無で企業を選べるようになっており、当然、マークはあった方が企業の印象はよくなりそうです。

行政が健康経営に取り組む企業を公共入札で加点したり、金融機関が融資で優遇したりする動きもあります。公共調達加点評価に取り組む自治体などの事例数は2020年度が18件だったのに対し、2021年度は27件に増加。銀行などが融資の優遇や保証料の減額・免除に取り組む事例の数は2020年度の83件から2021年度は84件と増えつつあります(経産省調べ)。

と、ここまで書くと、大半の企業が健康経営に取り組んでいる印象を持たれたかもしれませんが、実のところ、健康経営にどう取り組めばいいのかわからないといった企業も依然として多いです。ニッセイ基礎研究所が健康経営の取り組み状況を尋ねたアンケート(2021年度、回答企業数5,230社)によると、「関心はあるがまだ取り組んでいない」と答えた企業の割合が45.9%となり、「健康経営優良法人の認定を受けている」(6.6%)、「関心がありすでに取り組んでいる」(8.5%)と比べ、取り組んでいない企業の方が圧倒的に多い結果が出ています。理由を尋ねた調査では、「何から取り組めばいいかわからない」(30.9%)が最多となっています。こうした企業の状況を受け、ここにきて企業の健康経営をサポートするサービスが花盛りです。

※ニッセイ景況アンケート調査2021年度
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/68835_ext_18_0.pdf?site=nli%20chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/

広がる企業の健康経営をサポートするサービス

サントリー食品インターナショナルは、自社の自動販売機を設置した企業向けに健康アプリを提供する無償の健康経営サポートサービスを提供しています。アプリは「朝起きたら水を飲む」「空腹の時間をつくる」といった約60種類の健康タスクを表示し、タスクをクリアしたらポイントを付与するものです。ポイントが一定程度たまると、サントリーの健康飲料と交換できるクーポンがもらえ、これをモチベーションに続けることができます。
自社のサービスが広がることで顧客の健康増進を後押しし、健康な人が増えれば行政の医療費負担が減ると、まさに売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よしのサービスとなっています。

また保険会社も熱心です。ほとんどの大手生保が団体保険の加入企業に対し、「健康経営優良法人」の認定取得サポートを提供しています。健康経営のPDCAの回し方や申請書の書き方を助言するものです。損害保険では、あいおいニッセイ同和損害保険が人工知能(AI)を活用した採用支援に強いエイチアールフォース(東京都千代田区)と組み、中小企業向けに「採用・健康経営取得支援サービスプログラム」を提供しています。

あいおいが健康経営セミナーの開催や健康アプリの提供で「健康経営優良法人」の認定取得を支援し、HRフォースが自社のAI求人検索エンジンを活用し、効率的な採用活動をサポートします。中小企業が健康経営に取り組み、ホワイトな会社になることで、人材採用で競争優位に立つ手助けをするという発想が面白いと感じます。

就職活動を意識しはじめた学生のみなさんは、ぜひ自社が入りたい企業が健康経営に取り組んでいるかを調べてみることをおすすめします。みなさんが注意を払うことで健康経営に取り組む企業が一段と増え、世の中にホワイトな会社が増えることが期待されます。

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文/松本麻木乃:専門紙記者
2004年、日刊工業新聞社入社。化学、食品業界、国際を担当、2020年から不動産・住宅・建材業界担当の傍らSDGsを取材。近著に「SDGsアクション<ターゲット実践>」(共著)。

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SDGs EYEs:SDGsのその先を考える(2022.09.08)
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