menu

みんなの仏教SDGsウェブマガジン ReTACTION|みんなの仏教SDGsウェブマガジン

アートと表現の楽しさを伝えたい。社会学部学生が「子どもに向けたアートワークショップ」を開催

「子どもたちの居場所を作り、アートと表現活動の楽しさを伝えたい」と、さまざまな活動を行う「たてこ」の建石祐希さん(社会学部社会学科/4年)。プロジェクト「子どもに向けたアートワークショップ」は、2022年度、龍谷大学内にある龍谷エクステンションセンター(REC)が実施する学生活動支援制度「龍谷チャレンジ」に採択されました。「たてこ」という屋号は、建石さんのニックネームでもあります。建石さんは不登校だった中学生時代、絵を描くことが自身の居場所だったそうです。プロジェクト「子どもに向けたアートワークショップ」は、滋賀や大阪で15回開催されました。今回は、建石さんの想いと、ワークショップでの様子、今後の展開をお聞きしました。

不登校のあいだに絵を描いていた環境が
自分の「居場所」だった

「僕は中学生の時に学校に行かなくなりました。集団活動が苦手ということもありましたが、受験のために勉強することに意義を見出せず、時間がもったいないと感じたからです。自分の価値を証明できることをしたい、自己表現をしたい、事業を立ち上げたいと思い、マンガを描いたりビジネスについて考えたりして過ごしていました。しかし、世間では『不登校の子は弱くてかわいそう』『問題児なのでは』という目で見られていたのが嫌でした。

高校はニュージーランドの公立校へ進みました。勉強はほとんどせず、絵を描いたり、新しく始めたスケートボードにのめりこんだりと興味がおもむくままに遊んでいました。卒業後、龍谷大学社会学部に入学を決めたのは、人と社会の根本を学びたかったから。現代の社会現象を分析する考現学にも興味がありました。
2年生からは、児童相談センターでアルバイトを経験。問題行動を起こしたり、親に虐待を受けていたりした0〜18歳の子どもたちが生活をする場所です」。
建石さんは、ごはんを食べる、寝かしつけをするといった仕事をするうちに、子どもたちにとって『居場所』は大切だと思うようになりました。居場所は、「ここにいてもいいよ」「安心していいよ」と自分自身が肯定される場所。そして建石さんは、かつて子どもだったころ、自分の居場所だったのは絵を集中して描ける環境だったと気づきます。

自由なワークショップで子どもたちの感性を引き出す

「何をしてもいいし、何もしなくてもいいアトリエを作り、子どもたちの居場所にしたい」と、考えた建石さん。SNSを通じてフリースクール事業の代表者や子どもの居場所事業をおこなうNPO法人に相談をし、アートのワークショップを京都府福知山市にある廃校の一室、滋賀や大阪のショッピングモールなどさまざまな場所で、計15回開催しました。

「僕のワークショップは、場所と時間を決め、ビニールシートと画材を準備するだけ。あとは何をしても自由です。テーマがあると、技術の有無、上手か下手かなど誰かの評価軸を気にして絵を描いてしまいます。それでは表現の幅が狭くなりますし、何よりも新しいものが生まれない。さらに、最初からやることを決めておくと私自身がおもしろくないという理由もあります。

ワークショップでは、絵の具をバシャーッとこぼして手で伸ばしたり、色をつけたシャボン玉をふくらませて紙に吹きつけたりと、誰もがすぐに楽しめる、自由なアートの時間を作りました。最初はもじもじしていた子どもが、ふとスイッチが入って絵に集中するようになる。絵を介すると、初対面の僕ともすんなりと仲良くなれる。子どもたちの感性が引き出される瞬間を見て、一緒に楽しむことでたくさんの喜びを得てきました。ワークショップは単発イベントでしたが、アートに興味がある人や、同じようなプログラムを考えている人たちと出会うことができたのは嬉しい副産物でした」。

子どもたちとフラットな関係でいられる
「アートのある居場所づくり」へ

15回のワークショップはいずれも楽しく盛況で、子どもたちからは「また会おうね」、保護者からは「子どものためにも、また開催してくださいね」と、再会を望む声も多かったそうです。しかし建石さんは、新たな課題が残ったといいます。

「ワークショップは連続講座ではないため、同じ子どもと長くつきあえる関係性を築くことが難しかった。また、僕が本当にやりたかった『居場所づくり』を盛り込むこともできませんでした。今は、NPO法人が運営する、滋賀県の学童で土・日開催のアトリエ事業をおこなったり、同じNPO法人による子どもの居場所事業に関わったりしています。これらの事業は福祉の分野にあてはまりますが、福祉は『社会生活に困っている人に対して、職員が保護をする・サービスを与える』という面があります。しかし僕は不登校だったとき、上からの立場で接してくる大人をうとましく感じていました。15回のワークショップを通じ、アートがあれば、子どもたちとフラットな関係でいられることがわかりました。これからは、子どもたちの居場所をどう作るか、どうやって子どもたちにアートや表現の楽しさを伝えられるかを考えていきたいと思います」。