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みんなの仏教SDGsウェブマガジン ReTACTION|みんなの仏教SDGsウェブマガジン

社会は自分の力で変えられる。
「シチズンシップ共育」で多文化社会をデザイン

私たちの社会では、貧困や障害、性的マイノリティ、移民などさまざまな分野で多様性が認識されています。日本社会もさまざまな人が共に生きる「多文化社会」に他なりません。「彼女ら・彼らが直面する課題を認識し、誰もが生きやすい多文化社会をつくるのは、ほかでもない私たち市民」と話すのは、龍谷大学 社会学部 現代福祉学科 川中大輔准教授です。専門テーマは、市民としての意識を育み、その行動力が発揮される場づくりです。代表を務めている兵庫県尼崎市のNPO「シチズンシップ共育企画」や本学社会学部の実習科目で進めている活動について、意義や内容をお聞きしました。

NPOでの活動を通じ、自分の手で社会を動かす喜びを知る

私が社会問題に興味をもったのは、兵庫県明石市にある神戸大学発達科学部附属明石小学校(当時)での総合学習がきっかけです。よく覚えているのは、小学5年生の時の授業です。川に水を汲みに行き、理科室で水質検査をしたところ水が汚れていることがわかりました。社会科や国語科で汚染や汚濁を巡る歴史や現状について調べ、家庭排水の大きな影響がわかってからは、家庭科で廃油石鹸をつくる活動などに取り組みました。社会問題を総合的かつ実践的に学ぶ体験を通して自分の力で社会は少しずつ良くなっていくという気づきを得ました。そうした「生きた学び」を経験してきた私にとって、中学・高校の授業は縦割りな上、教科書を中心とした内容も多く、学ぶ喜びを見いだしにくくなりました。

中学2年生のときに阪神・淡路大震災が起こり、自分が生まれ育った神戸は被災地となります。高校に入り、私は被災地の子どもたちを支援するNPOの活動に参加しました。そのNPOでは避難所に勉強を教えに行ったり、不登校状況にある子どもたちへの訪問学習支援をしたり、キャンプで子どもたちの野外教育に取り組んだりしていました。こうした活動を通じて、自分たちが望ましいと考える学びのプログラムをつくることができました。例えば、参加した子どもみんなで内容を決めながら進めるキャンプをしたのですが、そうした時に「自分たちが考えたアクションで、何かが変わるんじゃないか」という喜びをふたたび味わいました。それまでは教育について不満があっても文句を言うか、要望の声をあげるだけでしたが、自分たちの手でモデルになり得るものを創り出していける可能性に触れる数年間でした。しかし、大学の同級生たちは「社会がこうなったらいいのに」と言いながらもなかなか行動に移せずにいる。このことが次の展開につながっていきます。

誰もが社会を変える「市民」 まずはアクションから始めよう

大学卒業と同時に立ち上げた団体「シチズンシップ共育企画」は、今年で20周年を迎えます。「社会に参画していく市民が育ったり活躍したりする環境をいかにしてつくるのか」がテーマです。具体的な活動としては、尼崎市役所が市内の高校などと連携して行っている「高校生の協働まちづくり事業(あまらぶジュニア)」でのプログラム提供などが挙げられます。高校生が自分たちの興味関心や問題意識からテーマを自由に設定して、プロジェクトを立案していきます。例えば「尼崎市のイメージを良くしたい」といった課題などが挙がってきます。そこからつくりだされた企画が審査委員会(地域の大学研究者、地元でまちづくり活動をしている人、公認会計士などで構成)で採択されると行政から補助金がおり、実際の活動を進めていくこととなります。私は、テーマ決めや、企画づくり、最後の振り返りのサポートをしています。基本的には参加する高校生が自分たちで考えて実行していきます。

政治参加をテーマとしたワークショップでは、参加した若者から、「自分は政治に詳しくないので、わかっている人に任せたほうが良い」「選挙に行くからには、まず責任ある行動を取らねばならない」といった声が聞かれました。知識や義務が参加の条件と考える人も多いようです。しかし、まずは参加の権利を行使してアクションを起こすことが大事だと考えています。実践を通じて知識が身についたり認識が豊かになったり、スキルが磨かれていきます。行動する過程で自分たちの「社会を変えたい」との思いに共感してくれる仲間や支援者も増えます。こうした中で行動の選択肢も増えてくるでしょう。

多文化共生社会を実践的に学ぶ「社会共生実習」

今の学生は、中高生の頃からSDGsが意識された教育を受けてきた、いわゆる“SDGsネイティブ”です。多様性を尊重することには抵抗感がない。しかし、差異を平面的/一元的に捉えがちで、(自分のポジショナリティも踏まえつつ)構造的な垂直関係を問う意識が弱いように見えます。また、自分の人生経験や文化から異質だと思われる人たちを避けてしまいがちです。この課題について、大学はどう向き合っていくべきかを考えています。
最近は多文化共生を具体的なテーマにしています。いわゆる「国民」同士の連帯感で支え合いの仕組みをつくった国民国家は常に排除を孕んでいました。長らく抜本的な見直しが進まなかったのですが、定住外国人が増える中で市民権を巡る課題が大きくなり、世界中で新たな社会の形を見いだす動きが出ています。しかし、日本ではまだまだ課題が多いです。知り合いの在日朝鮮人からも「日本では自分たちの権利が保障されていない問題がまだまだ多い」という話を聞きます。つらい思いをさせている友人・知人のために、何かできればとの思いを持っています。

そこで、本学社会学部3学科が共同で運営する地域連携型実習科目「社会共生実習」に「多文化共生のコミュニティ・デザイン〜定住外国人にとって住みやすい日本になるには?〜」をテーマとするクラスを設けています。コミュニティパートナーであるNPO法人京都コリアン生活センター・エルファやNPO法人東九条地域活性化センターなどで学生が活動しながら、聴き取った課題に応じた企画を進めています。また、「社会貢献論」「社会イノベーション実践論」を担当していますが、それらの講義科目も含めて、次世代を担う若者たちに、自分たちは社会の担い手である、自分たちにも思い描く社会に向けてできることがあるという実感を持てる機会を提供したいと思っています。