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豊かな自然が残る茶畑の風景を守りたい
東近江市・政所茶ハーブブレンドを商品化

2022年度「龍谷チャレンジ」に採択を受けた「政所茶の採算性向上」の学生メンバーが、政所茶の茶畑に通い、農家の方々と連携しながら、「政所茶ハーブブレンド」の商品化という新たな挑戦を進めています。
龍谷大学では、学生の自主活動や社会連携活動を支援する「龍谷チャレンジ」制度を設けています。活動についての事業内容を申請し、書類選考、面接・オンラインによる審査を通過した団体に、最大30万円を支援するなどのサポートが行われ、交通費、通信運搬費、資料費、機材購入費といった活動の必要経費として使用できます。

政所茶の茶畑に通い、農家の方々と連携しながら、「政所茶ハーブブレンド」の商品化という新たな挑戦

「龍谷チャレンジ」制度で、地域振興、社会貢献に寄与する自主的な活動を支援する「社会連携・社会貢献活動部門」は、学外の団体やグループと共同する、非営利な活動であることが必須条件。昨年度に採択された社会連携部門の一例としては、「龍谷大学学生気候会議の開催」、「淀本町商店街で図書館開館・イベント」などがあります。中でも政所茶生産振興会と一般社団法人徳島地域エネルギーと連携して行われた「政所茶の採算性向上」のプロジェクトは後輩へと受け継がれ、政策学部3回生の5名が2022年度の「龍谷チャレンジ」に応募。政所茶の茶畑に通い、農家の方々と連携しながら、「政所茶ハーブブレンド」の商品化という新たな挑戦を進めています。

「政所茶の採算性向上」プロジェクトの主役となるのは、滋賀県東近江市奥永源寺地域で生産される、政所茶。かつては「宇治は茶所、茶は政所」と茶摘み唄にも歌われるほどの銘茶でした。鈴鹿山脈の麓、谷筋と呼ばれる地形によって生まれる寒暖の差と朝霧が、独特の爽やかな味わいを生み出します。室町時代にお茶が伝わってから600年もの間、栽培し続けられてきた政所茶ですが、明治以降、高度経済成長による生業の変化などによって生産量は減少の一途。地域の高齢化もあり、政所茶の存続が危ぶまれています。

江口美桜さん

挿し木で増やしたものではなく、種から育てられた在来種、しかも無農薬で栽培される茶畑は地域の財産です。そんな茶畑の風景に感動したというのが「政所茶の採算性向上」プロジェクトのメンバーのひとり、江口美桜さん。「政策学部のパンフレットの表紙に使われているのが、この奥永源寺地域を俯瞰で撮影した写真だったんです。豊かな自然が残る茶畑の風景がすごく素敵で。茶摘みのお手伝いに来て、実際にその景色を見た時は感動しました」

宮﨑起玖さん

日本の原風景が残る地域で守られてきた、政所茶を守るプロジェクト

「農家さんの数がそもそも少なく、茶葉の生産だけだと採算性がとれない。老朽化した茶工場を立て替えないといけないという問題も重なり、新しい収入源を見出そうと、2019年の年末に「政所茶の採算性向上」プロジェクトが立ち上がったと聞いています」と、メンバーの宮﨑起玖さん。

宮下真美さん

昨年まで「政所茶の採算性向上」プロジェクトに携わっていた先輩たちは、政所茶とドライフルーツの掛け合わせを進めていたが、今年度の5人が推し進めているのはハーブとの掛け合わせ。煎茶ではなく、政所茶の平番茶を主役にしようと考えています。「地元の人たちが、よく飲んでいるのはお煎茶や玉露ではなく、平番茶。一般的な緑茶より渋みが少なく、日本茶があまり得意ではなかった男子メンバー2名も飲みやすいと驚いてました」と、宇治出身で日本茶の知識が豊富な宮下真美さんが、平番茶の魅力を語ってくれました。

知識もつながりもない5名に地域の方が協力

お茶の知識も地域とのつながりもない5名と、茶農家の方々をつないでくれたのは、奥永源寺地域の課題解決に取り組み、自らお茶作りを実践しながら体験イベントや通信販売などを行っている「茶縁むすび」の山形蓮さん。彼女の協力で参加したマルシェでは夏用の政所茶ハーブブレンドを提供したそうです。
ハーブを掛け合わせ素材に選んだのは、獣害を受けづらい植物だから。奥永源寺地域は獣害の被害がひどく、厳重に囲いや柵を施さないと農作物を育てられないので、お茶以外の生産が困難とされてきましたが、香りが強いハーブなら生産が可能ということで、ハーブブレンドに辿り着きました。

「現在の活動は、政所茶とハーブをブレンドして付加価値をつけてくことがメインです。夏用と冬用のブレンドを開発していて。東近江市の市役所内や東近江市の福祉協議会で試飲会をさせてもらって、職員さんに味の感想や適正値段をリサーチ。東近江と草津、マルシェには2回参加し、販売させてもらいました。そのために試しに作ったパッケージがこちらです。マルシェは夏だったので、ミントとレモングラスで爽快感をプラスした夏用のブレンドを提供。すっきりとした味わいで飲みやすいと好評で、完売しました」と、メンバーの橋本優花さん。

メンバー5人が重要視するのは、地域での採算性

神戸晟太さん

現在は京都府和束町のハーブで試作を行っているが、いずれは奥永源寺地域で栽培・使用することを想定しているそうです。「政所のお茶を使うのであれば、掛け合わせるものも同じ地域のものであることが必須だと思っていて。冬ブレンドはステビアというハーブの個性でホッとするような甘味を出すか、ポカポカあたたまるよう生姜を採用するか、今も試作しています。煎れる温度が違えば味わいも違いますし、美味しく飲める淹れ方も含めてお伝えしたいですね」と、メンバーの神戸晟太さん。

カフェインは、熱湯でしっかり抽出しても一般的な緑茶より少なく、水出しするとほとんど出ないというのも平番茶の特徴。子供でも、お年寄りでも、寝る間際にでも、みんながいつでも飲めるという汎用性、そしてハーブの魅力が重なり、いろんな層の人々に平番茶が届くきっかけになるのではと、メンバー5人は考えています。

「まんどころ地域の人のことを考えているつもりでも、5人だけで話し合ってばかりいると、知らず知らずに5人でしたいことを優先して話していることもありました。現地のために本当に必要かどうかを判断するために、政所茶に携わる人たちと頻繁に連絡をとって、進めていくことが大事なのだと思いました」と橋本さん。

「現地で感じたのは、政所茶はもちろんのこと、地域の皆さんの人柄がすごく素敵なこと、行かないと見られない景色があるということでした。ぜひいろんな人に奥永源寺地域を訪れてほしいです。政所茶のハーブブレンドを通して、生産地を好きになってほしいなと思います」と江口さん。

「現地の方々に、農家さんごとに味や香りが違うことが、政所茶の魅力だとお聞きしました。無農薬で自然にまかせて行われている栽培方法を見て、ほかの地域で肥料をたくさん使って一定の味に保たれていることが、果たして良いことなのかと改めて考える機会になりました。おじいちゃん、おばあちゃん世代の農家さんが急勾配で苦労しながら生産されている政所茶。これからの担い手を増やしていくことも、引き続き考えていくべき課題です」と宮﨑さん。

「僕は味覚が繊細じゃないので、ブレンドの試作を飲んでもハーブだけを感じてクセがあるなと感じることがあります。それはマルシェでのアンケートに書かれていて、ハーブの品種によっては飲みにくいに丸がついているものもありました。優しい味わいの政所茶を掛け合わせることで、ハーブティーが飲みやすくなるという効果もあるなと感じました。ハーブとブレンドすることで、地域に莫大な利益が出るかというと、そうではありません。でも、新しい活路を見出して、多角的に利益を生み出せるような仕組みができれば、政所茶の存続、そして地域にも貢献できるはず。仲良くしていただいている地域の人と、関わり続けたいです」と神戸さん。

「地域の特産物を使って商品開発し、それを売り上げて目標金額を達成して、ということは社会人になってもできることだと思います。今、学生として特定の地域に対して協力していく中で、地域に根付く活動そのものに魅力を感じているので、地域への貢献が販売で終わらないようにしたい。今の私だから抱ける感情を大事に、モチベーションを持ち続けて、活動を続けていきたいです」と、宮下さん。

「政所茶の採算性向上」プロジェクトを通して、外部の方々と話をする機会を持ち、いろんな気づきを得たというメンバー5人。若者が現地に飛び込み、地域の人に伝える熱い想いそのものが、政所茶に携わる人たちを力付けていることと思います。