「自分が伝えたいことを、他者に伝える方法を身につける。」それは、どんなコミュニティにおいても役立つ人生の杖のようなもの。龍谷大学農学部では、2020年度の正課外活動として、映像を用いた情報発信を探究する「アグリSDGs京都プロジェクト」(※)を実施しました。「映像(え)が伝わるとは何か」をテーマに学生が制作した動画作品をさらにブラッシュアップし、『第3回SDGs CREATIVE AWARDS』にエントリー。見事、ANA賞を獲得した龍谷大学農学部4年生の広瀬真慧さん(2022年3月現在)に、体験談などを聞きました。
(※)京都における持続可能な食や農のあり方を次世代へ展開するため、映像を制作し、発信することを目的とするプロジェクト。2020年度は正課外授業、2021年度からは正課授業として実施。
実習しながら主題を見つけ
映像で伝える難しさと豊かさ
映像プロデューサーの神部恭久氏を講師に迎え、ミシュラン2つ星、そしてグリーンスターを獲得した[草喰なかひがし]の店主・中東久雄氏にご協力いただいて行った「草食べに行きませんか?〜アグリSDGs京都プロジェクト2020〜」。自然の山野草を活用した料理で高く評価されている中東氏と共に大原の地に出かけ、その実習の中からテーマを見つけて映像化。参加した仲間に、テーマをシェアするというものでした。
取材をしながら、編集をしながら、仲間のリアクションを見ながら。簡単に答えのでないSDGsについて考え続けてまとめた作品のひとつ、広瀬真慧さんの動画作品が2022年1月、『第3回SDGs CREATIVE AWARDS』のANA賞を受賞。ANA国際線及び国内線におけるSDGsチャンネルで機内上映されます。
もともと映像が趣味だった広瀬さん。このプロジェクトを通して映像のスキルをあげられたらと、気軽な気持ちで参加したそうです。
「それまで旅行先で撮影した映像を年に1,2本のペースで制作し、YouTubeに公開していました。旅の動画は、訪れたそのままの順で旅の内容を紹介する内容だったので、人に伝えるために要素の構成を考える、ということが最初は難しかったです」
プロジェクトの参加者それぞれが、スマートフォンや一眼レフカメラなどで撮影した動画をクラウドにアップ。全員のすべての動画を素材として使って良いという自由度の高い環境の中で、作品づくりが進められました。広瀬さんの受賞作品にも数人の動画が使用されていて、クライマックスには中東さんの「未来のあなたたちは、何をしますか」という問いかけが採用されています。
「旅動画をつくってきた経験を活かして、ストーリー調に仕上げました。実際に自分が京都の大原で体験したパートがあり、その前後に物語となるような要素を付け加えました。映像の中で、中東さんから『あなたたちは、何をしますか』って聞かれて、僕という主人公が起こしたのは、摘み草という大切な資源について人に伝えるというアクションだった。でもそれが正解でも、すべてでもなくて。その問いかけを観た人が、それぞれの答えをもっていただければ、と思っています」
すぐそこで根を張る摘み草が
食材になるという事実を知って
『第3回SDGs CREATIVE AWARDS』のエントリーに向けて、5分だった作品を3分に再度編集。課外活動の概要を伝えることに重きをおいた構成から、中東さんの言葉や哲学を重視する構成に修正したそうです。
「取り掛かる前は、3分に縮めるなんてできるかな、という気持ちもありました。やり始めてみたら、ここのシーンは長すぎるなとか、もっと大事なシーンがあるから入れ替えようとか、アイデアが出てきて。完成作品は、大事な部分を抽出したものになったと思います。初めの5分バージョンが完成した時も満足はしていたけど、再編集をしていくうち、実は理解していないこと、見えていないことがあったと気づきました。満足の先に本当の完成があったのだと思います」
「アグリSDGs京都プロジェクト」に参加したのは、3年生の秋。2022年春に社会人となる広瀬さんにとって、生きていく上で大切な食に対する気づきがあったそうです。普段は雑草とひとくくりに呼ばれてしまう摘み草ですが、よくよく見てみるとそれぞれ形が違えば、名前もあります。プロジェクトでの経験が、土壌に根を張る食物への感謝、命あるものをいただいているという自覚につながったと言います。
「中東さんと自然界に出かけて記憶に残ったのは、自分たちのすぐ近くに食べられるものが存在しているという事実で、意外な発見でした。この春から僕も、東京でひとり暮らしをします。これまで実家で生活していたので、料理も全然しなかったけど、そういうわけにはいかなくなる。野菜を手に取った時に、これも摘み草と同じ命あるものなんだ。使う部分だけでなく、捨てる部分のこともちゃんと見ようと思います。食べられるか食べられないか、人間が勝手に決めているだけで、捨ててしまうものの中に、食べられる資源は無数にある。そんな考えを持つきっかけを与えていただきました」
人のために、利益を求めずに
時間が使えるのは学生の特権
春からはIT系の企業で働く広瀬さん。コロナ禍という逆境で大変な思いをした4 年間だったことと思います。どんな時でも今の自分にできることを探し、能動的に過ごした龍谷大学での日々は、貴重な経験の連続だったと振り返ります。
「大学時代、積極的に参加しようと意識していたのはグループワークです。ゼミやプロジェクトのほか、さまざまなボランティア活動に参加しました。NPO法人のボランティア団体に所属してカンボジアに行き、現地の子どもたちと触れ合ったことは良い思い出です。そのほか、琵琶湖で問題になっている外来の水生植物にまつわる活動にも参加しました。学生は、人のために、利益を求めず、存分に時間を使うことができます。社会人になると時間的に難しくなると思ったので、ボランティアするなら大学生のうちだ、と考えていました」
ボランティア活動や「アグリSDGs京都プロジェクト」の実践を通じて、チームの人とどういう風に関わるべきなのか自分の心で考え、自分の体で現場の空気を体感する大切さを知ったそうです。
「後輩のみなさんには、興味あることにどんどん参加してもらいたいです。実践するって大変なことだし、やりたい気持ちがあっても踏み出せない気持ちもわかる。例えば、「アグリSDGs京都プロジェクト」に興味を持っても、これまで映像をつくったことがなければ、自分にできるか不安になるのは当然だと思う。でも、思い切ってやる選択をしてほしいです。すごく楽しいのか、全く楽しくなかいのか、それってやってみないとわかりません。誰にもわからんことこそ、やってみて自分で判断することが大事なんですよね。思い切ってエントリーしたことで、いただいた『第3回SDGs CREATIVE AWARDS』ANA賞の受賞。これを励みにして、社会人になっても映像は撮り続けていきたいと思っています」