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シロアリの翅で水を集める?
生物に学ぶ、奇想天外なモノづくり

シロアリの翅の表面構造研究

自然界には、厳しい環境でも生き延びている昆虫や植物がいます。

進化の過程で最適化された自然の構造を、マイクロ、もしくはナノレベルで見てみると、現在の諸問題を解決するヒントが隠されているのかも知れません。

蓮の葉やホウセンカの種飛ばし、ゾウリムシの繊毛運動など、自然の構造を模倣して、世の中のさまざまな課題解決に応用する。そんな奇想天外な研究を続けているのは、龍谷大学先端理工学部の内田欣吾教授。

「自然は人間が課題に向き合う上で、お手本になる」と語る内田教授の研究から、今回は、シロアリの翅(はね)の表面構造を模倣し、世界の水不足を解決しようという試みをご紹介します。

自然の問題を自然の力で解決する

世界中で9億人が安全な水にアクセスすることができません。毎年、180万人の子どもたちが不衛生な水に関わる病気で命を落としています。

私たちは水に生かされています。飲料水としての水は、健康や命に繋がります。また、農業用水としての水は、食糧に繋がります。SDGsの課題の中でも、水不足は最重要事項といっても過言ではありません。

特に砂漠など乾燥した地域で、飲み水を確保することは大きな課題です。

海水から真水を作ることが検討されてきましたが、この方法では、水源が近くにある地域に限定されており、海水を蒸留するためのエネルギーが必要です。

そこで注目を集めているのが、空気中の霧から水を捕集する方法。すでに気化した霧粒を集めるので、そのためのエネルギーは必要なく、真水を得られます。

内田研究室が目を付けた自然の知恵は、雨や霧の中を飛ぶ「シロアリの翅」でした。

自然の問題を自然の力で解決する

豪州に生息するテングシロアリは、天敵に襲われないように、あえて雨の日に飛行します。雨の中の移動を可能にする鍵は、翅の表面構造にありました。

胴体よりもはるかに大きい翅は、濡れて重くならないように、彼らの翅は雨粒のような大きな水滴を弾き飛ばし、雨粒よりも小さい霧粒は集めて大きくした後に除去する性質があります。

秘密は翅の表面にある、大きさ・カタチの異なる2種類の突起物。その再現には、過去に蓮の葉の「ダブルラフネス構造」を模倣した時の技術が応用できました。

水滴を弾くハスの葉の表面

ハスの葉の表面構造を模倣して、内田研究室で作成した光応答性結晶を用いたダブルラフネス構造

「ダブルラフネス構造」は、20マイクロメートルほどの突起に1マイクロメートルほどの突起が生えた構造で、優れた撥水効果が確認できています。この突起を合成するために用いた光応答機能膜で、光の照射時間や照射回数、温度を変化させることで、テングシロアリの表面構造である2種類の突起を高さ・幅ともに正確に結晶で再現。合成した薄膜の表面に微小液滴(20~640マイクロナノメートル)を噴霧すると、大きい液滴は弾かれ、小さい液滴は表面に残る現象が見られました。

つまり、テングシロアリの翅と同様に、雨粒のような大きな水滴を弾くばかりか、小さな霧粒を表面で集めて大きな水滴を表面から弾く性質を再現できたのです。

これは、世界初の成功となりました。

シロアリの翅の表面構造の電子顕微鏡写真

光照射によって可逆的異性化反応を示すジアリールエテン分子を用いて、シロアリの翅の表面に2種類の突起構造を再現

社会問題の解決に向けて、奇想天外さが光る

霧から真水を作る研究は、内田研究室だけでとどまりません。社会問題の解決という大目的を達成するため、共同研究をする企業から資金と技術援助を受け、「砂漠などの乾燥地域で、霧から飲料水を作りだす」プロジェクトとして次のステップの研究が続けられています。

これが実現すると、水辺から離れた場所に住む人々にも水を届けることができます。それぞれの土地の地形や気象条件にあわせた方法で世界中の人々が水を自由に得られる環境を実現したいと強く思っています。

内田欣吾教授

研究は自然の延長線上にあります。まだ日の目を見ていない生物を探し出し、「自然に学ぶ」「自然をまねる」ことで、どんな世界中の課題を解決する材料が生みだされていくのか、内田研究室のオリジナリティは無限大の可能性を持っています。