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AR/VR技術で「苦手」を「生きる力」に変える コミュニケーションを支援する先端研究

近年、国内外でAR(拡張現実)やVR(仮想現実)への関心が高まっています。龍谷大学先端理工学部 知能情報メディア課程 准教授の藤本雄一郎先生は、AR/VR分野において15年以上にわたり研究を重ねてきました。特に注力しているのは、「対人コミュニケーションにおける苦手意識を克服し、スキル向上を支援するシステム」の開発です。
今回は、藤本先生が専門とするAR/VR研究の内容と、技術の進化が拓く未来の可能性についてお話を伺いました。

機械工学からAR研究の道へ――「人がより良く生きる」技術との出会い

龍谷大学先端理工学部 藤本雄一郎准教授

藤本先生がAR技術に出会ったのは、大学3年生のとき。当時は機械工学を専攻し、ロボット製作に携わっていました。

「新しい技術を紹介するWebメディアで、ARToolKitが紹介されていました。ARToolKitとは、AR技術を比較的簡単に実現できる開発ツールです。面白そうだなと思い、すぐに家電量販店でウェブカメラを購入しました。パソコンにウェブカメラを接続し、白黒のマーカーをカメラに映すと、画面上に3Dモデルが表示されました。SFの世界が現実になったような感覚に衝撃を受けました。
人間の視覚にダイレクトに働きかけるAR技術は、人がより良く生きるために役立つだろうと考え、ARToolKitを開発した奈良先端科学技術大学院大学の加藤博一先生のもとでARを学びました」

藤本先生が取り組んでいるのは、人の活動や学び方そのものを再構成する「AR/VR コミュニケーション訓練・支援応用」の研究です。研究の根底にあるのは、「誰もが抱える『苦手』をサポートし、人が自分らしく生きられる社会を実現したい」という想いです。

「人間は生きていくうえで、コミュニケーション能力、情報処理、暗記力、思考力、運動、音楽など、さまざまなスキルが必要です。しかし、すべてのスキルを備えている人はなかなかいませんし、誰しも苦手なことがあります。苦手なことを意識しすぎると、本来うまくいくはずの物事がうまくいかないこともあるでしょう。自分が持っているスキルと、コミュニティの中で求められるスキルがマッチしないと、生きづらくなってしまいます。私は、人がより生きやすくなることに貢献すべく、AR/VR技術の研究を続けています」

AR技術で会話をサポート――近未来のコミュニケーション

ARは、現実世界にコンピュータが生成した情報や映像を重ね合わせる拡張現実の技術です。すでに実用化されている事例としては、工場での危険な作業を支援するシステムや、家具のオンラインショップで家具を部屋に設置した際のイメージを確認できるサービスなどが挙げられます。
こうしたAR技術は、作業支援や購買体験だけでなく、人と人とのコミュニケーションを支援する分野にも応用され始めています。

藤本先生は現在、ARによる「対話支援システム」の研究に取り組んでいます。実際に見せていただいたのが、小型のARグラスです。

「ARグラスを装着すると、AIが相手の発言を認識してキーワードを抽出し、関連情報を生成してグラス越しの視界に表示します。たとえば、相手が映画の話題を出した場合、『最近の映画では◯◯が話題です』『映画“◯◯”がアカデミー賞を受賞しました』といったテキストが表示されます。すると、自分は『そういえば、映画“◯◯”がアカデミー賞を受賞したと聞きました』と、会話をつなぐことができます。まるで、会話中に“もう一人の自分”がリアルタイムで助言してくれるような体験です。
LINEやメールではAIによるメッセージ生成がすでに活用されていますが、このシステムの特徴は、対面のコミュニケーションを支援できる点にあります。ここ数年でARグラスは比較的安価に購入できるようになりました。近い将来、スマートフォンがARグラスに置き換わるだろうと予想しています」

「コンピュータが過度にサポートすると、人間の能力が向上しにくくなる傾向があります。たとえば、カーナビは便利ですが、依存しすぎると道順を覚えなくなってしまいます。利用者の能力を引き出せる“ちょうど良い加減”のサポートを設計するため、奈良県立医科大学の精神科医や近畿大学の食育専門家、モノづくり企業など、さまざまな分野の研究者・実務家と協働で研究を進めています。
どのような課題があるのか、本当に望んでいることは何かといった点を丁寧に聞き取りながら、研究や開発に取り組んでいます」
技術に依存させるのではなく、人の力を引き出す“適切な支援”を探る姿勢が、藤本先生の研究の核にあります。

VRの面接訓練システムに「寄り添い」を実装

VRは「バーチャルリアリティ(Virtual Reality)」の略で、現実世界を仮想空間上に再現する技術です。現実ではコストがかかったり危険を伴ったりする体験を、安全にシミュレーションできる点が特徴です。たとえば、自分の分身であるアバターが仮想空間で活動するゲームや旅行体験、外科手術のシミュレーションなどに活用されています。

藤本先生は、VR技術を用いた「プレゼンテーション訓練システム」を開発しています。このシステムは、就職面接の訓練にも応用することができます。

「VRは現実の代替として利用されることが多いため、多くの場合、一人称視点でシステムが設計されます。一人称視点とは、ゲームであればプレイヤー自身が見ている視界、面接練習であればモニターに映し出される自分の視点の風景を指します。一人称視点では、アバターの身体を『自分で動かしている』という没入感が強いとされています。
しかし実験の結果、プレゼンテーションや面接のスキル習得には、自分のアバターを客観的に観察できる『自分の姿を前から見る三人称視点』が、もっとも効果が高いことが分かりました」

 

訓練システムではさまざまなセンサを用い、ユーザーの話す速度、音声の強弱、視線や頭部・身体・手の動き、心拍数、発汗度などを測定します。VR上でプレゼンテーションを行うと、システムが改善点を検知し、フィードバックを提示します。

 

「ただ、プレゼン中に『話すスピードをもっと遅くしてください』などと知らせると、その情報に意識を取られ、かえって集中できなくなってしまいます。そのため、ユーザーに余裕がなさそうな場合はあえて即時フィードバックを行わず、余裕があるタイミングで問題点と改善ポイントを伝える制御システムを搭載しました。システムに“人間らしい気遣い”を組み込むことで、訓練効果が高まると考えています」

藤本先生は、2027年4月より情報学部(仮称・設置構想中)で教鞭をとる予定です。

「私が関心を寄せているのは、AR/VRによって人のスキル獲得プロセスを解明し、その再設計を行うことです。AR/VRをうまく活用することで、現在の自分を超える効果を発揮できると考えています。技術の特性を生かしながら、人に寄り添う使い方を追求していきたいと思います。研究室では引き続き、AR/VR技術を通じて、誰もが自分らしく生きられる社会の実現を目指していきます 」

AR/VRという先端技術を通じて、人の可能性そのものを再設計する挑戦が、ここから始まろうとしています。