ランチタイムや空き時間にリラックスして過ごせる、深草キャンパス内の「Café樹林」。龍谷大学が掲げるノーマライゼーションの理念を実践する場として、スタッフと障がい者や引きこもりの若者たちが一緒に働いています。ノーマライゼーションとは、多様な人が支え合って生きる社会こそ、ノーマルであるという考え方。誰もがあるがままで生活できる社会をめざす「Café樹林」スタッフであり龍谷大学卒業生の竹内悠真さんと、アルバイトであり政策学部4年生の谷口智哉さんにお話を伺いました。

政策学部4年生の谷口智哉さん
障がいのあるなしに関わらず
共に働き学ぶ「Café樹林」
—まずはおふたりが「Café樹林」に関わるようになったきっかけを教えてください。
谷口/政策学部のゼミで、靴磨き活動を就労につなげた「革靴を履いた猫」の企業研究をすることに決め、いろんな方にインタビューをさせていただいたんです。その中で「革靴を履いた猫」が生まれた原点がここ「Café樹林」にあると知り、竹内さんや「Café樹林」を支えてきた店長の河波さん、実際に働いている皆さんに話を聞かせてもらいました。正直、それまではお弁当を販売していること以外、「Café樹林」で誰が何をしているのか全く知りませんでした。研究を進めていく中で、障がいがあるから、引きこもりだから、可能性が閉ざされてしまう社会課題を知り、自分のできる範囲で何か一緒にできたら、という思いが芽生えて通い始めました。
竹内/龍谷大学に通った学生時代を振り返ると、1回生の時はサークルにも入らず、授業に出て、バイト行って、家に帰る、その繰り返し。休み時間もひとりで本を読むことが多かったし、人付き合いはあまりしなかったですね。でも2回生の時、「Café樹林」で「チーム・ノーマライゼーション」という同好会が主催するコーヒーイベントに興味を持って。お客さんとしてコーヒーを買いに来て、同好会のスタッフと話しているうちに、「チームに入って一緒に活動してみない?」と声をかけてもらって「チーム・ノーマライゼーション」に参加しはじめました。チームの活動拠点のひとつが「Café樹林」だったわけです。
—「Café樹林」はカフェとして機能するだけでなく、様々な人に変化を促す場所なのですね。
竹内/自分も含めてですけど、ここに出入りする人たちは最初から行動する力や意識があったわけではないです。本音のやり取りができる仲間に出会ったり「Café樹林」店長の河波さんから厳しくも愛のある助言をいただいたり、人と交わる中でどんどん変わり、成長していくんです。社会に出るまでに、自分が生きていくこと、働くことについて、じっくりと考えられる「Café樹林」みたいな場所って、なかなかないと思います。
谷口/「Café樹林」に通い出した当初は、障がい者の人を特別視していたところが正直あったと思います。でも実際に話してみると、自分の思い込みやネット情報と全然違うじゃないかと思うことばかり。この人は自分よりもできることが多いし、勉強させてもらっているのはむしろ自分の方だ、と感じました。障がいの有無ではなくて、その人自身を知ろうとする姿勢が大切なのだと思うようになりましたね。
社会と交わる喜びを知り
自ら考え主体的に生きる
—社会貢献できる人材を育てるために、必要なこととは何でしょう?
谷口/挑戦できる機会の創出だと思います。障がいのある人、引きこもりの人が、新しいことにチャレンジして失敗すると、「やっぱり、難しいんだ」と、本人も周囲もすぐ諦めてしまいがち。でも1回の失敗で諦めてしまわず、2回、3回と挑戦する機会さえあれば、できることもあるはずです。また、その挑戦の目的が、人のためになることかどうかも大事なポイントだと思っていて。自分だけのためではなく、誰かのためになると思えば行動できること、僕らもあるじゃないですか。誰かを思う気持ちは、挑戦の原動力になると思います。
竹内/これからの時代、デジタル技術を活用することは絶対に必要になってきます。コロナ禍を経て、自宅でのリモートワークも珍しいことではなくなりました。もちろん、対面での関係性づくりは必ずどこかで必要になりますけれど、すべてが対面じゃなくてもいい、そんな世の中になってきています。自宅から無理に出なくてよければ、引きこもりの人も社会に貢献しやすい。VRなどバーチャルを駆使したアバターの姿であれば、仮想空間で交流できる。いろんな可能性が広がる時代になってきたので、どんなAI技術やバーチャルのツールが有効なのか、昨今よく議論しています。

龍谷大学卒業生の竹内悠真さん
2025年の春から始動!
AI・バーチャルを自分の強みに
—2025年春からは、若者が集い自分たちの可能性を模索しながら成長していく。そんなコミュニティ「PHPバーチャル探求友の会」をスタートさせるそうですね。PHP研究所とはどのようなご関係が?
竹内/PHP研究所の元代表取締役社長である清水卓智さんは、龍谷大学の卒業生であり、私たちの活動に価値を見出して、ずっと応援してくださっています。7年ほど前には、PHP研究所の設立者である松下幸之助氏の言葉をまとめた書籍を「チーム・ノーマライゼーション」のメンバー全員分、約40冊を寄贈してくださいました。それ以来、書籍を活用して心の学びを深めています。書籍で記されている人としてあるべき姿を、「Café樹林」の仕事で実践できているのか。できていないなら、なぜできないのか。ひとつのテーマをもとに、みんなで突き詰めて考える。そんな機会の積み重ねが、心の成長につながっていると感じます。
—障がいのある人も、引きこもりの人も、そうではない学生も。多様な人が参加するコミュニティをつくる上で、意識すべきことってなんでしょう。
竹内/逆に何も意識しなくていいと思います。理解してあげないといけない、理解する場所を作ってあげなといけない、そんな考えそのものが学ぼうとする機会を奪ってしまう気がしていて。障がいがあるとかないとか関係なく、本人がどんな環境であっても、ひとりの人として自分にできることは何か、じっくり考えることができる。そんなコミュニティづくりがなにより大事なことだと思います。
—実際、「PHPバーチャル探求友の会」ではどのようなことを探求する予定なのでしょう。
谷口/引きこもりがちな方って、割と家でゲームをしていることが多いんです。そういう意味でパソコンは身近ですし、VRやバーチャルの世界でコミュニケーションを取ることには抵抗がなかったりもする。仮想空間ならできることも多いので、引きこもりの子たちがまず一歩踏み出すための、バーチャルを駆使した支援はありだと思います。2024年に開催した、株式会社エスユーエスと連携し、「Café樹林」で「社会復帰のためのバーチャル体験会」も好評でした。
竹内/これまでも学生に協力してもらって「Café樹林」の営業後に、パソコンやプログラミングを学ぶ教室を実施してきたのですが、想像していた以上にみんなの上達が早くて驚きました。最初は自信がなかった人も、いざやり始めるとかなり高度なプログラミングを書けるようになっていて。その延長として、AIをうまく活用できるのではないかと考えています。
自分の考えを表現するのが苦手な人や、事務的な事を伝えるのが苦手な人は、AIを活用することで周囲とのコミュニケーションが円滑になるのではないか。苦手な分野はAIで補い、得意な分野で勝負していける未来、そう遠くないと思います。
—AIやバーチャルに詳しくなくても「PHPバーチャル探求友の会」に馴染めるでしょうか。
谷口/もちろんです!こんなお話をしていますが、僕たちもAI・バーチャル関連の素人ですから。一緒にゼロから学んでいきたいです。バーチャルという文字が入っていますが、心の教育との両輪で進んでいく活動です。入学してすぐや就活の時期、ひとりで悩むことも多々あると思います。どうやって学生生活を過ごしたらいいのかわからなくなった時、話したくなる仲間がいる場だと思って気軽に参加してほしいです。
竹内/障がいのある人も、引きこもりの人も、キャンパスで学ぶ学生たちも、磨けば光るものを誰でも絶対に持っているんだなって、つくづく思うんです。真剣に語り合う心の学びと、未来に不可欠なAIやバーチャルの学び、それらの学びを自分なりにどう社会に活かしていくのか。挑戦する若者が集い語らうコミュニティにしていきたいです。