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パネルディスカッション/「今、求められる社会課題を解決するソーシャル・イノベーション人材」セミナー<後編>

2024年10月12日(土)、龍谷大学深草キャンパス 和顔館にて、2025年度に開設される「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」のキックオフセミナー「今、求められる社会課題を解決するソーシャル・イノベーション人材」が開催されました。

 

「社会に求められるソーシャル・イノベーション人材」をテーマにしたパネルディスカッションの様子をお伝えします。

※敬称略

「社会に求められるソーシャル・イノベーション人材」とは

パネルディスカッションでは、「社会に求められるソーシャル・イノベーション人材」とは何かについて、京都と沖縄の起業家、「大学連携型ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム」で龍谷大学・京都文教大学と連携する琉球大学、ソーシャル企業認証制度(*)にも参加する京都信用金庫を交え議論がおこなわれました。

*ESG経営や社会課題の解決を目指す企業に対し、経営方針や事業内容、社会的インパクトなどを基準に、評価・認証を行う制度

モデレーターは、龍谷大学政策学部・教授の大石尚子が務めました。

より良い社会づくりに必要なのは
「社会は変えることができる」というマインドをもつこと

たんたんエナジー株式会社 代表取締役社長/木原 浩貴

「私は高校生のときに気候変動問題を知りました。気候変動問題をなんとか解決したいと思い大学に進学後、龍谷大学 政策学研究科 修士課程に進みました。卒業後も研究に参加させていただいています。そこで、海外では石油や石炭を買うお金を地域に取り戻すために頑張っている人たちがいるという例を聞きました。日本は、石油や石炭を購入するために海外に年間約30兆円を支払っています。ちなみに子ども家庭庁の予算が年間で約5兆円です。海外の取り組みを日本でも応用できないかと、研究者たちとたくさん議論をしました。

私はNPOで約20年働いたのち、京都府福知山市でたんたんエナジー株式会社を立ち上げました。地域の金融機関からの融資と市民からの出資を組み合わせ、太陽光発電システムを公共施設の屋根に設置。実質再生可能エネルギー100%の電気は、市内にある小・中学校や福知山城といった公共施設のほか、ビールパブなど民間施設にも供給しています。また、出資者には福知山の観光クーポンや特産品をお届けしており、関係人口の創出にもつなげています。

売上の一部を使い、地域活動のサポートもおこなっています。例えば、子ども食堂に冷蔵庫を提供する、大塚製薬、モルテンとの3者で部活動の大会スポンサーになり大きな体育館を借り、保護者も観覧できるようにするなどです。このように、もともとは地球温暖化の対策やエネルギー問題の解決のために動いてきましたが、地域を元気にしたいという想いをもつ方々と一緒にさまざまな取り組みをしています。

私自身、大学院では『社会は変えることができる』というマインドを得ることができました。起業前には、龍谷大学副学長・深尾先生からの『うん、木原くん、できるよ』という言葉や、研究者仲間からの励ましが後押しになり、『この事業は、社会に必要だ』と自信をもつことができました。起業の際には新しい事業を興し、先に進めるためのパワーが必要ですが、『ソーシャル・イノベーション人材養成プログラム』では、起業する場合でもそうでなくても、ビジネスで役に立つさまざまなスキルを学ぶことができると思います」。

人材育成の仕組みが整えば
日本全体の課題を解決するだろう

琉球大学地域共創研究科 研究科長/本村 真

「琉球大学に地域共創研究科ができてまだ数年しかたっていません。沖縄にはさまざまな課題がありますが、私は子どもの貧困を解決するための児童福祉を中心に研究を進めており、約30年、スクールカウンセラーとして現場に出ています。

本事業では私立大学の龍谷大がハブとなり、臨床心理学の歴史がある京都文教大学とともに国立の琉球大学が連携しています。起業やインキュベーションを支援するプログラムは民間の機関でもおこなわれていますが、3つの大学院による組織が『ソーシャル・イノベーション人材育成プログラム』を提供する意義は2つあります。ひとつは、さまざまな知見をもつ教員が関わる場で、知識の土台を作ることができるという点。ふたつ目は、大学院で出会う仲間たちとネットワークを構築できるということです。勉学への努力を続けるためには、やはり知識をもった仲間が必要だからです。本事業では、ソーシャル・イノベーション人材を育成することで、京都や沖縄の課題だけでなく、日本全体にもかかわる問題を解決する仕組みとして大きな広がりを見せることを期待しています」。

「農福連携」で地域を元気にしたい

株式会社ソルファコミュニティ 代表取締役/玉城 卓

「沖縄で、農業と福祉を連携させ地域社会を作ることを目的に、障がい者の就労支援をおこなっています。もともとはA型事業所だったのですが、現在は就労継続支援B型事業所になりました。A型に通っていた6名全員を一般雇用に切り替え、B型15名と一緒に働いています。

畑は、農薬・化学肥料・除草剤・有機肥料を使わない自然栽培です。野菜や果樹などを育てていますが、注目されているのがバニラビーンズです。バニラビーンズは、現在1kg約8~10万円と高価格。関西ではクラブハリエさんと契約し、今後スイーツに使っていただく予定となっています。露地栽培ができる北限が沖縄で、国内で成功している例はほとんどないので、当事業所はメディアなどでよく紹介されています。

障がいのある方、就労困難といわれている方が継続してできる仕事の場として農業をおこなっています。今後の事業展開としては、バニラビーンズを国内・県内の製菓業に卸売りする、地元・北中城村、沖縄県の雇用創出・耕作放棄地の解消、農家や障がい者施設への栽培指導やバニラビーンズの作業を共に行い、全体として所得向上を目指していくことを考えています。

仕事を進めるうえで、尊敬しているのはバランスが取れる人。勉強ができる/できない、能力がある/ない、ではなくバランス感というセンスを身につけている人は強い。本村先生がおっしゃったように、『ソーシャル・イノベーション人材育成プログラム』は大学院だからこそ吸収できることがたくさんあるでしょう。いろんな人に会い、いろんな場所に行くことで、バランス感覚が磨かれると思います」。

社会課題の解決には自立型人材の育成が不可欠

京都信用金庫 専務理事/丹波 寛志

「京都信用金庫は1971年、全国で初めて『コミュニティ・バンク』を宣言した金融機関です。お蔭様で昨年100周年を迎え、それを機に新たなブランドネームとして「コミュニティ・バンク京信」を制定いたしました。また、私どもではこれからの金融機関は課題解決型金融が求められると考えています。そのために課題解決を可視化・具現化できる場として2020年11月に河原町御池に「QUESTION」をオープンし、2022年5月には梅小路エリアに「QUESTION 梅小路」をオープンしました。そして先日、龍谷大学様、大阪ガス都市開発様とともに「共創HUB京都コンソーシアム」を組織し、2027年に京都市立芸術大学新キャンパスの隣接地に「共創HUB京都」のオープンを予定しています。こちらは8階建てのビルで、社会課題の解決につながる産業の創出、コミュニティの形成、人材の育成ができる場を目指しています。

コミュニティ・バンク京信では、金融包括に積極的に取り組んでいます。特に経営支援を必要としているお客さまへの支援のほか、事業の実績はないけれども夢や企画を持っておられる起業家の創業支援も積極的におこなっています。例えば、地域や社会の課題をビジネスによって解決することを目指されている起業家を応援する『京信・地域の起業家アワード』を11回開催し表彰をしてきました。

人材の育成に関しましては、職員同士のコミュニケーションが豊かで風通しのいい職場風土を目指す『対話型経営』、組織をフラット化させ、意見を言いやすい環境を作る『分散型組織』、これらを土台として自らが仮説を立て実践を重ねる中で自らの成長を実感できる『自律型人材の育成』ができると考えています。具体的には、2020年11月、膳所支店を若手職員のみで構成された課題解決型店舗としてオープンしました。課題解決型店舗は現在21店舗まで控えています。当金庫では、仕事の仕方を金融のルーチン業務を8割に抑え、お客さまや地域の課題解決にかかる企画の仕事を2割にしています。職員は地元の商店などをめぐってお悩みをお聞きし、店舗ではみんなで解決方法を考えます。お客さまに感謝されると人事評価が上がるという仕組みです。そして、課題解決を実践できる人材育成にはチームワーク、フィールドワーク、プレゼンテーションが鍵になると考え実践しています」。

閉会の挨拶

京都文教大学臨床心理学研究科 研究科長/濱野 清志

「先生方や京都信用金庫の丹波専務理事のお話をお聞きし、社会を変革する“ソーシャル・イノベーション”を起こす人材を育てるためには、社会の外に出る必要があります。しかし社会の仕組みの中でプログラムを作ることはなかなか難しいと感じました。当たり前のことを勉強して当たり前のことをするというのではなく、何かわからないけれど矛盾を感じることを真剣に考え、バーンと爆発させる仕組みをつくるきっかけができることが理想なのではないでしょうか。私は臨床心理が専門なのですが、社会からいったん飛び出した人たちが社会とつながるためには、まず、個人の中に社会を変えるきっかけをもつことが大切だと思っています。『ソーシャル・イノベーション人材育成プログラム』は、そういったきっかけづくりを大きな規模でできる研究の場になると確信しています」。