2024年9月23日(月・祝)、龍谷大学 深草キャンパスにて、サステナビリティの実現に向けた具体的な行動を促進するイベント「龍谷大学サステナビリティDays」が開催されました。
<前編>に続き、<後編>では、株式会社JEPLAN 取締役 執行役員会長であり、龍谷大学 客員教授 岩元 美智彦 氏の講演会「世界を変える日本のリサイクル革命」の様子をレポートします。
岩元 美智彦 氏
株式会社JEPLAN 取締役 執行役員会長
龍谷大学 客員教授
1964年鹿児島生まれ。北九州市立大学卒業後、繊維商社に就職。
容器包装リサイクル法の制定を機に繊維リサイクルに深く携わる。
2007年1月、現代表取締役社長の髙尾正樹氏とともに日本環境設計(現JEPLAN)を設立。
資源が循環する社会づくりを目指し、リサイクルの技術開発だけではなく、
メーカーや小売店など他業種の企業とともにリサイクルの統一化に取り組む。
2015年アショカフェローに選出。
著書『「捨てない未来」はこのビジネスから生まれる』(ダイヤモンド社)。
新たな価値を生み出すことに幸福感を覚えてほしい
龍谷大学は社会変革のハブとなる大学を目指しています。私は常々、「学生のみなさんは、在学中に胸が熱くなる体験をしてほしい」と思っています。本日の「龍谷大学サステナビリティDays」は、龍谷大学が動く、つまり学生たちが動くきっかけとなるイベントです。学生のみなさんが社会課題に向き合い、自分たちだからこそできる解決策を考え、行動していることを本当に嬉しく思っています。
初めて岩元会長とお話しさせていただいた時、ゴミがエネルギーに変わるという発想に驚かされました。これからは、新たな価値を生み出すことに幸福感を覚える時代にきているのではないかと感じています。どうかみなさん、岩元会長の講演で大切なことを得ていただければと思います。
循環型社会の主役は「みんな」。
リサイクルを自分ごととし、意識や行動を変えよう
株式会社JEPLANは2007年、2人で設立した会社で、最初の資本金は120万円でした。循環型社会の実現のために頑張り続けています。また私は、世界最大のソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)のネットワークであり、グローバルな社会変革のシンク+アクションタンクであるアショカ・フェローに2015年に選出されました。アショカ・フェローは革新的なアイデアをもとに事業を展開し、国家の政策や国を超えて影響を及ぼす可能性が高く見込まれる社会起業家を対象に選出されるというもので、ノーベル平和賞の受賞者であり、龍谷大学とゆかりが深いムハマド・ユヌス博士も名を連ねています。
リサイクルのキーワードは「世界にごみは存在しない」。従来の技術は、リサイクルの回数に限りがある「物理的リサイクル」です。そこで、半永久的に資源を循環することができる「化学的リサイクル」技術の研究を進めました。投資家から数十億円を集めながらも苦しい日々が続き、2年がかりで技術を開発。現在は、北九州響灘工場(ポリエステル繊維対象)と川崎にあるペットファインテクノロジー(ペットボトル対象)で、回収した衣類などから繊維やペットボトル等の原料になる再生樹脂を製造しています。
私は、循環型社会の主役を「みんな」と決めています。市民や消費者が主役となることで、みんなの意識や行動が変わり、リサイクルは進みます。つまり消費者行動を「買う、使う、捨てる」から「リサイクル、買う、使う」に変えるというこうです。しかし意識や行動を変えるには時間がかかります。そこで、みんながリサイクルを体験することで、リサイクルを自分ごととして捉えて行動に移すだろうと考えました。
以前、「どこでリサイクルしたいですか?」というアンケートをとったところ「買ったお店」「学校」「駅・イベント」「役所」という答えが集まりました。特に印象に残ったのは、「買ったお店に持っていったものが、素敵な商品になって帰ってきてほしい」というコメントです。そこで私たちは、お店、幼稚園、学校、企業などに回収ボックスの設置をお願いしました。現在は日本国内3,604か所(2024年10月1日時点、https://bring.org/pages/recycle)に回収ボックスが設置されており、多くの人たちがリサイクルに参加しています。
楽しくなくちゃ、リサイクルは進まない。
デロリアンは循環型社会の象徴
環境問題への取り組みやリサイクルは、みんなが楽しまないとなかなか広まりません。私たちは、イベントなどで子どもたちに「不要な服やおもちゃを持ってきてくれたら、参加できますよ」と呼びかけました。「リサイクル」を「楽しいこと」に変換させたのです。最初は限られた参加人数だったのですが、大手ハンバーガーチェーンが提供するセットメニューのおもちゃの回収ボックスを設置するようになったことで、たくさんの人たちにご参加いただけるようになりました。
あるとき、アメリカから副社長、常務、専務が視察に来たことがあります。日本の子どもたちが当たり前のようにおもちゃリサイクルに参加する様子を見て、「全世界の店舗で、おもちゃを回収し、リサイクルをおこなう」と発表しました。
映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」では、ゴミを燃料にして走るデロリアンという車が2015年の未来に向かいます。私は「これはリサイクルシステムの象徴だ、ゴミでデロリアンを動かしたい。」と考え、ハリウッドに提案をしに行きました。そして「地上のゴミを資源に変えて循環型社会を作りたい」「戦争とテロをなくしたい」「子どもたちの笑顔を取り戻したい」と、プレゼンをおこないました。すると1ヶ月後、「よし、やろうぜ」という回答が届きました。そこで、映画に登場したデロリアンを貸してほしいと交渉したところ、「貸すことはできないけれど、購入するのはOK」という返事だったので、当時アメリカで販売されていたデロリアンを買うことにしました。
「リサイクルをしよう」という呼びかけだけだとお客さんはなかなか集まりませんが、「リサイクルに参加すると、デロリアンに乗れます」というイベントにはたくさんの人たちが集まります。「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」では、ゴミで走るデロリアンが2015年10月21日の夕方4時29分の未来に到着します。まさにこの日のこの時間、数十万人から集めた古着で作ったバイオエタノール燃料でデロリアンを走らせるイベントを東京のお台場で開催しました。目的は、洋服の繊維をバイオエタノール資源へリサイクルし、活用するためのキャンペーンです。日本のテレビ局だけでなく海外の大手テレビ局も取材に訪れ、この様子は世界でも発信されました。
「地上資源」のリサイクルで
経済・環境・平和を並列させる
世界では、石油やガスなど地下資源を奪い合う資源争奪戦争が起きています。地下資源の争奪戦争を終わらせることができるのは、お金でも武器でもなく、わくわく・ドキドキしながら楽しくできる循環型社会だと考えます。
循環モデルとしては、メーカーがおもちゃ、文具、衣類、容器などを作る〜小売店が販売〜消費者が購入する。そして消費者が不要になったものを小売店の回収拠点に持ち込む〜弊社や鉄鋼、化学などの会社が技術を使い、資源化する〜メーカーがそれらの「地上資源」を使って商品を作る、というサイクルです。消費者が地上資源を使用した製品を買い、リサイクルすればするほど「経済は回る」「CO2を削減できる」「戦争やテロをなくす」ことができます。つまり、経済・環境・平和が並立するというわけです。
国際的なスポーツ大会では、携帯電話(フィーチャーフォン)を集めてメダルを作ったりしました。2021年には、古着25万着を集めて羽田〜福岡間の飛行機を飛ばす「JALバイオジェット燃料フライト」というプロジェクトを成功させました。
また、日本では使用済みペットボトルの回収率は非常に高く、回収したペットボトルのリサイクル率は約90%、約40%が海外へ輸出されていることを受け、リサイクルの国内完全循環を目指して企業の枠組みを越えて企業間連携を推進するためのコンソーシアムも実施しています。また、ペットボトルから再びペットボトルにリサイクルする「ボトルtoボトル」の取組には京都市をはじめ、およそ40の自治体と連携・協力しています。
JEPLANが運営する「BRING」では、不要になった服を回収してリユース・リサイクルをしています。そのうち、ポリエステル100%の衣類等は市場の需要に応じて再生ポリエステル樹脂にリサイクルをして、自社アパレルブランド「BRING」の原料等に使用しています。年間で約300の会社のユニフォームや作業着をリサイクルしているほか、自治体や制服メーカーと連携して学校の制服や体操服をリサイクルしています。
資源は有限ですが、知恵は無限です。このように、地上資源を循環させるアイデアを生み出し、仕組み・技術・ブランドをつくり、「正しいことを“楽しい”」をモットーに進めることで、だれ一人取り残さないサステナブル社会は実現できます。私は、インターネット上では「地球環境防衛軍」の隊長になっています。みなさんには、今日からぜひ「地球環境防衛軍」の隊員になってください。ともに循環型社会をつくり、地球環境・世界平和・障害者支援・環境教育支援をおこなっていければと思います。
深尾副学長とトークセッション
講演会の後半では、龍谷大学 深尾昌峰 副学長とのトークセッションがおこなわれました。
(深尾) 以前、株式会社JEPLANの北九響灘工場で「ゴミ(不要になった衣類)」が資源に生まれ変わる様子を見学させていただきました。変換率は、Tシャツをケミカルリサイクルして、LサイズがMサイズになるくらいとお聞きし、本当に驚きました。これまでは、リサイクルにはコストがかかるとされてきたため、経済性と切り離されて考えられてきました。しかし、岩元さんから「生産・販売・消費のサイクルを変える」というお話をお聞きし、今はまさに、私たちが持っていた価値観が覆される時期だと感じました。
(岩元) 株式会社 JEPLANでは、お金を出してゴミを買っています。じつは、見返りがないのにゴミをリサイクルに回すのは、お金がある国の人たちだけです。お金がない国の人たちは、ゴミはお金にならないので海や川に廃棄します。しかし、ゴミがお金になるなら、廃棄せずに売りに行きます。これらが資源に生まれ変わるわけです。環境問題の本質は、まず人の行動を変えることだと思っています。私たちは技術開発や仕組みづくりをしていますが、みんなが行動しないと循環型社会は成り立ちません。
(深尾) 経済を含めたシステムこそが、人を動かすということですね。昔は、飲み終わったジュースの瓶を酒屋さんに持っていくと数十円で買い取ってもらえました。先ほどお話にあった「日本の子どもたちがハンバーガーチェーンのおもちゃの回収に参加したおかげで、リサイクルの動きが世界に広まっていった」ということも、一人ひとりの行動変容が積み重なり、大きなムーブメントになったという例ですよね。今日は、芝生エリアのフリーマーケットブースで学生たちが古着のリユースを呼びかけています。上の世代では古着に抵抗がある人もいると思いますが、若い世代は、古着はおしゃれだという感覚があり、着こなすセンスを持っています。
(岩元) 私たちは、京都市内のすべての中学校に、制服やジャージの回収ボックスを設置したいと考えています。破れた衣類が新品に変換され、中学生がその新品を着て、着古したらまたリサイクルに回す。そんな体験をした子どもたちが社会に出たら、着られなくなった作業服を循環させるようになる。そんな社会になればいいなと思います。そのためには私の会社だけでは難しいので、先生や学生たちの知恵を借りたいと思っています。ワクワクする、おもしろいことを一緒にやりませんか。
(深尾) 龍谷大学は、2024年3月には、自然と共生する世界の実現に向けた「龍谷大学ネイチャーポジティブ宣言」を日本の大学で初めて発出しました。また、今年4月にサステナビリティ推進室を作りました。さらには、3つのキャンパスで使用するすべての電力を再生可能エネルギーに切り替えています。2039年、龍谷大学は創立400周年を迎えるにあたり、世界の平和を支えるプラットフォームになるという目標を定めました。客員教授である岩元さんとともに、学生の皆さんと楽しみながらサステナブルな行動を加速させたいと思っています。ぜひよろしくお願いいたします。