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自然科学系合同シンポジウム「未来を創る共創の力」レポート<前編>

2024年2月26日、龍谷大学 瀬田キャンパスにて、自然科学系合同シンポジウム「未来を創る共創の力」が開催されました。

サステナブルな社会の実現に向け、自然科学分野の高度な研究シーズをいかにニーズに対応させるか、研究拠点としての大学のあり方について、発表とディスカッションがおこなわれました。

<前編>では、株式会社 島津製作所 環境経営統括室 マネージャー 三ツ松 昭彦 氏を迎えた招待講演と、龍谷大学 革新的材料・プロセス研究センター、生物多様性科学研究センター、発酵醸造微生物リソース研究センターによる研究発表の模様をレポートします。
※敬称略

開会挨拶

龍谷大学 学長/入澤 崇

「私が龍谷大学 学長に就任した2017年、国連の広報部長を本学にお招きし、講演会をおこないました。講演会終了後、広報部長に『SDGsのコンセプト“誰ひとり取り残さない” は、もともと仏教の発想にあるのですよ』とお伝えすると、彼はニコッと微笑みました。SDGs的な社会を構築するためには、東洋、すなわち仏教の価値観が必要となります。そこで、SDGsと仏教を組み合わせた『仏教SDGs』を龍谷大学から発信することを決めました。

科学は常に進化し続けています。文明社会をクルマにたとえると科学はアクセル、そして宗教がブレーキの役割があると考えます。アクセルとブレーキのバランスをうまく保つことで、文明社会は構築できるでしょう。

サステナブルな未来社会を目指すためには、大学、自治体、産業体がともに力を合わせる『共創』がキーワードになるでしょう」。

招待講演「島津製作所と環境経営」

株式会社 島津製作所 環境経営統括室 マネージャー 三ツ松 昭彦 氏

株式会社 島津製作所は明治8(1875)年創業、京都市に本社がある精密機器のグローバルメーカーです。事業の8割は計測機器で、ほかにも医用機器、産業機器、航空機器などを手がけています。三ツ松 氏は1991年入社、環境経営に関わるさまざまな新規事業を立ち上げてきました。現在は龍谷大学とコラボレーションする事業も担当されています。

「島津製作所の社是は<科学技術で社会に貢献する>。経営理念は<『人と地球の健康』への願いを実現する>です。

島津グループはエコ・ファーストとして、環境経営に関する5つの取り組みをおこなっています。<①気候変動対応への取り組み>ではCO2排出量の削減、<②循環型社会の形成に向けた取り組み>ではサステナブル素材採用の促進、<③地球環境の保全に配慮した製品・サービスの開発・提供>ではすべての製品で省エネ・小型化、<④生物多様性の保全に向けた活動>では三条工場にある『島津の森』づくりや京都府南丹市八木町『島津製作所の森』づくり、<⑤管理業務のDX化促進>では排水DXシステムの導入などを実施しています。

環境経営は2010年より進めていますが、特に従業員にエコ意識を浸透させることを重視しています。企業としては、『業務のエコ化・効率化により働きやすくなること』と『環境への配慮』の両立により、持続可能な社会の実現に貢献できると考えています」。

発表①革新的材料・プロセス研究センターの歴史と目指す先
〜「つかう」と「もどす」の観点から資源循環型材料開発に挑戦する〜

龍谷大学 革新的材料・プロセス研究センター センター長/富﨑欣也

「龍谷大学 革新的材料・プロセス研究センターは、2001年に設立されました。設立の目的は、材料科学の研究を推進すること、この分野の研究拠点として機能すること、学術・産業の進展につながる研究結果を創出すること、この分野を支える人材を輩出することです。また、人文社会、自然科学など幅広い分野とミックスし、新しい価値を創造することも目指しています。『つかう』視点のものづくりと『もどす』視点のものづくりにより、環境と自然に配慮した持続的な社会の発展に寄与する材料科学研究を推進しています。

第1期から現在に至るまで、環境に配慮した革新的な材料と効率の研究開発をおこなっています。平成8年度からの第1期は低環境負荷の材料合成プロセス、平成13年からの第2期はグリーンプロセスとグリーンマテリアルの研究、平成18年からの第3期は裾野を広げ、エネルギー有効利用のための革新的材料研究開発、平成25年度からの第4期は相界面のスマートデザインによる生体機能材料の創成、平成30年度からの第5期はスマートデザインによる生体模倣材料の創製です。

平成30年度からの6期は持続可能な社会形成を指向した資源循環型材料研究とその応用展開をおこなっています。

『つかう』視点のものづくりとしては、人と環境にやさしい材料や機能を生み出す設計と製造プロセスに着目。キーワードは「バイオマテリアル」「エネルギー変換材料」「光機能性材料」などです。『もどす』視点のものづくりでは、リサイクル・リユースを考慮した材料設計を進めています。キーワードは『生分解性材料』『リサイクル』『環境の浄化』などです。私が専門とする化学のみならず、電気、電子、機械、生物学の研究者とともに分野を横断して研究開発を進めています」。

発表②生物多様性保全へと向かうポジティブな社会システムの構築を目指して

生物多様性科学研究センター センター長/山中裕樹

「生物多様性科学研究センターは2017年に設立し、今年度に3期の終わりを迎えました。生態学は生き物と環境との関わりを調べる学問ですが、約20年前からは、経済や産業領域とも関連する研究が進められています。

この50年で、世界全体で生物の多様性が失われつつあります。その原因は生息場所の消失、過剰な生物資源利用、外来種や感染症の侵入、気候変動など人間の行動によるものと言っていいでしょう。私たちは日々の営みの中で貧困地域から資源を搾取しており、そのことで多様な生物が絶滅の危機に瀕しています。こういった責任を誰が負うべきかということをしっかり考えましょうという時代に差し掛かっています。個人も企業も、日々の暮らしの向こう側に想いをはせる必要があると考えます。しかし、どこをどうやって守るのかという基礎情報が不足しています。

『自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)』の設立も大きな要因となって、企業が自然資本に関するリスク・機会を認識し、経営戦略に織り込むことが重視されるようになりつつあります。これは、企業による生物多様性保全の努力が経済メリットにつながるような経済システムの構築に向かっているという事です。

また、生物多様性に関する基礎情報の蓄積にもお金が回るようになることが必要になります。生物学者がこれまでのペースでデータを収集していたのでは、生物が絶滅するスピードにまったく追いつかないからです。当研究センターでは、国内のもっとも早い時期から環境DNA分析を技術の中心に据えてきました。環境DNAは、水中や空気中に漂うDNAを収集し、どの場所にどのような種が生息しているかがわかるという技術です。滋賀県の琵琶湖では市民参加型のイベントで100地点を調査し、昨年は43種を検出。外来種など、ここ3年間のデータ推移が明らかになりました。

今後は、市民のみなさまに自然保護の意識を高めていただく、環境保全活動にインセンティブを与える、企業のご協力をいただくなどの仕組みを作りたいと考えています。意識・資金・行動がつながるような生物多様性保全活動のシステム構築をおこない、滋賀県もしくは関西で成功例を提示できればと思います」。

発表③発酵関連微生物の探索と滋賀県発酵産業への貢献

発酵醸造微生物リソース研究センター センター長/田邊 公一

「発酵醸造微生物リソース研究センターは2021年度から始まり、この3年間の事業目的は、微生物研究を通して滋賀県の発酵醸造産業を支援すること。滋賀県の自然環境や発酵食品から微生物を分離・培養し、収集・保存して発酵特性をデータベースに組み込み、産業的に利用価値のある微生物を活用してきました。

センターの研究成果をご紹介しましょう。東近江市など滋賀県の土壌から新種の油脂酵母を発見しました。化石燃料に代わり、バイオマスを原料とした酵母による油脂生産への応用が期待されています。

近江麦酒、滋賀県大津市上田上地区とのコラボでは、菜の花漬けを使用した発泡酒『菜の花エール』を開発しました。龍谷大学の研究施設『龍谷の森』で採取した酵母由来の株、地域特産の菜の花漬け、大津の水と、原料はすべて滋賀県大津市産です。

また、植物体から出る信号が空気中を漂い、別の植物体に伝わるメカニズムの研究では、シグナルが土壌中の微生物にも影響しているということが明らかになりました。湖南市と連携した『養蜂プロジェクト』では『KONAN HONEY』というハチミツのほか、休耕地で栽培したカラシナを使ったマスタードや蜜蝋ラップを特産品として販売を開始しました。

滋賀県の伝統的な発酵食品、ふなずしは、一般的にはフナ5キログラム、ごはん3.5升を使って30リットルを作ります。2 、3人が2日がかり、屋外で作るのですが、温度管理の難しさや害虫の心配があります。そこで1人でも、屋内で作ることができる『クラフト鮒寿し作製キット』を開発しました。また、ふなずしからは発酵初期、複数の乳酸菌が見つかったのですが3週目あたりから減り始め、最終期は別の1種類の乳酸菌のみが生残していることがわかりました。

発酵食品は大昔から作られてきていますが、ひとつの微生物の発見により、社会や生活が大きく変わることがあります。たとえば、ラガービールはわずか400年前にドイツで誕生した酵母から生まれ、世界へと広がっていきました。これからは、滋賀の微生物が社会を変えるかもしれません。発酵食品文化を創生することで、健康促進やフードロス対策など新たなムーブメントが起きるだろうと期待しながら研究を続けています」。

<前編>のレポートはここまで。<後編>では、登壇者によるディスカッションの模様をお送りします。