「フットパス」とは、イギリスを発祥とし、地域の森林や街並み等ありのままの風景を楽しみながら歩く小径(こみち)のことです。
法学部 牛尾ゼミの有志15名のメンバーによる団体「龍谷フットパスプロジェクトHAT」は、地域の関係人口を増やすことを目的とし、フットパスのイベントを開催しています。
2023年は春と秋に滋賀県東近江市でイベントを実施。今回はメンバーの4名に、開催までの経緯やイベントの様子、今後の展望をお聞きしました。
地方創生のカギは
地域や地域の人たちと継続的に関わる「関係人口」にある
「龍谷フットパスプロジェクトHAT」は、2017年4月より法学部牛尾洋也ゼミの有志により始まったプロジェクトです。「HAT」は「はなす・歩く・食べる」の頭文字。一般的なウォーキングイベントと異なり、フットパスのイベントでは、地元の人々と密接に関わりながら歩きます。
私たちは、地域の関係人口の拡大に向けたイベントを定期的に開催しています。関係人口とは、観光で訪れる交流人口でも移住する定住人口でもない、特定の地域に多様に関わる人々のことを指します。地方創生のカギは、イベントなどを通して継続的に足を運ぶ“地域のファン”=関係人口の増加にあると考えます。
「龍谷フットパスプロジェクトHAT」は発足時より、地方自治体やエコツアー関係者たちと連携をとり、関係人口を増やす取組をおこなってきました。コロナ禍の約3年間は活動を休止していましたが、私たちの代からようやくイベントを復活させることになりました。
内閣府や滋賀県庁を訪問し
フットパスの可能性をヒアリング
2023年3月、私たち学生が自らアポイントを取り、内閣府を訪問しました。地域の人々と多様な関わりをもつ関係人口にフットパスがどうアプローチできるかを意見交換し、国から資金を調達した場合のプランを提示しました。
11月には滋賀県庁の商工観光労働部 観光振興局 シガリズム推進室で、観光施策についてのヒアリングを実施。滋賀県全体としては、意外にも宿泊施設の稼働率が高く、観光客数は目標水準に達しているそうです。しかし、観光客を含めた交流人口は、地域との関係性を継続的に高めることに重きを置いていません。私たちは、継続的に滋賀県に関わる関係人口の拡大に向けて、地域の魅力を発信するイベントを企画したいと考えています。
昨年、熊本県美里町のフットパスイベントに8名で参加し、情報収集をおこないました。参加者は50〜70代の女性が中心で、地元の人たちとの会話や、案内がなければ出合えない美しい景色、気軽なアウトドア体験を楽しんでおられました。ガイドさんは、一方的に知識を与えるのではなく、参加者自身が新しい発見をできるように工夫されており、私たちのイベントでも取り入れようと思いました。
自治会や地元団体と連携し
フットパスイベントを開催
2023年11月11日(土)と18日(土)に、滋賀県東近江市にある君ヶ畑・和南・杠葉尾(ゆずりお)の3エリアでフットパスイベントを開催しました。東近江市は、コロナ禍前に先輩たちがフットパスイベントをおこなっていた地域です。今回は地元の人たちとの関係を復活させ、東近江市の地域活性化の可能性を探りながらの取組となりました。
東近江市の観光スポットとしては、紅葉が美しい永源寺が知られています。しかし、交通アクセスが不便という点や、ほかの見どころが少ないという点で、リピーターがつきにくいことが課題となっていました。イベント開催にあたり、東近江市役所の環境部 森と水政策課からは「フットパスは、新たなエコツアーのかたち。あまり知られていない、琵琶湖の源流である奥永源寺エリアを案内することで、関係人口の増加が見込めるのではないか」と、期待のお言葉をいただきました。
イベントの準備として、現地調査も実施。別の道を探したり、秋の植物を見つけては調べたりしながら、実際に自分たちの足で歩くことで、ガイドに必要な知識を身に付けていきました。君ヶ畑エリアでは、地元の有志団体「高松会」が運営する交流館を訪問。交流館には古くから伝わる貴重な書物や1930年代の写真が展示されていました。春に実施したフットパスイベントのアンケート結果をもとに改善点を話し合い、ルートマップや当日の運営内容に反映させました。
約4.9kmを歩く君ヶ畑コースには11名が参加。「高松会」の方たちからの歴史のお話や、参加者にふるまわれたお手製の豚汁が好評でした。6名が参加した和南エリアは、山頂から360度のパノラマ風景が楽しめる約7kmのルートです。自治会や里山クラブの協力のもと、休憩場所として訪れた図書館で水槽の川魚を観察し、地元の方たちに作っていただいたお弁当に舌鼓を打ちました。
杠葉尾は約10km のコースで9名が参加しました。午前は集落を巡り、イワナを育てる養魚場にも訪問。お弁当は「道の駅 奥永源寺渓流の里」の食堂にて特別弁当を手配してもらいました。午後は、渓流の脇にある林道を歩いて山へ。食べられる植物を発見したり、似ている植物の見分け方を教えてもらったりしながら、仙香谷という絶景スポットで美しい紅葉を楽しみました。
フットパスイベントが成功したのは、地域団体の皆さんのおかげです。事前学習で歴史や自然について教えていただいたほか、ルートの草刈りや当日の昼食提供など、あらゆる場面でご協力いただきました。
次年度もイベントを継続し
関係人口のさらなる拡大を狙う
難しいと感じているのは広報活動です。イベントのチラシは滋賀県大津市の観光協会に設置したほか、龍谷大学のキャンパスにも掲示しました。また、イベント情報を掲載していただいた東近江市のエコツアー情報誌「ひがエコ」は県内のアウトドアショップなどで配布されました。SNSでイベント告知もおこなっていますが、フットパスイベントの参加者はSNS の利用率が他の世代に比べて低い60〜70代がメイン。今後はキャンプ場などアウトドア施設にもチラシの設置をお願いし、滋賀や大阪、京都のウォーキングサークルと連携をとることも視野に入れています。
冬は、次年度のフットパスイベントを進めるための準備期間。2023年12月9日(土)・10日(日)には東近江市のホールでシンポジウムを開催し、新しいエコツアーの在り方や可能性について意見交換をおこないました。東近江市の職員さんからは「勉強が多忙ななか、フットパスイベントを継続してもらえることに感謝しています。学生のみなさんの熱意に応えられるよう、私たちもできる限り協力します」という声をいただきました。
正直なところ、フットパスイベントが関連人口の増加に結びついているのか、効果検証はできていません。しかし今回はすべてのコースで、参加者からは「満足だった」「もっと東近江の歴史を知りたくなった」「東近江にあるほかのエリアにも足を運びたい」という前向きなお声をいただきました。来年度以降、「龍谷フットパスプロジェクトHAT」はゼミの後輩が引き継ぐ予定です。私たちの活動が、東近江地域の関係人口拡大への架け橋になることを願いながら、これからもフットパスの魅力を伝えていきたいと思います。