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地方創生のカギは「食と農」。大学研究×実務のクロスオーバーから見る「地域のチカラ」

大学での愛称は「ポン先生」。
実務家との兼任で「地域経済の活性」を狙う

私は香川県高松市出身。東京の外資系証券会社でバリバリと働いていたのですが、これからは地方や女性の時代だと思い、2012年に故郷の瀬戸内にある島の一つ小豆島へ移住し、起業しました。
島おこしをテーマに観光や教育の仕事にも携わるかたわら、ポン菓子屋としても活動。以来、通称はポンさん、ポンちゃんで、ゼミ生からも「ポン先生」と呼ばれています。

2014年からは生まれ育った高松市に拠点を移し、四国中の農家さんや漁師さん、酪農家さんなどを取材し紹介する『四国食べる通信』という冊子を2ヶ月に1回発行。
生産の裏側にある物語を伝えるとともに、その人たちが作った食材を付録として届けることで、全国約500名の購読者を集めました。
その後、のちに指導教官となる神戸大学の先生と出会い「実務家である眞鍋君だからこそ、研究に携わる意味があるんだよ」と声を掛けていただき、神戸大学で博士号を取得。
2022年からは龍谷大学 経営学部で「食」「農」「ローカル」を研究しつつ、神戸市の外食企業や岡山県の農業法人の役員として経営戦略の構築や新規事業の開発に取り組んでいます。

農業の人手不足を補う「マッチング施策」

私の研究テーマは主に2つです。
1つは「農業労働力支援プラットフォームの構築プロセスの解明」。全国の農家は高齢化が進んでいて、後継ぎがいないことなどがよく話題に上りますが、現在では人手を必要とする定植や収穫などの繁忙期に労働力が足りないことが問題になっています。
昔は繁忙期には親類やご近所さんが労働力の助けとなっていましたが、都市化が進む中で、現在はなかなか地域で労働力を融通するのが難しくなっています。つまり、担い手云々の前に今年1年間の農業経営を続けることさえ困難な状況になっています。

そこで注目しているのが、JAグループによる労働力支援です。
JAグループが生産者と都市生活者の間に立ちながら、必要な時期に必要な人材を生産現場に送り出す、言わばプラットフォームの役割を果たせるのではないかと考えています。大分県はその先進地域として活動を県内から隣接する県へも広げており、関西では兵庫県も力を入れています。
私は兵庫県のJAグループと一緒に活動していたのですが、徹底したのは「働き手ファースト」。送迎あり、シフト1日からOK、作業代は即日払いといった参加のハードルを下げることで、支援者の拡大を図りました。
大分県では年間累計2万人役、兵庫県では2022年度は3千人役が農村で働いたという実績があります。このJAによる労働力支援の形は全国に広まりつつあります。

新しい発見だったのは、さまざまな事情で精神的につらい思いをされた方やひきこもりの方が、農業に携わることで元気を取り戻していったこと。そこには、朝早く起きて陽にあたる、外で体を動かす、お腹も減りしっかりとごはんを食べられるといった、農業の特性が人間本来のリズムを引き出すサイクルがあるようでした。
また、農作業においては必然的に人と関わる機会が生まれることや、自分の働きを誰かに感謝してもらえることで自尊心を取り戻すという効果もあったように思います。

そもそもは、労働力不足で困っている農家さんを助けたいという想いで始められた取り組みですが、農業には逆にさまざまな生きづらさを抱える人たちを元気にする効果があったというのは思わぬ発見でした。
現在私は、農にはどんなチカラがあるのだろうか、そしてどのように広がっていくのかを探るべく、研究を進めているところです。

果樹の品種開発だけでは収益が生まれにくい

もうひとつの研究テーマは「農業知的財産権を活用したロイヤリティビジネスの開発」です。
野菜や花のタネの多くは、種を自分で取って次シーズンに育てても同じものにはならない「F1(エフワン)種」です。そのため農家さんは毎年、種苗会社が販売するタネを購入します。この仕組みにより種苗会社は毎年収益を上げ、これまでの開発資金を回収したり、資金を投入して次の開発を進めたりすることができます。

一方、果樹の品種開発で中心となるのは公的機関や個人農家です。果樹の場合、農家は一度苗木を購入すれば10年以上その苗木から収穫物を得ることができます。
たしかに苗木を販売することで開発者にも収益が立ちますが、果樹は「接ぎ木」や「挿し芽」といった方法で株を増やすことが可能で、これまで農家の自家増殖は容認されていましたから、苗木の販売機会も限られたものでした。
開発者にとっては、新しい品種を作るのには10年以上の歳月と多大な労力・コストが掛かりますが、この苗木の販売だけでは十分な開発資金を回収するのは困難でした。

また、シャインマスカットが無断で海外流出したというニュースを聞いたことがある人もいるでしょう。シャインマスカットは、日本の農林水産省が所轄する農業・食品産業技術総合研究機構により33年をかけて開発された優良な品種です。
苗を海外に持ち出すことは認められていませんが、中国や韓国に流出してしまい、これによって年間100億円超の経済損失が生まれているという試算も報告されています。

「育成者権」と「商標権」を管理するビジネスモデル

品種開発されたタネや苗は、気候変動や消費者からのニーズに応えるために改良を重ねた、いわばイノベーションの塊です。このイノベーションを継続するためには品種開発者が報われる仕組みと、権利を守る仕組みが必要です。
現在、有力な仕組みとして考えられているのが、品種開発者に付与される「育成者権」と、ネーミングやロゴを財産として守る「商標権」の2つの知的財産権を組み合わせる方法です。

例えば、ニュージーランドのゼスプリ社は各国で品種登録を進めながら、商標などの知的財産権を管理することで世界的にブランドを確立しています。日本での栽培は佐賀県と愛媛県、宮崎県のみに限定されており、商品が売れたら収益の一部をロイヤリティとしてゼスプリ社に支払うようです。

私が取締役を務める、岡山県の株式会社林ぶどう研究所では「マスカットジパング」というぶどうを開発しました。研究所の代表で育種家の林慎悟は、岡山県の経済発展や地域活性につなげたいという願いをこの品種に込めています。
タネがなく、皮ごと食べることができ、大粒の非常にジューシーなぶどうです。10年以上の歳月をかけ、1万分の1の確率で生まれたとも言われる“奇跡のぶどう”で、2014年に品種登録された、まだ新しいぶどうです。

「マスカットジパング」は大変に食味のよいぶどうですが、雨に当たると実が割れやすいため、きめ細やかな水分管理が必要です。美味しく育てるには高度な技術が求められます。私たちは、岡山発というブランド力を上げることや品種の流出を防ぐことを優先して国内での苗木販売は岡山県の契約農家さんに限定し、譲渡や増殖を制限するなどのルールを設けていますが、それだけでは広がりにも限界があります。

そのため「マスカットジパング」は、2年ほど前から世界展開に向けて歩みを進めています。まずは栽培に適した気候のニュージーランドで展開すべく、現在、植物検疫の真っ最中で、うまくいけば2024年1月初旬に承認をもらえます。ニュージーランドでの栽培が認められ、栽培を開始してから収穫までは再び2~3年。無事に実がなった時に世界進出のスタート地点に立ったと言えるのかもしれません。

「いいね」「美味しい」の声を積み重ね
地域住民の幸せ度数を上げよう

地方創生のゴールは何だろう。
移住者を増やす、経済を循環させるなどさまざまなゴールがありますが、私は「地域の人たちが、地元に誇りを持つ」ことではないかと考えています。
civic(シビック)プライドという言葉があります。住民が地域で生きることに幸せを感じ、地域に自信を持つという意味です。また、そのゴールに向かうための第一歩=スタートにあるのは「いいね」という、誰かからのアクションだと思っています。

経営学部 眞鍋 邦大 准教授

食は、誰かからの「いいね」も得やすい分野です。日本の地方には必ず「農」があり、私たちの「食」を支えています。
「いいね」「美味しい」というアクションが、農家さんの自己肯定感となる。そして農家さんはその自信を糧に、美味しい作物を育てることができます。

逆にいうと、農に携わる人は「いいね」「美味しい」という声を得るために、何をすべきか考えねばなりません。アイデアを可視化したり言語化したりする、そしてお客さまの共感を得て、応援してもらう。農もほかのビジネスもこのようなステップを踏むことで、世にアイデアを広めることができます。

農家さんなら自身は栽培に専念し、広報宣伝や労働力の確保、品種開発・商標権など権利管理は外部に任せるといった分担方法もあるでしょう。地域を元気にするには、農に従事する人たちが元気であるとともに、加工、流通、販売、消費のそれぞれが大切な役割を担っています。
「食」と「農」を通じて地元に誇りを持つことが地域活性化の第一歩と考えます。
地域に「食」と「農」があることで、地方住民も都心で暮らす人たちも心と体が元気になる。そんな未来を描きながら、実務と研究を進めています。