2023年春、龍谷大学 ボランティア・NPO活動センター長に政策学部の石原凌河准教授が就任されました。石原准教授の専門分野は地域レジリエンスで、主に、地域防災、防災教育、交通政策について研究を続けておられます。
2022年度は、兵庫県・毎日新聞社・公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構(人と防災未来センター)が主催する「ぼうさい甲子園」では、石原凌河研究室の「防災教育出前授業」が大学生部門での「ぼうさい賞」を受賞しました。
今回は、地域防災の重要性や防災教育の成果、龍谷大学のボランティア活動について、石原准教授にお話を伺いました。
しっかりとした災害対策は地域の持続性につながる
私の専門分野は「地域レジリエンス」です。レジリエンスは回復力、復元力と訳される英語で、「地域レジリエンス」は災害などに対する強じん性の向上を意味します。防災対策が不十分な街は、台風や地震などの災害が発生すると被害が拡大し、復興が遅くなってしまいます。逆にいうと、事前の備えが十分にできていると、被災してももとの社会生活に戻りやすくなります。迅速な復興は、地域の持続性につながるといえます。
近年は、滋賀県の各自治体と手を組んで地区防災計画作成のお手伝いをしたり、約10のコミュニティ地区で住民への防災アドバイスをおこなったりしています。多くの場合、災害直後は行政からの援助が届きにくいため、平時から対策を講じておくことが重要となります。
近年は「地域レジリエンス」の一環として交通政策についても研究を始めています。防災と交通には、人の命を守るという共通点があります。
少子高齢化が急速に進む現在、過疎地域ではバス、電車といった公共交通が衰退しつつあります。地方の鉄道が廃線になると、免許返納などで車に乗れなくなった高齢者の生活の質が急激に落ちることになります。
電車があっても、無人駅ではいざという時に人に頼れないという問題もあります。駅に人員がいないと、障がい者が思わぬ事故に巻きこまれる危険もあるでしょう。しかし駅員さんを配置するには人件費がかかります。地方には、駅の敷地内にある蕎麦店や理髪店が駅の管理をしている例があります。「街のシンボルである駅を存続させながら、地域の人たちに寄り添いたい」という想いをかたちにした取り組みだといえます。
防災教育は「自分ごとに捉えられる」主体的学習がカギ
12年前より、徳島県阿南市の小学校で、防災教育出前授業を実施しています。2016年に龍谷大学の教員になったのを機に「防災教育プロジェクト」を立ち上げ、研究室の学生とともに小学校を訪問。毎年4〜5校、3年生以上の児童を対象におこなっています。テーマは「避難所運営」「液状化現象」など。液状化の実験をしたり、クイズやゲーム形式にしたりと、子どもたちが楽しみながらも主体的に防災を考えられるように工夫しています。
防災教育を続けるうちに気づいたことのひとつが、1回限りの防災教育では、防災意識を持続することが難しいということです。防災は、「自分ごと」として捉えないと、平時から物資や心の準備を整えることができないからです。そのためには、児童も先生も、防災を主体的に学習することがカギとなります。
そこで、防災教育授業に「学んだ内容を、誰かほかの人に伝える」というミッションを加えました。先生には私の授業を見てもらい、ほかのクラスで先生が授業をしている様子を私が見るというステップをお願いしました。2019年からは学生の提案で、「児童が誰か伝えたい人に向けて、防災についての手紙を送る」というアイデアを取り入れました。手紙の多くは父親や母親に当てられていました。後日アンケートを実施すると、手紙を受け取った家族からは「子どもから手紙をもらってうれしかった」「家庭での防災意識が高まった」という感想が届きました。
そもそも、防災教育授業は児童のためにおこなっていたのですが、さまざまな工夫をすることで、先生、家庭、地域と波及することがわかったのはひとつの成果でした。
「受け取った知識を、誰かに渡す」というインプット/アウトプットの作業があると、学んだことをいったん自分のなかで咀嚼し、頭を使って自分の言葉で表現しようとします。また、「自分がしっかり学ばないと、正しい情報をほかの人たちに伝えることができない」「間違った知識を伝えてしまうと、誰かの命をおびやかすことになってしまう」と考えるため、主体性をともないながら学習します。これは研究室の学生も同じで、防災教育出前授業の前にはかなり勉強を重ねます。そのなかで、新しい提案が生まれたり、さまざまな面白いアイデアが出てきたりもしています。
伝統がある、龍谷大学のボランティア活動
龍谷大学のボランティア活動は長い歴史があり、学生が主体的かつ楽しみながらボランティア活動に参加しています。コロナ禍が明けて以降は、ボランティア参加希望の学生がかなり増えました。コロナ禍では、学生たちは地域や社会との接点をなかなか見出せず、「社会や地域に貢献したいのに、動くことができない」という気持ちがたまっていたようです。ボランティア・NPO活動センターではさまざまなボランティアプログラムの紹介や講座の開催など体制を整え、「何かアクションを起こしたい」という学生の声に応えています。
長く続いているボランティア活動のひとつが、東日本大震災の被災地訪問です。2011年の発災から毎年継続的に被災地を訪問し、遺族のお話をお聞きしたり、石巻市雄勝町にあるローズファクトリーガーデンの整備のお手伝いをしたり、公営住宅に住む方達と清掃活動やお茶会などに取り組んでいます。コロナ禍では現地に訪問することは叶いませんでしたが、今年は例年どおり、京都からバスで約13時間かけて被災地に向かいます。被災者の方々は「今年も、龍谷大学の学生に会える」と、楽しみにしています。被災地のみなさまと信頼関係を築くことができたのは、訪問を継続してきたからといっていいでしょう。
今後30年以内に、南海トラフ地震が発生する確率は70〜80%といわれています。地震だけでなく、台風や水害など自然災害は、いつどこで起こっても不思議ではありません。そして、避けることが難しいものでもあります。学生にとっても、もちろん私たち大人にとっても、防災は他人事ではありません。自分や家族、地域を守るのはご自身です。家庭での物資備蓄、ハザードマップの確認、いざという時の連絡手段を家族で共有するなど、できる限りの対策をお願いします。そして、地域コミュニティでの助け合いも進めていただければと思います。