2021年11月7日(日)、「龍谷大学REC設立30周年記念シンポジウム」がオンライン開催されました。『持続可能な社会創造のために大学ができること~仏教SDGs~』をテーマに、国や自治体、本学、RECのそれぞれが取り組んでいること、そして手を組んでできることをお話しいただきました。
基調講演では中井 徳太郎 環境事務次官、入澤 崇 龍谷大学学長、木村 睦 RECセンター長、パネルディスカッションでは三日月 大造 滋賀県知事、佐藤 健司 大津市長、モデレーターに深尾 昌峰 龍谷大学学長補佐(2021年度時点)が加わり、次世代に向けた展開について意見を交換しました。
持続可能な地域社会の構築に向けて/中井 徳太郎 環境事務次官
今、「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けて世界が動き出しています。日本では自治体、企業、大学の多くが賛同し、取り組みを進めています。その理由は、人間の生活、経済、社会システムが地球環境に悪影響をおよぼしていることが明らかだからです。
SDGs達成のために目指したいのが「分散型自然共生社会」の実現です。具体的には、森林や水田の保全再生、自立・分散型の再生可能エネルギー導入などです。地域が強みを発揮して自立しつつ、農山漁村と都市で足りない部分を補い合う「地域循環共生圏(ローカルSDGs)」という構想もあります。森・里・川・海の水、物質の循環バランスを戻し、地域資源を活用することで地球は健康を取り戻すことができるでしょう。
デジタル技術の発達により地方でもさまざまな働き方ができる時代となりました。地産地消、SDGsビジネス、コト消費、ボランティアなど、個人やグループ単位でもできることはたくさんあります。
2021年7月、国、自治体、企業、国内外の大学などが連携し、大学の機能や発信力を高める目的で「カーボンニュートラル達成に貢献する大学等コアリション」が結成されました。龍谷大学はこれに参加されており、さらに龍谷大学RECでは地域循環の取り組みを行なわれています。これからもSDGs達成へ向け、地域との連携、強化をお願いいたします。
地球環境と仏教 /入澤 崇 龍谷大学学長
SDGsのメッセージである「地球上の誰ひとり取り残さない」は仏教の慈悲の精神に通じます。SDGsは仏教、そして本学の建学の精神に親和性があると感じています。
滋賀県ゆかりの「近江商人」の特色は「売り手よし、買い手よし、世間よし」です。この「世間よし」はSDGsに通じる発想と言えます。「世間」はもともと仏教用語です。生きとし生けるものの「衆生世間」、人間を含めた生きとし生けるものの器(うつわ)の「器世間」の2つがあります。器は環境のことです。地球と人間の共存を目指すSDGsと仏教の共通点がここにもあります。
日本で最初に大規模な環境破壊が起こったのは、瀬田キャンパスの南にある田上山(たなかみやま)と言われています。藤原京や平城京、寺院の建設で大量のヒノキが使われ、江戸時代にはハゲ山になりました。当時は木の伐採が環境破壊になるという考えはなかったのでしょう。明治期から苗木が植えられ、現在は緑が蘇っています。
私たちは「地球環境の劣化を招くのは、人間の活動である」と自覚せねばなりません。SDGsの達成には、一人ひとりの意識と行動を変えることが不可欠です。人間の意識と行動の変容を促すもの、それが仏教です。未来を担う若者たち、そして滋賀のみなさまとともにこれからもSDGsの活動を進めていきたいと考えております。
エクステンションのこれまでとこれから /木村睦 RECセンター長
龍谷大学エクステンションセンター「REC」は1991年、本学瀬田キャンパスに設立しました。目的は、大学が組織的に地域社会と連携する体制を構築することです。事業の3本柱は「産官学連携事業」「地域連携事業」「生涯学習事業」です。
21世紀初頭、龍谷大学は「共生(ともいき)をめざすグローバル大学」を掲げました。「共生(ともいき)」の理念のもと、「ローカル」に事象をとらえ、「グローバル」に展開する大学改革の構想です。これを受け、2001年には深草キャンパスに「REC京都」、2008年に大阪梅田キャンパスに「大阪オフィス」を設置しました。
2019年にはムハマド・ユヌス博士と連携し、「REC」のもとに「ユヌス ソーシャルビジネス リサーチセンター」を開設しました。ユヌス博士はグラミン銀行の創設者でありソーシャルビジネスの第一人者です。仏教の観点から見たSDGsに関する研究やソーシャルビジネスの地域実装化につながる活動を支援しています。
「REC」では、大学のもつ知的資源を地域に普及・還元するほか、地域の人材や資源、課題を本学の教育や研究に活用し、成果を地域にお渡しする双方向型のサイクルで社会貢献を果たしています。民間企業や行政機関、金融機関、地域の団体のみなさまからのご相談に応じ、活動サポートやマッチングも行なっています。本学の知恵や30年培ってきた経験をもとに、より良い地域社会の創造をお手伝いできればと考えております。
仏教SDGs×三方良し~地域と大学が持続的に成長するために~ パネルディスカッション
●中井徳太郎 環境事務次官
「地球の自然バランスを取り戻すため、環境省では様々な政策を進めています。その軸となるのが自立・分散型の『地域共生型社会』です。循環型社会や地域共生を進めるには哲学が必要です。龍谷大学が仏教哲学をもって地域の中核になるという宣言は『地域共生型社会』と同じです。また、哲学のある教育プログラムにより『自省利他』『まごころ』ある人材育成につながっていると感じます」
●三日月大造 滋賀県知事
「コロナ禍においては大阪の患者さまを滋賀県で受け入れたり、不足した看護人材を滋賀県から送り出したりました。滋賀県は自治体としていち早く『SDGs宣言』をしました。琵琶湖版SDGs『マザーレイクゴールズ』、人も社会も自然も健康にしようという『健康しが』といった取り組みを進めています」
●佐藤健司 大津市長
「龍谷大学の『まごころある市民を作りたい』という想いに、大津市としても応えたいと思います。市民の90代男性から『次世代を考えた政策をお願いしたい』という相談があり、次世代に向けて再生エネルギーを活用して地域を元気にしようと考えていたところです。現在、龍谷大学生と大津市民との交流、農学部と地域農業者が手を組んで行う循環型地産地消が行われています。」
●入澤崇 龍谷大学学長
「仏教には、『自他不二(じたふに)』という考え方があります。自分と他人との違いは認めつつ、自分と他人は分かれていない、自然と自分も分けられるものではないというものです。自分と自然を区分けしない発想は、循環型社会の推進にフィットすると思います。龍谷大学のコンセプト『自省利他(じせいりた』に基づき、まごころを持って仏教SDGsに取り組んでまいります」
●木村睦 龍谷大学RECセンター長
「龍谷大学とRECにとってSDGsは、これまで持ち続けてきた価値観と同じです。しかし当たり前だからこそ難しい面があります。正しいとされている方法をただ進めるのではなく、いったん疑ってみるという思考が大切です。科学技術の立場では研究を、人文社会学からはその善悪を問うという両方からの視点で見ることも必要です。そうすることで、数多くある課題に対してもっとも良いものを決めることができ、明るい社会を作り出せると考えます」