深草キャンパス内の真ん中にあり、学生も、職員も、近隣の住民の方も、誰でも気軽に利用できる「Café樹林」。バリアフリーで自然光が注ぐカフェは、障害者就労継続支援B型事業所(※)としての役割も担い、障がい者、引きこもりの学生たちが働いています。
※障がいのある方が一般企業への就職が不安、あるいは困難な場合に、雇用契約を結ばないで軽作業などの就労訓練をおこなうことが可能な福祉サービス。
前編では、龍谷大学名誉教授の加藤博史先生と、「Café樹林」の店長を長年担っておられる河波明子さんに、カフェの成り立ちやその苦労話について伺いました。後編では、実際に働いている障がいのある人と学生についての話題へ。その様子をご紹介します。
編集部:短期大学部の学生の実習の場でもある「Café樹林」。障がいのある人と学生の距離はすぐ埋まりましたか。
加藤/経験の隔離という表現があるのですが、現代社会ではリアルな経験がどんどん隔離されていっている。学生だけでなく、我々もそうです。病気や人が亡くなっていく見取り、自然と接することも含め、経験がどんどん隔離されていっています。知的障がいのある人と関わるという経験も、まずない学生が多いでしょうから、奇声を発する人、抱きつく人、鼻をほじる人らを目の当たりにして、偏見が深まる時期もあるでしょう。でもその時期を超えると、ほんまの人と人として、命の尊厳を受け止められる時期がやってくるんです。
河波/正直、最初はどう関わっていいか、わからないじゃないですか。だから見てあげないといけない、教えてあげないといけないって、どちらかというと上からの目線です。でも途中で、自分たちが傲慢だったと、彼らから学ぶことがたくさんあったのに、最初はそれに気づけなかっただけなんだと気づいていきます。
編集部:障がいのある人、引きこもりの学生と接する時、何を心掛けておられますか。
河波/とにかく傾聴するということです。いろんな考え方や想いを聴き、自分の中にあるファクターと、メンバーや学生それぞれのファクターを集めて、別のものを作り出していく。どちらかが妥協するのではなくて、出し合って、別のもっといい“第三案”を作っていきましょうというのが合言葉です。
編集部:「Café樹林」勤務をきっかけに、一般就労をめざす方もいるのですか?
河波/環境を整えれば経験を知恵に変えられ、それが自信につながります。いつしか、社会に出たいという気持ちが芽生え、もっと広い世の中でお役に立ちたいという願いが、どんなプロセスを経れば、叶うんだろうと考えるようになりました。それを探究するために、障がい者と学生が一緒に学ぶ「トリムタブ・カレッジ」が始まり、そこから靴磨き活動を就労につなげる「革靴をはいた猫」が生まれました。「Café樹林」をベースにした活動は‟Change from Taker to Giver”(与え分ち合う)を合言葉に「利他の心」を大切に育みながら広がっていきました。
加藤/障がい者にとって選択肢が広がることは、とても大切なことです。けれど、自分で自分のことができる障がい者は良い障がい者、重くて生活介助が必要な障がい者がダメな障がい者、と区別されてしまうのは怖いことだと思っているんです。重い障がいを持った人と接する中で、人間の尊厳はどこにあるのか、出来る出来ないではないところに尊厳はあるのだと教えられます。つまり、重荷を背負って生きていることそのものに、人間としてものすごく大きな価値がある。そういう事実を受け止め、エンパワーメントされることが重要だと思います。
編集部:学生を含む、若い世代に願うことはありますか。
河波/以前、ボランティアをしていたインドの大学には、チベットだとかいろんな国から逃げてくる留学生さんたちがいました。話しを聴くと、国を奪われる、家族をなくすといった過酷な経験をしてきた人ばかりです。そういう逆境にいても、彼らは自分の国を取り戻すことを諦めず、意識が高いんですよね。日本の学生さんはこんなに恵まれていて聡明でもあるのに、崩れやすい一面がある。自己肯定することが、なかなかできない人が多い気がします。過去を肯定できなくても、これからの自分を信じられる若者のお手伝いができれば嬉しいです。
加藤/人間の尊厳こそ、大学で学ぶべきことなんじゃないでしょうか。私たちの社会には、当たり前の権利を阻害されたり、奪われたりしている人への権利回復の責任があるということを、大学で学んでほしい。「Café樹林」がキャンパスの真ん中にあるように、心優しく、ある意味で傷つきやすさも持った人が、地域の中心でのびのびと暮らせるノーマルな社会のために、本当の意味での知性を身につけていただきたいです。