2026年1月19日、滋賀県東近江市役所にて、東近江市と龍谷大学による懇談会が開催されました。東近江市からは小椋正清 市長、山﨑亨 参与ら、龍谷大学からは岸本直之 副学長、深尾昌峰 副学長が出席しました。
龍谷大学と東近江市は、2019年1月に包括連携協定を締結。政策学部や農学部を中心に、地域課題の解決や地域資源を活用した取り組みを進めてきました。今回の懇談会は、2027年春の「環境サステナビリティ学部(仮称※)」「情報学部(仮称※)」の設置を前に、さらなる連携の深化を図ることを目的に開催されました。懇談では東近江市を研究フィールドとする構想や具体的なアイデアについて、活発な意見が交わされました。
※仮称・設置構想中。掲載の内容は予定であり、変更となる場合があります。
新設学部が目指す、“地域×サステナビリティ”
懇談の冒頭では、深尾昌峰 副学長と岸本直之 副学長が2つの新学部「環境サステナビリティ学部」「情報学部」のコンセプトと特色について説明しました。

深尾:「龍谷大学瀬田キャンパスでは、滋賀の特性を活かした教育・研究ができる学部として、2027年春に情報学部と環境サステナビリティ学部の2学部を新設します。情報学部というと近未来のテクノロジーを研究するというイメージがあるかもしれませんが、仏教系の大学として、あえて最新技術を扱う『人』を中心に据えた学部としました。地域との結びつきを大切にし、データサイエンスを地域社会の課題解決にどう活かしていくかについても追求します。
環境サステナビリティ学部は、日本で初めて『環境サステナビリティ』という名称を冠した学部です。環境サステナビリティ学部は、経営学や経済学などの既存の枠組みを超えて、これから分野そのものを開拓していくチャレンジングな学部です。本学は2024年、ネイチャーポジティブ宣言を発出し、サステナビリティの実現に向けた取り組みを進めてきました。環境サステナビリティ学部はこれまで先端理工学部にあった環境科学課程の理系的アプローチに加え、経済、経営、社会システムといった専門性を持つ文系分野の研究者を配置。多角的な視点による学びで、社会の変革を目指します。」

岸本:「環境問題はさまざまな要因が複雑に絡みあっており、テクノロジーやサイエンスだけでは解決しません。サステナビリティには人の営みが含まれるため、社会科学、経営学、経済学からのアプローチも必要となります。また社会のさまざまなステークホルダーが関わってくるため、異なる価値観を束ね、調整するマネジメント能力も求められます。そのためには理論だけでなく、現場で学ぶ実践的な経験が重要になります。環境サステナビリティ学部では1年次から4年次まで、チームで協働する力を養いながら、フィールドでの経験を通じて知識と技能を身につける『体験・共創型PBL』をシームレスに展開。専門プログラムとしては地域デザイン、ネイチャーポジティブ経営、生物多様性回復、資源循環利用、持続的水資源管理の5つを設けます。文系、理系の垣根を超えた学びにより、サステナビリティの実現に貢献する人材を育てます。」
実践教育のフィールドとなる「鈴鹿の森」

東近江市は2025年12月、市域を流れる愛知川源流域の森林と森の文化を発展的に継承するため「森の文化推進条例」を制定しました。愛知川は鈴鹿山脈から琵琶湖まで流れる一級河川で、源流部および集水域にあたる森林地帯は「鈴鹿の森」と呼ばれています。東近江市 参与の山﨑亨氏は50年にわたり鈴鹿の森に入り、調査研究を続けてきた専門家です。

山﨑:「鈴鹿山脈は日本の中央に位置し、北日本と南日本の生物区が交わる境界にあり、北方系生物の南限であると同時に、南方系生物の北限でもあります。さらに、日本海側気候と太平洋側気候の両方の影響を受けています。地質が多様で、標高差による気象条件の変化が大きいのも特徴です。つまり、鈴鹿の森は多種多様な植生を有する、生物多様性に富んだ国内有数の地域です。
環境サステナビリティの視点で考えると、日本では森が基盤になっています。全国で森林の荒廃が深刻な問題となっていますが、この『鈴鹿の森』で森の維持管理・再生手法を確立できれば、日本全国の森林の保護・回復のモデルケースになるのではないでしょうか。ぜひここを研究と情報発信の拠点にしていただきたい。」

小椋正清 市長からは、東近江市の独自性と森林の保全と活用についての説明がありました。
小椋:「東近江市には3つのキーワードがあります。一つ目は、多くの伝承が残る聖徳太子ゆかりの地。二つ目が近江商人の発祥地。そして三つ目が“水”です。愛知川は鈴鹿山脈から琵琶湖までひとつの水系が市域で完結している、全国でも珍しい自治体です。森・里・川・湖(うみ)のつながりを、源流から河口まで一体としてとらえ、環境保全や観光振興、企業誘致など総合的な政策を取ることができるのは東近江市ならではの強みです。私は市長に就任して3年目にあたる2015年度に、森と水を生かした流域政策を展開するため『森と水政策課』を新設しました。」
岸本:「流域全体をフィールドとして地域のサステナビリティについてワンストップで取り組める環境はとても理想的です。森林や水系、文化、コミュニティといった地域の資源の価値を見出し、これらを活用してどのように地域経済を循環させていくのかといった視点をもって、ぜひ、積極的に活用させていただきたいと思います。」

鈴鹿の森は、全国の木地師(きじし)の根源地として知られています。木地師とは、ろくろを用いて椀や盆などの木工品を製作する職人のこと。平安時代、文徳天皇の第一皇子・惟喬親王(これたかしんのう)を職祖と仰ぐ伝承が残されています。
小椋:「明治後期まで、全国の木地師は移住しながら各地で木工品を作っていました。我が家は代々、その木地師たちを統括し、支援してきたという歴史があります。」
山﨑:「私は全国の木地師さんを訪ねて歩いています。興味深いのは、各地の木地師さんたちの生活様式や文化が、東近江の営みと驚くほど共通していることです。東近江を起点とし、森と共生する知恵や文化が全国に広がっていったと考えられます。そして、私たちは森に生かされているとも実感します。鈴鹿の森は学生のみなさんにとって、地域資源を維持・再生させるために何が必要かを考える場としては最適だと思います。」

地域と共創する「森の文化フィールドミュージアム」
「森の文化推進条例」は2026年4月に本格的な取り組みをスタートさせます。その中核となるのが、上流域の森林や集落一帯を森の文化フィールドミュージアムと位置付けて行う取組であり、その活動の場として市所有の「木地師やまの子の家」が活用される予定です。
小椋:「『森の文化フィールドミュージアム』は、愛知川の上流域において市域の約10分の1に当たる約3800ヘクタールの区域において、森林と森の文化を発展的に継承するための取組を行うもので、自然科学や歴史、木地師などの文化を融合し、多彩な事業を展開する中で、森と人との関係を再構築するものです。森里川湖のつながりを市域に含み、かつ奥深い森の文化が存在する本市ならではの取組であり、つながりの原点である森林に着目することで、流域全体の課題解決に寄与するものと考えています。」
岸本:「フィールドミュージアムという発想が素晴らしい。いわゆる博物館機能に加え、地域の方々と一緒に活動できる場が誕生するのですね。たとえば、地域の資源をストーリーで繋ぎ価値を見出す、エコツーリズムなどのプログラム開発を学生とともに取り組むというアイデアはいかがでしょうか。地域活性につながると同時に、地域の人たち自身にも新しい発見や気づきが生まれるでしょう。学生にとっても貴重な学びの場となります。こうした、相互に学び合う関係性を築きたいと思います。」
深尾:「これまでも本学は東近江市とはさまざまな形で連携してまいりました。環境サステナビリティ学部の新設を機に、さらに関係性を深めていければと思います。学部では実践的なフィールドワークを重視したカリキュラムを展開します。学術的な研究チームも複数立ち上がるでしょう。東近江市は本学にとって非常に魅力的な教育・研究フィールドです。」
山﨑:「鈴鹿の森には龍谷大学 先端理工学部で環境DNAを専門とされている山中裕樹先生をはじめ多くの先生や学生たちにお越しいただき、調査研究を進めていただいています。新学部の設置を機に、森林の生物多様性に関する研究がさらに深化し、新たな知見が蓄積されることを期待しています。」
小椋:「学生のみなさんには、まだ十分に研究されていない環境分野と人間との関係性について、新たな視点から取り組んでいただきたいと願っています。その際、理論にとどまることなく、東近江市のフィールドを活用し、人々のためになる学びと実践へとつなげてください。」