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観光と信仰の中道とは?(後編)―現代の「お寺」のまなざし―


本記事は龍谷大学文学部のPBL演習の授業における取材を元に作成されました。
後編執筆者:龍谷大学文学部 小野嶋(仏教学科)、宮口(歴史学科)


私たちは、京都の地域的な特徴と社会との関係を考えるうえで、「観光」と「寺院」(お寺)に着目しました。近年、観光の混雑は京都の社会課題として取り上げられることが散見されますが、様々な国や地域の人々が訪問する場所で、受け入れる人たちはどのような思いを持っているのでしょうか。その現場のひとつとしてお寺に目を向けました。
一方でお寺は、地域社会の紐帯となるような役割を果たしてきました。また、現代においては、従来の信仰や宗教活動を継承していく点に課題を抱えています。そのため、新たな来訪者や観光客への「まなざし」もお寺によって違いがあると思います。このようなお寺と観光をめぐる複雑な状況に対して、寺院関係者がいかなる思いをもっているのかという点を取り上げ、「中道」という視点を切り口にして考えてみることにしました。

前編の龍岸寺、佛光寺に引き続き、知恩院と東本願寺に取材しました。

3.知恩院 「伝統」と「伝承」の使い分け
ー「京都といえば知恩院」を目指してー

京都市東山に位置する浄土宗総本山・知恩院。国宝である三門や御影堂など、その歴史の深さに触れることができるのが魅力の一つとなっています。そのため知恩院は、観光をメインに来訪する人も非常に多い寺院だといえます。
日々大勢の参拝者で賑わう知恩院の目指す先や想いなどについて、知恩院総務部課長の九鬼昌司さんにお話を伺いました。

いざ、ヒアリングへ

・宗教施設として、参拝者の思いや信仰に寄り添う

― 「まずは、知恩院の〝お寺〟としてのあり方についてお伺いしたいです。」

九鬼さん:「「観光」を主軸においたお寺は無いと思っていて、あくまでもお寺は宗教施設であるというスタンスは持ち続けています。」

― 「この数年の参拝者の増加によって、知恩院の運営に変化はありましたか?」

九鬼さん:「除夜の鐘の事前予約制有料化にしたことですかね。これに対して、「海外の人が多くなって、インバウンドのオーバーツーリズムの問題で予約制にしたのか」という疑問が挙がりましたが、そうではありません。知恩院の除夜の鐘がInstagramなどのSNSで目に留まるようになったことで、お参りしてみようということで参拝される方が増えたんです。そうなると除夜の鐘に参加するために最長5時間待たなければならない事態になってしまいました。
知恩院として優先することは、より多くの方に参拝していただくことよりも参拝された方が良い気持ちで安心して新たな年を迎えていただくことです。そのため、参拝者の安全を考えて事前予約制有料化という形を取ることにしました。」

丁寧に取り組みを説明してくださる九鬼さん

― 「参拝される方のことを第一に考えての決断だったのですね。知恩院には綺麗な宿坊やカフェがあることも印象的ですが、これらの建物はどういった経緯で建てられたのでしょうか?」

九鬼さん:「現在の宿坊の建物は二代目になります。この宿坊には現在のお寺を取り巻く経済状況も大きく反映されています。もとは檀家さんのみが宿泊する場所でしたが、現在、お寺が置かれている状況を考えると宿坊も活用しなければならないと考えました。建て替えの際には一般の人も宿泊しやすいようにとビジネスホテルのような内装になっています。これは収益事業の一環として整えられた建物です。」

― 「檀家さんのみが利用できる施設だと思っていましたが、一般の方も利用できて、かつお寺の収入源としても活用されているのですね。また、知恩院では「おてつぎ運動」という取り組みがありますが、この活動が始まった経緯や取り組み内容などについてお聞かせください。」

出典:知恩院ホームページより(https://www.chion-in.or.jp/special/otetsugi/

九鬼さん:「「おてつぎ運動」は元々、浄土宗の住職と檀家さんに向けての教化活動(※仏教について教え導くための活動)を支援するための取り組みでした。戦後の宗教活動の薄れを心配した知恩院の当時の執事長・鵜飼隆玄(1905-1990)が始めた取り組みです。本山としてお寺の支援に回ることで各お寺の住職が檀家さんに教化がしやすくなり、信仰生活に入りやすくなるのではないかと鵜飼は考えたそうです。今は鵜飼の意思を汲みつつ、その延長線上で知恩院に参拝してもらうのが理想で、実際に知恩院に参拝するような取り組みも増やしています。」

このように、知恩院は、参拝される方々の思いや信仰に重きをおいて、除夜の鐘などの行事を運営していることがわかりました。また、総本山のお寺として、俯瞰して本山参拝のあり方を考えていることがみえてきました。そこで次に、観光目的で訪れる方々が経験できるような取り組みについても聞いてみました。

・三方よしで結ぶ、寺と地域と訪れる人

― 「東山地域にある知恩院を参拝される方の中には海外の方も多いですが、そういった方を対象にしたイベントも行われているのでしょうか?」

九鬼さん:「時代の流れに合わせて、浄土宗の檀家さん以外の方や海外の方にも対象を広げた行事を行っていますが、檀家さんではない方だけを対象に行っているイベントはありません。また、知恩院では春と秋の年二回、ライトアップを行っていますが、これも観光事業としてのイベントではありません。このライトアップにも、最初は賛否両論ありました。知恩院ではライトアップとともに、「聞いてみよう!お坊さんのはなし」という法話会を行っています。
知恩院としての取り組みの目的はライトアップそのものではなく、ライトアップをきっかけに知恩院に参拝された方にお寺の話を聞いてもらうことです。このように、一般向けのイベントとして行い、敷居を下げることで、仏教に触れやすくしてはいるものの、イベント自体は仏教としての取り組みとなっています。」その結果、お寺の事業の一環として実施されていることなのだと理解していただけました。

― 「法話会では普段仏教に触れることが少ない方が訪れることも多いと思いますが、そういった方に法話をされる際に意識されていることはありますか?」

九鬼さん:「主に〝伝統と伝承の使い分け〟を意識しています。法話会などで和尚さんが使う仏教用語のなかには難しい単語もあるため、仏教に触れてきていない人たちにも伝わるように発信の方法を工夫をすることを大切にしています。知恩院として崩してはいけない伝統がありますが、その伝統を知ってもらうための表現方法(=伝承)は時代に合わせて変えなければなりません。京都の文化を知りたくて知恩院に来てくださっている方に合わせて知恩院側が変わるというのは本末転倒ですが…。これは観光との境目にあるため難しいです。」

― 「一般の寺院では、地域住民とのお付き合いがお寺の経営において重要になってきます。本山である知恩院でも地域住民とのお付き合いは大切にされているのでしょうか?」

九鬼さん:「最近は地域との付き合いも大切にしています。知恩院単独でもお寺としては成り立ちますが、お寺も地域も観光客も良い気持ちになるような「三方よし」を意識するようにしています。商店街等と普段から交流を持つことでお寺の取り組みにも協力してもらえるように心がけています。」

・取材を通して学んだこと―過去と未来に真摯に向き合う

九鬼さんは「京都といえば、知恩院だよね」と思ってもらえるようになったら嬉しい、と語ります。知恩院はこれまで重ねてきた歴史を踏まえ、その歴史をどのように伝えていくかを日々、試行錯誤されています。それが、〝伝統と伝承の使い分け〟であり、過去と未来の間にある現在に向き合う姿勢なのだと感じました。
こうした現在への向き合い方は、〝過去からの伝統〟と〝未来への伝承〟のどちらが欠けても成り立ちません。それは、両方の要素を必要とする点で「中道」とも関連していると思います。そのなかで知恩院は、参拝者の信仰心を第一に考え、伝統を保ちつつ革新的な取り組みを行っていることがよくわかりました。

取材終わり、和順会館カフェかりんで一息・・・

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もっと詳しく知恩院を知りたくなった方はこちらから!
知恩院ホームページ(https://www.chion-in.or.jp/
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4.東本願寺
果たす役割と「お東さん広場」の存在

東本願寺は、京都の玄関口である京都駅に最も近い寺院であり、2023年から門前を、京都市初の市民緑地「お東さん広場」として開放しています。全国的にも有名なお寺が、なぜこのような取り組みを行っているのか、また東本願寺が寺院を運営する際に意識している点は何か、真宗大谷派東本願寺の本廟部・杉村暢浄さんにお話を伺いました。

出典:お東さん広場ホームページ(https://ohigashisan-hiroba.jp/

実際に歩くととっても広い!

・お東さん広場がもたらす地域活性化

― 早速ですが、東本願寺では参拝者の増加による課題はありますか?

杉村さん:「観光混雑による課題が東本願寺で議題に挙げられたことはほとんどありません。それこそ落書きとかポイ捨てなども聞いたことがありません。強いて言えば、本堂に入るために靴を脱ぐ際にビニール袋に入れずにそのまま持っている人がいたり、靴をはき間違えることぐらいです。また、警備員さんが巡回していることもありますが、境内で飲食物を販売していないことも大きな要因だと思います。」

靴を入れるビニール袋が入った箱

― 観光客も多く利用する京都駅が近くにあることから、観光混雑が起きてしまっていると思っていたので驚きました。定期的に人の目が配られていることと、寺内町なので観光客向けのお店が少ないため食べ歩きのゴミが無いということが、お寺が綺麗に保たれている要因のようですね。
そもそも、東本願寺様の前にあるお東さん広場はどんな経緯でつくられた場所ですか?

杉村さん:「お東さん広場は、京都駅周辺の活性化を目的とする京都市と、地域に開かれた門前を目指している私たちで目的が一致して出来上がった場所です。もちろん、報恩講などの法要の際に団体バスを止める場としても使われていますが、東本願寺のために作られたというよりも、基本的には地域のために作られた広場が「お東さん広場」です。」

― なるほど。お東さん広場は東本願寺の関係者のためだけに作られたのではなく地域の人々のためにも作られた場所なのですね。では、お東さん広場ができてから東本願寺に訪れる人は増加しましたか?

杉村さん:「広場ができてから確かに参拝者は増えましたね。若者向けのマルシェの開催や学生主体のイベントがあることも大きな要因だと思います。浄土真宗の教えを知ってもらうこと、寺内町というお寺と地域が一体となりにぎわうことで、地域が活性化する、これがお東さん広場最大の役割だと思います。」

このように、お東さん広場は地域活性化をめざし、京都市と東本願寺が連携して運営・活用しています。そして、東本願寺にとっても周辺地域が活性化することは重要だといいます。ただ、他の有名寺院の近隣地域と少し異なるのが、東本願寺の周辺には〝寺内町〟としての名残がある点です。つまり、観光客向けの屋台などが少ないのです。その点から、たとえお東さん広場で飲食物が販売されるようなケースがあったとしても、ゴミが広場の外や東本願寺境内に持ち込まれないということがわかりました。
そうしたなか、広場ができた影響によって参拝者が増えたことは、教えを伝える機会を創出するうえで、東本願寺にとってもメリットがあるように見受けられます。

・多様なかたちで提供する「参拝」のあり方と本山参拝

― 遠方の大谷派所属寺院に対しては、本山としてどのような取り組みを行っていますか?

杉村さん:「例えば、新型コロナウイルスが流行した時期には、本山に参拝すること自体が困難な状況であったため、法要の様子などを YouTube で配信を始め、今もクオリティをあげながら継続しています。それ以外にも、専門的な知識を持つ講師を全国各地に派遣して、お寺の活性化を目的とした講座を開催しています。また、寺族や門徒、地域の方々が一緒になって、お寺のこれからを考えるサポートも、ウェブでの情報共有などを通して行っています」

引用:東本願寺youtubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UCLPB2H1qV_1BjH1KAVizZfA

― 単純に東本願寺の立地上の周辺を活性化させるだけでなく、宗派の本山として、遠方の寺院にも手厚くサポートを行っているのですね。

杉村さん:「ただし、数字にみえるかたちで減っているのが、報恩講などの法要に参拝される人数です。これは社会状況や時代の流れによるところもあります。ライブ配信ができるようになり、Web上でも本山の行事を視聴できるような環境は整備されてきましたが、全国から門徒さんが集まれるような仕組みは考えていくべきだと思っています。」

真剣なまなざしで語ってくださる杉村さん

一見すると、状況に応じた便利さを優先する動きがいいように思えますが、杉村さんの話からは、そうではない場合があることがわかります。とくに宗教に関しては、ライブ配信ではなく、行事に直接参列することでしか経験できないものがあると思います。もちろん、それが不可能な人のことを考えるのも大切であり、コロナ禍ではライブ配信が役立ったのは確かです。組織を運営する際には、基本となる軸をもちながら、多様な対応を準備しておく必要があると学びました。

・ 地域と手を取り合い、門前地域をさらに元気に

― 最後にお聞きします。東本願寺として今後どんな活動を行っていきたいですか?

杉村さん:「そうですね、先ほど申したとおり、全国各地から寺院や門徒さんが集まれるような取り組みができたら良いなと考えてます。また、東本願寺には御朱印がないので、観光客に少しでも記憶に残るような受け入れ体制を作りつつ、門前地域のさらなる活性化を実現したいです。そして、東本願寺が何か挑戦したいこと、取り組みたいと思うことが浮かんだとき、地域と手を取り合う関係になりたいですね。」

このように、杉村さんは東本願寺の特徴として、御朱印がないことをお話くださいました。それでも、御朱印集めとは違ったかたちで、訪れる観光客の記憶に残るように取り組もうという姿勢が伝わります。長くお付き合いする近隣地域の方々と、もしかするとその時だけの参拝になる方々と、両方に目を向けるのが東本願寺の方針なのだと感じました。

・取材を通して学んだこと―先をみすえた協力のかたち―

取材を通して、京都駅に近い立地でありながら、東本願寺の境内や周辺では観光問題が起こっていないということを学びました。今後、メディア・SNS等で寺院の観光問題が取り沙汰されても、全ての寺院において同じ問題が起きている訳ではなく、それを一様に考えることは危険であると認識しました。そして、お東さん広場の主な役割が地域活性化であること、それによって東本願寺主体のイベントをするときに地域と協力できる関係を築こうとしていることも知りました。今回の取材では、本山に対する保守的なイメージが大きく変化し、現代に合わせた運営を行っていることがわかりました。

また、東本願寺は遠方の門徒さんにとっても参拝の対象です。そのため、近隣地域にとどまらない全国的な規模で、本山が発信するイベントや、各地方での取り組みがなされていることを教えていただきました。このように、東本願寺は近隣地域とともに遠方寺院の活性化を担う役割があるようです。本山のこうした二重の役割は、一方の相手を軽視することのない「中道」なものだと考えられます。

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もっと詳しく東本願寺を知りたくなった方はこちらから!
東本願寺ホームページ(https://www.higashihonganji.or.jp/
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取材と発表会を経て―むすびに―

2025年12月25日、龍谷大学大宮キャンパス東黌の1階で、PBL演習の取材成果の発表会を行いました。当日は60名程の高校生や大学関係者の方が集まってわたしたちの発表を聞いてくださいました。
今回私たちが取材したお寺では、本山から一般寺院に至るまで、現代に合わせた仏教の伝え方やあり方を見つめていました。私たちは、これまで記してきた4か寺の皆さんへの取材を通して、〝仮想と現実〟、〝内と外〟、〝過去と未来〟、〝近隣と遠方〟などのように、いろいろな面から「中道」を考えるヒントをいただきました。

最初は、「お寺と観光」というテーマのもと、お寺が信仰と観光の中心にあることを「中道」であると考えていました。しかし、各お寺の取材を終えて、「中道」の捉え方が変化しました。これまでの歴史や伝統ばかりに寄りすぎず、かといって伝え方を観光客に寄せすぎることもなく、全ての人に寄り添える場所であるように、それぞれのお寺が目指していることがわかりました。

したがって、「中道」に沿った活動はひとつではなく、むしろ多様なあり方になると考えられます。一方で、お寺には今も昔も変わらないものがあります。それは、「人の心に寄り添うこと」、そして「日常に仏教があるように支えること」です。
様々な活動をするお寺とのお話を通じて、私たちはこの争いの絶えない世の中で、心が繋がることの大切さを考えていきたいと感じました。