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クロウサギに会いに行こう QuruGuruがオープン

国の特別天然記念物・アマミノクロウサギの研究飼育施設「QuruGuru(くるぐる)」が2025年4月20日、奄美大島大和村にオープンしました。生きたクロウサギを見ることができる体験型ミュージアムです。クロウサギの「黒々とした」容姿を意味する奄美大島の方言「くるぐる」と、命が次世代へとつながっていく様(「来る来る」)をイメージして命名しました。QuruGuruはけがをしたクロウサギを保護し、治療やリハビリを行うと同時に、いまだによくわかっていないクロウサギの生態を研究します。クロウサギに特化した保護、研究、展示施設は世界的にも珍しく貴重です。施設は「人と自然との共生」を考える機会を提供し、開設以来、多くの人が訪れています。施設を設置した大和村は「自然保護と観光の新拠点」と位置付けています。

クロウサギに会える体験型ミュージアム「QuruGuru」。左が大和村の伊集院幼村長(南海日日新聞社提供)

「生きた化石」アマミノクロウサギ

QuruGuruに案内する前に、アマミノクロウサギと、クロウサギを取り巻く現状について触れておきたいと思います。クロウサギは奄美大島と徳之島だけに生息し、独自の進化を遂げました。ムカシウサギの仲間で原始的な姿を残しているため、「生きた化石」と呼ばれています。1921(大正10)年3月、国の天然記念物に指定。1963(昭和38)年7月、特別天然記念物に指定されました。

クロウサギは成獣で全長(鼻先から尻尾まで)38・0~51・5センチほど。ノウサギに比べると、耳や尻尾がずいぶんと短いのが特徴です。毛の外側は茶色で内側は灰色になっています。手と足は短くて太くがっしりとしています。鳴き声は「ビシー」。鳴くのは天敵がハブ以外にいなかった時代の名残と言われています。繁殖時期はよくわかっていませんが、11から1月にかけて多く生まれると考えられています。一回の出産で1~2匹産み、ゆっくり成長することがわかりました。繁殖力が弱いため、長く絶滅が危惧されていました。

クロウサギを取り巻く環境 マングース・ノネコ対策進む

環境省の調査によると、アマミノクロウサギの生息数は2003年時点で最大5000匹でした。クロウサギはかつて奄美大島・徳之島の山中に広く分布していました。食糧事情がよくなかった1960年代までは食用にもされていました。しかし、その後の森林伐採によって棲み処を失い、ハブ対策で導入されたフイリマングースに捕食されて減少の一途をたどります。

環境省は2005年、マングースを特定外来生物に指定し、さらに、マングース対策のため、「マングースバスターズ」を結成します。バスターズの懸命な努力もあって2024年9月3日、根絶が確認されました。この間、駆除されたマングースは3万2000頭。マングースは元々、人が連れてきた生き物です。マングースもまた〝犠牲者〟だったのです。

マングースの捕獲、駆除が進む一方、2000年代後半、ノイヌ・ノネコ問題が表面化し、深刻な問題になりました。ペットとして飼われていた犬や猫が捨てられたり、迷子になったりした結果、森に入っていくのです。森の中で野生化した犬・猫を「ノイヌ」「ノネコ」と呼びます。特にネコは狩猟能力が高く、クロウサギなど希少動物は狙われたら逃げ切る術はありません。環境省が公開したノネコがクロウサギをくわえている写真は大きな衝撃を与えました。

奄美大島5市町村(奄美市・大和村・宇検村・瀬戸内町・龍郷町)は「飼い猫の適正管理・管理に関する条例」を定めました。飼い犬と同様、飼い猫の登録、マイクロチップの装着、不妊去勢手術の呼び掛けを推進。野良猫についてもNTR(野良猫を捕獲し、不妊去勢手術を行い元の場所に返す)、ノネコの捕獲・保護なども進めた結果、ノイヌ・ノネコ被害は減少しています。民間有志で組織する「奄美猫部」も適正飼育の啓発、ネコの保護活動・譲渡会などで貢献しています。

ロードキルと食害

マングースやノネコなど外来種対策を進めた結果、クロウサギの生息数が回復してきました。環境省は2022年12月、21年時点のクロウサギ生息数を推定1万1549~3万9162匹とする調査結果(速報値)を発表しました。奄美大島は前述したように03年時点では最大5000匹でしたから、3~8倍増えた計算です。クロウサギを捕食するマングースやノネコ対策の効果が表れています。クロウサギが増えた半面、ロードキル(交通事故)の増加、クロウサギによる農作物の被害が問題になっています。

ロードキル防止を呼び掛ける看板(環境省奄美群島国立公園管理事務所提供)

クロウサギはハブから身を守るため、沢など開けた場所で餌を食べたり、糞をしたりする習性があります。道路に出てくることがあります。このため、国道や県道などで事故に遭うケースが増えているのです。2024年の事故件数は奄美大島が121件、徳之島は42件ありました。前年に比べて奄美大島は26件減少しましたが、徳之島は14件増えて過去最多。数年来、高水準で推移しています。このため、環境省や県、自治体はドライバーへの啓発、標識や看板の設置などを進めています。徳之島町は車両用に開発されてきた対物センサーをクロウサギに活用するための実証試験を計画しています。

もう一つの問題は「食害」です。鹿児島県の調べでは2024年度、クロウサギによる農業被害は1035万6000円に上り、調査を始めた2016年度以降、最も多くなりました。クロウサギは植物の葉や茎、種、木の皮などいろいろな部分を食べます。被害に遭ったのは島の特産品のタンカンやサトウキビが9割以上を占めていて、タンカンの幼木は樹皮をかじられて枯れてしまったケースもあります。県自然保護課はマニュアルを策定し、農地への侵入を防ぐ柵の設置、幼木をビニール資材で囲うなどの対策を呼び掛けています。クロウサギを農家の敵にしてはいけません。

タンカンの樹皮をかじるクロウサギ(環境省奄美群島国立公園管理事務所・鈴木真理子さん提供)

なぜQuruGuruだったのか

大和村は奄美大島の中西部に位置し、人口1362人(2025年8月1日時点)の小さな村です。高齢化率(全人口に占める65歳以上の割合)は42・88%。25年度の一般会計当初予算は35億5000万円と決して大きなものではありません。QuruGuru整備にかかる事業費は8億2700万円。補助率は60%の国庫補助事業・奄美群島振興交付金事業(奄振交付金)を活用しました。年間の運営費は概算で3700万円を見込んでいます。村にとって大きな負担になるのではと危惧する声もありました。

過疎高齢化の小さな村がなぜ思い切って施設整備をしたのでしょうか。奄美大島・徳之島は2021年に世界自然遺産に登録されました。奄美大島全体の入り込みは49万人(2023年度)を数え、増加傾向が続いていますが、大和村には観光スポットはあっても通過型にとどまっていました。村側には「核になる施設がほしい」との思いがありました。

クロウサギは世界自然遺産登録の立役者であり、奄美自然界の〝スーパースター〟的な存在です。クロウサギは夜行性で、観察できる場所も限られています。会いに行くには認定ガイドが同行するナイトツアーに参加するしかありません。子どもやお年寄りは二の足を踏んでしまいます。そこでクロウサギに会いにいける施設「QuruGuru」計画が浮上しました。

計画を後押ししたのが大和小中学校の飼育体験でした。同校は文化財保護委員会(現在の文化庁)の許可を得て1963(昭和38)~90(平成2)年までの27年間、児童生徒によるクロウサギの飼育が行われました。校内の飼育小屋で傷病個体を含む合計13匹を飼育。3匹は飼育小屋で生まれ、人工飼育下では世界初の繁殖例となりました。

飼育日誌には給餌量や前日分の残餌量、活動の様子―などが記されています。児童生徒たちによって①クロウサギが夜行性である②春や秋に巣穴を掘る③繁殖期に激しい縄張り争いをする④シイなどの樹皮をかじる習性がある―こともわかりました。飼育期間中、学校には大勢の観光客も訪れていました。児童生徒たちの努力でクロウサギは村民にとってより身近な存在となりました。

こうした背景があって村は整備に乗り出します。2019年にアマミノクロウサギ研究飼育施設検討委員会を立ち上げ、施設整備や管理運営体制などを議論しました。開設前には鹿児島市と希少野生生物に関する連携協定を締結。クロウサギの飼育や繁殖の実績がある同市の平川動物公園のノウハウを生かすことにしました。環境省沖縄奄美自然環境事務所や動物病院ともクロウサギの傷病救護及び普及啓発に関する連携協定を結びました。獣医師も確保でき、地域おこし協力隊を含む6人体制での運営も決まりました。

開所式の日、伊集院幼(いじゅういん・げん)村長は個体数が回復する一方でロードキルが増えている現状を指摘し、「アマミノクロウサギ保護はわれわれが取り組む喫緊の課題。施設が人とクロウサギを中心とした希少動物との共生に寄与することを期待する」と述べました。

「ユワン」と「ケンタ」を飼育

QuruGuruは①ぐるぐるひろば②ぐるぐるの森③「ひるにわ」(屋外飼育場)④「よるにわ」(屋内飼育場)―と4つの展示室があります。ひろばはクロウサギの世界への導入部分です。図書やアニメ、大和小中学校にあった飼育小屋のジオラマなど多様なコンテンツを備えています。ひろばを抜けると、「くるぐるの森」に出ます。ここではクロウサギになった感覚で夜の森を疑似体験できます。スクリーンにはクロウサギが直面するロードキルなども映し出されています。

「ひるにわ」のユワン(大和村提供)

二つの展示室を経ていよいよ生きたクロウサギを観察できるコーナーに出ます。「ひるにわ」「よるにわ」で各1匹のクロウサギを飼育しています。獣医師が常駐し、飼育環境を整えました。

「ひるにわ」はクロウサギが暮らす自然の世界です。クロウサギは夜行性のため、昼間は巣穴で過ごしていますが、木の幹をかじった跡が見られるなど、生活の痕跡を探すことができます。生態研究のため、世界で初めて巣穴にカメラを設置しました。これまで見ることのできなかった巣穴の中の様子を観察できます。

ここにいるのが「ユワン」(オス、4歳以上)です。2021年2月、宇検村湯湾(ゆわん)で交通事故に遭ったところを保護されました。一命は取り留めましたが、右後ろ足が不自由になりました。鹿児島市の平川動物園でリハビリを続け、2025年2月、QuruGuruにやってきました。

昼夜逆転の飼育施設「よるにわ」。ケンタが暮らす

「よるにわ」には「ケンタ」(オス、8歳以上)が暮らします。2017年3月、宇検村田検(たけん)でけがをしているところを保護されました。傷の具合からネコに襲われた可能性が高いとみられています。「よるにわ」は昼夜が逆転した飼育施設で、人々が訪れる開館時間(午前9時半~午後4時半)はケンタにとっては〝夜〟です。餌を食べたり、伸びをしたりするクロウサギの姿を観察することができます。

「ひるにわ」にはルリカケスが2羽、「よるにわ」には同じく夜行性でフクロウの仲間のリュウキュウコノハズクも同居しています。ルリカケスは上野動物園で繁殖した個体です。リュウキュウコノハズクは2023年4月、右の翼を骨折したところを保護されました。クロウサギと共にQuruGuruで飼育されています。

「くるぐるひろば」はクロウサギの生態や太古からの人とのつながりを紹介するコーナーです。「くるぐるの森」はクロウサギになった感覚で夜の森を体験できます。ここではクロウサギが直面する危機(ロードキル)の怖さも実感できます。

QuruGuru効果顕著

QuruGuru開所の日。伊集院村長は「大和村にもやっと足を運んでもらえる場所ができた」と述べました。期待通り、好スタートを切ります。オープン後、61日目の6月29日、入館者が「9696人」を突破し、7月末には2万人を超えました。

QuruGuru効果も顕著になってきました。一つはクロウサギをはじめとする希少動植物や自然環境に対する住民の意識向上です。「91歳になって初めてクロウサギを見ることができました。感激しました」「自然を守りたいです」「じゅういしになりたいです」「くるぐるの森でクロウサギの気持ちがわかりました」など、施設を訪れた人々からは多くの感想が寄せられています。

クロウサギと人との関りを知ることができる「ぐるぐるひろば」

夜の森を体験できる「くるぐるの森」

大和村企画観光課の大瀬幸一課長は「大和村に人の流れができたと同時に、隣接する奄美野生生物保護センターやリゾート施設・ハナハナにも大勢の人が訪れるようになった」と話します。野生生物保護センターは生き物や自然の調査研究・普及啓発に取り組んでいます。QuruGuruの開設に伴い、こちらも来館者が急増。6月末までに2万人、多い日は一日300人もの人が訪れました。このまま推移すると、2000年の開設以来、過去最高の来館者を記録する見込みです。QuruGuruでクロウサギを見てセンターで自然学習する。または逆のパターンが定着してきました。

QuruGuruの波及効果で利用者が増加している奄美野生生物保護センター(南海日日新聞社提供)

 「共生」への役割を期待

奄美大島・徳之島は世界自然登録に伴い、希少種を含めた動植物への関心が高まり、環境保全に向けた機運が高まっています。「クロウサギに会える」「奄美の自然と人の共生を考えるシンポジウム」(9月14日、大和村主催)ではQuruGuruに対して①相互研修や交流②蓄積した知見の情報交換③観光客や地域住民に対して島の自然を伝える場としての役割―などを期待する声がありました。

 

大瀬課長は「QuruGuruは『生命巡る 未来』へつなげていくことを大きな目的にしています。この奄美の自然を守るためにどのような行動をすべきか学んでいただき、クロウサギを中心として希少動植物と人が共生・共存する社会に寄与することを期待しています」と話しました。

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文/久岡 学・元南海日日新聞社編集局長

1985年、南海日日新聞社入社。2018年4月~21年3月、編集局長。現在は嘱託で文化面の編集業務に当たる。主な著書(共著)は「田舎の町村を消せ」(南方新社)、「奄美戦後史」(同)、「奄美学」(同)、「『沖縄問題』とは何か」(藤原出版)など。「宇検村誌」にも執筆。

▽参考文献・資料  広報やまと5月号(2025№299)、「わきゃあまみ⑧ アマミノクロウサギハンドブック」(制作・奄美自然体験活動推進協議会、環境省奄美野生生物保護センター)、南海日日新聞関連記事▽写真提供 大和村、環境省奄美群島国立公園管理事務所、南海日日新聞社