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女性研究者が少ない現状を変えたい――龍谷大学大学院生が企画した「等身大のキャリア交流イベント」

結婚や出産を経ても研究を続けるには、どのような支援や理解が必要なのでしょうか。2025年9月9日、女性研究者のキャリア形成をテーマとしたイベント「大学院の過ごし方―女性特有のライフイベントとの両立を中心にー」が、龍谷大学大宮キャンパスで開催されました。

企画・運営を担ったのは、龍谷大学の大学院生7名(文学研究科6名・国際学研究科1名)による「女性の大学院修了後のキャリアを考える会」です。研究とライフイベントの両立という現実に向き合いながら、「同じ悩みを共有できる場をつくりたい」との思いから立ち上げられました。

今回は、同会の中心メンバーである東野空さん(文学研究科日本語日本文学専攻博士後期課程2年)と高見美友さん(文学研究科仏教学専攻博士後期課程2年)に、イベント発案のきっかけや準備の様子、当日の手応えについて伺いました。

きっかけは『ロールモデルの少なさ』

「女性の大学院修了後のキャリアを考える会」は、龍谷大学の大学院研究活動支援制度を活用し、東野さんが2025年度に自主研究会として立ち上げました。

「女性の大学院修了後のキャリアを考える会」代表の東野空さん(文学研究科日本語日本文学専攻博士後期課程2年)

「日本の研究者に占める女性割合は17.5%で、OECD諸国の中でもかなり低い水準にあります。大学でも女性教員が少なく、将来のロールモデルが見えにくいと感じていました。また、先輩や女性の先生方から『結婚や出産を経験しながら研究を続けるのは難しい』と伺うことがあります。なぜ女性が研究の道を歩むのは厳しいのか、男性との違いはどこにあるのか――そう考える一方で、プライベートな内容を先生にお聞きしてよいものか迷っていました。」(東野さん)

高見美友さん(文学研究科仏教学専攻博士後期課程2年)

「私が所属する仏教学専攻は女性の院生が非常に少なく、日本人に限ると2割、留学生を含めても3割程度です。大学院に進学してすぐ、ある女性の先生から『仏教学は女性研究者が少ない。研究者になるにしろ就職するにしろ、早いうちから情報収集をしたほうがいい』と助言をいただきました。仏教学の中でも分野横断的な研究を進める女性の先輩が少なく、ロールモデルが見つからず、キャリアの築き方に悩んでいたところ、『女性の大学院修了後のキャリアを考える会』の存在を知り、参加を決めました 。」(高見さん)

「学会の懇親会で知り合った大阪大学准教授の浅井美峰先生に、女性研究者のキャリア形成について相談したところ、浅井先生は以前、お茶の水女子大学で同様のセミナーを開催されたことがあるとおっしゃいました。当時の資料を拝見すると、結婚や出産のタイミング、改姓の問題、1年間に執筆した論文数、経済面など、私たちが知りたかった情報が具体的にまとめられていました。」(東野さん)

同じような悩みや疑問をもつ学生と先輩研究者が語り合うイベントを開けば、さまざまな情報を共有できるのでは――そう考えた東野さんは、浅井先生に講師として登壇を依頼。さらに、龍谷大学出身で現在は鶴見大学講師の万波寿子先生にも声をかけました。

結婚、出産、論文執筆、収入の手立て――
参加者の悩みに応えるリアルな内容

龍谷大学副学長で、DE&I推進を担当する村田和代先生

9月9日に開催されたイベントには、主催メンバーを含め15名の女子学生が参加。冒頭では、龍谷大学でDE&I推進を担当する村田和代副学長が登壇し、「私も子育てを経験し、大学院進学を支援する取り組みをしています。皆さんの活動を心から応援しています」とエールを送りました。

大阪大学准教授の浅井美峰先生。専門は日本中世文学。お茶の水女子大学にて博士号を取得

浅井先生の講演テーマは『大学院の「生活」―ライフイベントの襲来をめぐってー』。博士後期課程で結婚し、翌年に妊娠・出産。保育園に子どもを預けながら論文執筆を進め、非常勤講師や研究以外の仕事をしながら収入を確保していたといいます。

鶴見大学講師の万波寿子先生。専門は日本近世文学。龍谷大学で博士号を取得

一方、万波先生は博士後期課程2年目で結婚し、博士号取得の翌年に第一子、その4年後に第二子を出産。配偶者の親の介護も経験されました。「学費がない」「結婚した院生が周囲にいない」「実家の支援がない」など、“ない”ことの多さに苦労したと振り返ります。「心強かったのは夫の理解です。また、日本学術振興会の特別研究員に採用され、生活費と研究活動費の支給を受けたこと、出版助成金で著書を出版できたことも、前に進む大きな助けになりました」と語りました。

「浅井先生、万波先生のお話に共通していたのは、『周囲の人々の支えがあったからこそ、研究者としての道を諦めずに進むことができた』という点です。さまざまな人と出会い、積極的にコミュニケーションを取りながら人脈を築くことの大切さも強調されていました。また、研究費や生活費の負担を感じる方は多いと思いますが、金銭面について具体的なお話を伺えたのも非常に参考になりました。」(高見さん)

同じ立場だからこそ聞ける本音

講演後の懇談会では、2グループに分かれて率直な質問や意見が飛び交いました。

「『家族から、“研究者として生活していけるのか“と聞かれます。家族やパートナー、その親族にどのように説明し、理解を得たのですか』という質問がありました。浅井先生は『自分がどれだけの論文を発表し、どの程度の実績を積めば研究者として採用されるのかを、具体的な数値で示して納得してもらいました』と、親身に答えておられました。」(高見さん)

参加者からは、「博士後期課程に進学したいと思っていたが、その先のキャリアの探し方が分からなかった。進むべき道筋が見えて良かった」「金銭面への不安があったが、具体的な話を聞くことができて安心した」といった声が寄せられました。

「一般企業では、このような会を開催する際、男女問わず参加があるそうです。今回はセンシティブな内容を扱ったため、参加者を女性に限定しましたが、今後は男性も共に考えられる場にしていきたいです。」(東野さん)

「研究を続けたいと願う人が孤立せず、支援や情報を得られる環境を広げていきたいです。今回は文系の学生のみの参加となりましたが、次回は理系の学生の意見も聞いてみたいと思っています。自分たちの活動が、そのきっかけになればうれしいです。」(高見さん)

未来へつなぐ「小さな一歩」

研究とライフイベントの両立は、個人の努力だけでなく、周囲の理解と社会的な支援が欠かせません。東野さんたちの取り組みは、同じ悩みを抱える学生がつながり、等身大の視点からキャリアを考える新たな場を生み出しました。

「現在、私が働きかけを考えているのは、大学院生の保育園利用に関する大学からの説明書の発行についてです。
大学院生がどのような生活を送っているのかという実態が十分に認知されていないため、保育園利用の際に優先度が低く扱われてしまうケースがあります。もちろん、特別に優遇してほしいということではありませんが、大学院生の生活実態について周知することで、この現状が改善される余地があると考えています。

他大学では、大学が大学院生の生活実態を説明する文書を発行していると知りました。本学でもそれを参考にし、制度のあり方を検討する話し合いの場を設けたいと考えています。」(東野さん)

研究を続けたいと願う人が孤立せず、支援や情報を得られる環境を広げることが、龍谷大学からの小さな一歩として確実に形になっています。