創立400年にあたる2039年に向け、龍谷大学は長期計画「基本構想400」を掲げています。あらゆる「壁」や「違い」を乗り越え、世界の平和に寄与するプラットホームとなっていることが2039年の将来ビジョン。市民の声に耳を傾け、寄り添う大学になるアクションのひとつとして、2025年10月にショート動画コンテンツ「VOiCE」をスタートさせます。経験豊富な聞き手が、一問一答形式でお悩み・質問に回答する様子を定期的に配信する「VOiCE」。第一回の聞き手、宇宙飛行士の土井隆雄さんへの質問を決めるため、深草キャンパス内の「Café樹林」で選定ミーティングを行いました。
宇宙規模の経験と知恵を持つ
土井さんに何を聞くべきか?
「誰かに相談したい。でもなかなか言えない」。そんな心に秘めた気持ちに龍谷大学が寄り添う新しい取り組み「VOiCE」。今回、迷える市民に向き合ってくださるのは、龍谷大学の客員教授でもある土井隆雄さん。NASAスペースシャトル「コロンビア号」「エンデバー号」に搭乗し、日本人として初めて宇宙空間で船外活動を行った稀有な経験をお持ちです。
昨今では2024年、京都大学特定教授として住友林業と共同開発した世界初の木造人工衛星を宇宙空間に放出したことも、大きな話題となりました。そのほかにも国連宇宙部で国連宇宙応用専門官として活動するなど、経験豊富な土井さんに質問できるなんて、またとない機会です。
ただ「VOiCE」窓口に寄せられた質問すべてをお聞きしていくことは時間的に難しく、数を絞り込む作業が必須に。まずは、法学部4回生の先田壮志さん、飯原彩音さん、日髙大輔さんの3人と、先端理工学部の4回生渡邉凜さん、政策学部の3回生の水田航介さんという5人が、事前にすべての質問に目を通し気になった5個をセレクト。その後「Café樹林」に集合しスタッフの竹内悠真さんを囲んで、宇宙に思いを馳せながら自由に意見を交わしました(残念ながら渡邉さんはご家庭の事情によりミーティングに不参加)。
みんなが最も聞きたいのは
夢についての同年代の質問
まず5人全員が選んだのは、
「自分のやりたいことや夢がよく分かりません。人生の大事な選択をするとき、どのような基準で決めればよいでしょうか?」という学生からの投稿でした。
「宇宙飛行士って、一般の人からするとあまりに大きすぎる夢。宇宙飛行士を夢にしてしまうと、それ以外のことを削って突き進んでいくイメージがあります。自分の夢を叶えるための選択をし続けてきた宇宙飛行士の土井さんに、なぜその大きな夢を選択できたのかをお聞きしたいです」(先田さん)
「質問者の方と同じで、僕自身も夢というものを持ったことがなくて、全てインスピレーションで生きているといいますか。流れに身を任せて生きてきた人生なので、夢をちゃんと描いて、そこに向かって進んだ経験のある方の意見を聞きたいと思って選びました」(日髙さん)
「私も質問者と同じで、やりたくないことは山ほどあるけど、やりたいことはないんです。だから、やりたいこと見つけられること自体すごいことだと思っているので選びました」(飯原さん)
「僕もこの質問に共感して選びました。今3年生で就職活動を始めたんですけど、やりたい仕事や夢が定まらなくて、業界問わずいろいろ見聞きしているところです。だから、土井さんは大きな決断する時、どういう風に考えてきたのか自分の進路の参考にできればと思って、選びました」(水田さん)
将来への不安や自信のなさ
ネガティブな自分との向き合い方
次に話し合ったのは
「『もしこうなったら』と先取りして考えすぎて、不安になってしまう癖を直したいです」という20代の教職員からのお悩み。
「未知なるものが多すぎる宇宙に行くとなると、不安なことしかないと個人的に思っていて。不安を乗り越えたからこそ、土井さんは宇宙に行けているわけじゃないですか。どうすれば、リスクを上回るほどの探求心が持てるのか気になりました。自分は就職活動中、将来の安泰を優先した上でベストな選択は何かと決めていくことが多かったんです。安泰より宇宙をめざすことができた、決断力について伺ってみたいです」(先田さん)
先田さんと同じく、未知な世界を前にすると不安を感じるという水田さん。対して日髙さんと飯原さんからは、真逆の意見が飛び出しました。
「僕の性格が楽観的なので、どんな時もどうにかなるでしょっていう考えがあるんですよね。未来のことに対して『もしこうなったら』と不安になることはないです」(日髙さん)
「私も未来に対して不安とかは感じないし、これまでもどうにかなってきたので、どんな状況でもどうにかできるって思っています。数打てばなんとかなる」(飯原さん)
3つ目に取り上げたのは
「予定外の出来事にうまく対応ができません。臨機応変の対応力を身につけるにはどうしたらいいか」という、20代学生のお悩みです。
「僕はコーヒーショップでアルバイトしていまして、カウンターでドリンクをつくる作業で1つ失敗しちゃうと、焦ってどんどん失敗が続いちゃった経験があって。そういう状況で臨機応変な対応するには、何を身につけておけばいいのか知りたくて、選びました」(水田さん)
「僕は対応力というより、この質問を選べば宇宙でのハプニングをお聞きできるかな、と思って選んでみました。宇宙船の中でどんなことがあって、その時に土井さんはどんな行動をしたのか、詳しく聞いてみたいですね。宇宙飛行士の土井さんにしか答えられない、面白い質問だと感じました」(先田さん)
「確かに、宇宙でのエピソードお聞きしてみたい。宇宙でのトラブルって命に関わるレベルのトラブルじゃないですか。対処の仕方、気になります」(日髙さん)
回答をいただくだけではなく
土井さんの悩みもお聞きできたら…
さまざまなお悩みにフォーカスし、語り合う4人を見守っていた竹内さんが気になったのは「最近、異常気象や災害が増えていることが心配です。地球の未来のために、私たち一人ひとりができることは何でしょうか?」という地球規模の質問。
「以前、土井さんの木造の人工衛星について初めて聞いた時は、これまでなかった新しいプロジェクトに携わっておられるんだな、くらいの感想だったんです。けれど今回、さまざまな資料を見て詳細を知ると、地球規模で物事を考えておられることがよくわかって。金属製の人工衛星が増えると役目を終えた後に地球大気圏に微粒子が残り、異常気象にもつながってしまう。だから大気圏できれいに燃えて灰も残らない木材がいいとおっしゃっている。環境問題と宇宙開発について、宇宙から地球を見た土井さんがその思いを語ってくださったら嬉しいですね」(竹内さん)
「最初に質問リストを見た時、宇宙関連の質問がほぼないなっていう印象を持ったんです。でも今日みんなで話せたことで、どんな質問も宇宙飛行士ならではのエピソードにつなげられる気がしてきました。宇宙飛行士ってすごく特別な存在ではあるけれど、だからこそ自分たちの日常に活かせる普遍的なアドバイスがいただける気がしています」(日髙さん)
「そうですね、土井さんは宇宙規模で物事を考えられている方。そのスケールを想像しながら身近な質問について考えた結果、悩みが悩みでなくなったといいますか。土井さんの視点を知ったら、たいていのことは大したことないと思えるようになるんじゃないかな」(先田さん)
「私が宇宙飛行士になれたら、なんでもできる自信家になっちゃうと思うんです。でも実際のところは人知れず悩むこともあるのかなって。もし土井さんの悩みがあればお聞きしてみたいです」(飯原さん)
「今日のミーティングを通して、政策学部の学生としては土井さんが今一番伝えたいことも知りたい!という気持ちが湧いてきました。社会、地球の課題についてどうお考えか聞けたら嬉しいですね」(水田さん)
いよいよ土井さんの動画撮影
撮影を見学し、実際に質問する場面も
9月某日、深草キャンパスにある礼拝施設、顕真館にて「VOiCE」の撮影が行われました。土井さんは宇宙飛行士が訓練で使用するブルースーツを身にまとい悩みに答えていきます。学生たちもその様子を真剣な眼差しで見つめていました。
撮影後には、学生本人が気になっていることを土井さんに直接質問する場面も。
「自分の熱量とサークルの仲間や友人の熱量が異なるとき、周囲に合わせて熱量を下げてしまいます。土井さんはそういうときどうやって乗り越えましたか」という悩みに対し、土井さんは
「そういう人の存在を受け入れつつ、自分の熱量は下げてはいけない。一度手を抜いてしまったら、100%の力で取り組めなくなる。僕は宇宙飛行士の訓練も今日の撮影も、皆さんとの会話も100%の力で向き合っているよ」と気さくながらも熱いエールを送られました。
「中学生の頃から宇宙飛行士を志し、数十年にわたり夢を貫き通した土井さん。その姿勢に最も心を打たれました。「宇宙と生命」という壮大なテーマに挑み続け、実際に二度の宇宙飛行や国際連合での活動を経験された方のお話は貴重な体験になりました。特に、準備しておくことの大切さ、どんな状況でも100%の力で向き合う姿勢や「周囲に合わせて力を抜く必要はない」という言葉は、自分の人生の指針となりました」(水田さん)
学生による質問リストからの絞り込みと、心をオープンにして話し合ったミーティングを経て、最終どの質問が土井さんに届けられたのか?宇宙飛行士の土井さんが、市民の質問と向き合うショート動画「VOiCE」は、龍谷大学HPトップページにて、まもなく配信予定です。宇宙規模の視野を持つ、経験豊富な土井さんの回答を楽しみにお待ちください。