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執筆:龍谷大学文学部 西島(仏教学科)、出島(歴史学科文化遺産学専攻)、栗本(日本語日本文学科)
※本記事は龍谷大学文学部のPBL演習内にて編成した「ゴミ問題グループ」の学生が執筆しました。
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京都には国内外からたくさんの観光客が訪れますが、その賑わいと共に大量のごみが発生します。観光シーズンには、街中のごみ箱があふれかえる様子を目にすることも珍しくありません。
しかし、80万人超(2023年)の観光客が訪れる、日本を代表する「祇園祭」では、路上に人が溢れかえっているにもかかわらず、ごみが落ちているのをほとんど見かけませんでした。これほどの大規模なお祭りなら、たくさんの人がごみを出しているはずなのに、街中の美化が保たれているのは何故か?
その背景には「祇園祭ごみゼロ大作戦」という活動がありました。今回は、この活動を主催する特定非営利活動法人地域環境デザイン研究所ecotone代表理事太田航平さんにお話しをうかがいました。
リユース食器を使うことで、
ごみの減量に成功した「祇園祭ごみゼロ大作戦」
「祇園祭ごみゼロ大作戦」は、2014年から始まった取り組みです。現在は「一般社団法人祇園祭ごみゼロ大作戦」として一般社団法人格を取得していますが、事務局としては始動当時から特定非営利活動法人地域環境デザイン研究所 ecotoneが運営しています。
祇園祭では、リユース食器の回収やごみの分別回収をする「エコステーション」と呼ばれる有人管理のスポットが一定間隔で設置されています。
すると観光客は、回収・分別ボックスのあるエコステーション以外の場所にごみを捨てないよう意識します。また、露店においても気づきとなり、使い捨てではなくリユースできる食器を採用するようになっていったといいます。
「祇園祭ごみゼロ大作戦」が手掛ける主な活動は、露店で使われている使い捨て食器をリユース食器に切り替え、それらを全て回収し、ごみそのものを減量するという取り組みです。2,000名を超えるボランティアスタッフの協力のもと、リユース食器を回収し、洗浄をすることで繰り返し他の行事でも使う活動を行っています。
活動を牽引するecotone代表理事の太田航平さんは、「祇園祭でごみを減らすことができれば、他の祭りでもごみの削減を目指すことができる」といいます。ごみ箱の数を増やせば、散乱ごみを減らすのに効果的でしょう。しかし、ごみそのものの軽減は期待できません。だからこそ、太田さんは「ごみを減らすためには、そもそもごみが発生しない仕組み作りが必要である」と考えました。
ごみ箱を増やすのではなく、そもそもごみにならないリユース食器の導入をすすめるにあたって、開始当初は露店商との連携や従来の仕組みを変えることの難しさを感じたそうですが、ごみの減量に成功したことで、地域住民からも取り組みが評価されるようになりました。

ecotone代表理事の太田航平さん
ボランティア活動を通して知った、
ごみの回収・分別の課題
1995年、太田さんが中学3年生のとき、阪神淡路大震災が発生しました。太田さんは同年代の方がボランティア活動をしている様子をテレビで見て、ボランティアに興味を持ちます。
阪神淡路大震災のボランティアを探し、ボランティアセンターに問合せましたが、太田さんが住んでいた東京では募集がなく、代わりにコンサート会場でのごみ回収のボランティアが紹介されたそうです。
当時はごみの分別が浸透しておらず、ボランティアが客席を回ってごみの回収をしているにもかかわらず、コンサート終演後には大量のごみが散乱していました。太田さんはその光景を見て「自分のごみは自分で処理するべきでは?」「そもそも、ごみを出さないようにできないのか?」と考えたそうです。
これをきっかけに環境保全活動を始めようと決意、高校時代からの活動を経て大学3年生の頃にecotoneを設立しました。
「ごみを減らす」仕掛けと選択肢があれば、
社会全体でリサイクルへの意識が高まる
京都の大学に通い始めた頃、太田さんは祇園祭のごみに注目しました。当時の祇園祭は足の踏み場もないほどごみが散乱しており、太田さんは「なぜこのようにひどいことになるのだろうか」と疑問をもちました。そこで、ごみのほとんどが使い捨て容器であることに着目しました。使い捨ての容器と、洗浄して使い回す容器とではどちらが環境に負荷がかからないのか、具体的な統計数字を得るために環境省へ訪れるなど、大学外で大人を巻き込みながら活動を始めたそうです。そして、データを収集するために、次のような社会実験を行いました。
当時は、プラスチック製容器はリサイクルされていませんでした。そこで太田さんは露店で使った容器の汚れをお客さん自身に洗ってもらい、分別までしてもらえたらリサイクルの意識が高まるのではないかと考え、平安神宮の初詣にて社会実験を行いました。
露店商や警察から、調査を行うことへ反対意見もありましたが、上手く交渉を進め実行。すると、9割ものお客さんが容器を洗浄し分別までしたそうです。太田さんはこの社会実験を通して、「ちょっとした仕掛けで人の行為を引き出せることができる」「世の中に、仕掛けや選択肢がないことが不幸なんだ」ということに気づきました。
また太田さんは、あるお坊さんから「人は善悪ではなく、損得で動いている」ということを教わったそうです。私たちは物を購入する際「環境に配慮されているか」より「可愛さ、格好良さ、値段」をみて損得を判断し、購入するかどうかを検討する人のほうが多いと思います。太田さんは、「何が損か得かという、みんなのものさしを同じにすることはできない。しかし、(太田さんが行った調査のような)選択肢をつくると選び取ってくれる」ということを感じたそうです。
太田さんの目標に環境保全の未来を見る
私たちは、祇園祭のようなイベントだけでなく、リユース食器がもっといろいろなシーンで展開されていくべきだと感じました。
太田さんは、「一部のオフィスで、紙コップの代わりにリユース食器に切り替える動きが進んでいますが、観光地やまちなかではまだ、リユース食器を導入する風潮に至っていないのが現状です。日本でリユース食器が日常に浸透していない理由は、リユース食器よりも使い捨ての方が、コストが安く、事業者や消費者が使い捨て容器の商品を選び取るからです。私たちは、日常にリユースを落とし込むことを目標としています」といいます。
また、「社会は環境があるからこそ、経済は持続可能性であるからこそ成り立ちます。一番土台となる環境が揺らぐと社会はダメになります。そのため、一人ひとりがごみ問題を自分ごとと捉え、環境問題を考えないといけません。理想は、環境への取り組みが当たり前になっている社会です。最終目標はイベントが環境保全活動などのボランティアがいなくても成り立つような社会です」と展望を語りました。
普段の生活の中で、環境を意識して行動しよう
ごみ問題に取り組むべきなのは、今回紹介したecotone のようなNPO法人や、環境団体だけではありません。日頃から私たち一人ひとりが、何ができるか考える必要があるのではないでしょうか。
リユースという考えが日常に落とし込めていないのは、まだまだ私たちの意識が低いからだと思います。「誰かがやってくれるだろう」と他人まかせにするのではなく、一人ひとりが「自分ごと」として捉えることにより、ごみ問題を解決しようという意識がもっと社会に浸透していくのではないでしょうか。
「自分ごと化」するとは具体的にはどういうことなのか。例えば、龍谷大学では2024年から、ウォーターサーバーを各キャンパスに設置しています。私たちは「無料でお水を飲めてラッキー」という感覚でウォーターサーバーを利用していましたが、インタビューを通して、ペットボトルを買わずにマイボトルを使用するという環境に良い取り組みであると気づきました。
このように私たちの身の回りには、環境を「自分ごと化」する仕掛けがたくさんあるのかもしれません。
環境問題は、太田さんがおっしゃる通り、すべての物ごとに繋がっています。京都の観光混雑により発生する問題も例外ではありません。リユース食器など、そもそもごみにならない商品作りでごみが減少するということを私たちが理解し、広める必要もあります。そのような方法を自分で進んで選び取っていくことが、ごみの減少に繋がると考えます。
環境問題はすぐに結果が出ず、短期間で解決できないため意識が薄れてしまいがちですが、今できることを継続することで、これからの未来が変わっていくということを常に意識していきたいです。