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みんなの仏教SDGsウェブマガジン ReTACTION|みんなの仏教SDGsウェブマガジン

「多様な人たちが平等に生きる社会のために、私たちができること」〜幾田桃子さん×龍谷大学 入澤学長の対談【後編】

2023年10月4日(水)、龍谷大学 深草キャンパス 顕真館にて、デザイナー・社会活動家の幾田桃子さんによる特別講演会が開催されました。

【前編】に続き、【後編】では本学・入澤崇 学長との対談の模様をレポートします。(敬称略)

「他者との関係性」を大切にすると
新たなグローバルスタンダードが創り出せる

入澤

幾田さんのお話をお聞きし、本学が取り組んでいる仏教SDGsと引き合うものがあると確認できました。人間という言葉にも仲間という言葉にも、「間」という字が入っています。人、仲、ではなく「間」が入っているということは、関係性を重んじる文化が日本にあるのだと思っています。幾田さんは、洋服やファッションという身近なものを通して社会を見つめたり、さまざまな分野の人たちと新たな関係性を構築しながら活動をされたりしています。龍谷大学は社会と向き合う大学として運営をしており、さまざまな分野の人たちと関係を持とうということを前面に打ち出しています。

幾田

小さな点と点を結び、いろんな分野の方たちと繋がることによって、今までにないようなより良い社会が作っていけるのではと考えています。日本にいると自国の文化を忘れがちになることもありますが、海外に行くと、私の考えのベースは日本にあるのだなと感じます。自国の良いところを知った日本人が世界に行くと、他の国の人たちと文化を学び合うことができますし、より良い社会をグローバルスタンダードとして作ることができます。

心に余白があれば
人を思いやる気持ちが育ちやすい

入澤

2015 年、国連がSDGsとして持続可能な開発目標を掲げました。私はそのニュースを聞いたとき、「仏教は数千年前から、SDGs的な価値観をもっていた」と感じました。2017年に本学の国際学部で、国連広報局アウトリーチ部長にSDGsに関する講演をしていただいたことがあります。講演終了後に学長室で、私はその方に「SDGsには“誰ひとり取り残さない”と書かれているけれど、仏教の中にはすでにそのような発想があるのですよ」と伝えました。すると彼は「はい」と言ってニッコリと笑ったのです。その方はパレスチナ人でした。彼は、パレスチナで何度も悲劇に遭ってきた経験があり、世界平和を本気で考えていました。その方から「誰ひとり取り残さないという考えに立ち帰らねばならない」という話をお聞きし、私は「SDGsと仏教は接続できる」と確信をもちました。

幾田

私は取材で、「なぜ、SDGs という言葉が生まれていない20年以上も前から、SDGs的な活動をしているのですか」とよく聞かれます。私のなかにSDGs的な思想が生まれたきっかけは、家庭環境と海外生活からです。私の家庭は、父が仏教徒、母がキリスト教徒。2つの宗教の良い部分をたくさん取り入れ、のびのび育つことができました。また海外では、西洋の良い部分を取り入れながらも東洋の思想を大切にしていました。

入澤

本学では、仏教の思想という1年生の必修科目が全学部にあります。「なぜ仏教を学ばねばならないんだ」とネガティブに考える学生もいます。しかし、仏教には「その人がその人らしく生きていく、そして幸せになる、平等を実現する社会を作る」といったヒントがたくさん詰まっているんですよね。アフガニスタンの仏教遺跡調査に行ったとき、ガスも電気もない貧しい地域に住んでいる少年と出会いました。少年は馬に乗っていて、後ろには病気のお母さんを乗せていました。3時間かけて、母親を病院に連れていくというのです。病気の母親を助けたいという少年の目はキラキラと輝いていました。私は、日本にいたままだったら、今のアフガニスタンにこの少年のような親思いの子どもがいることを実感できなかったかもしれません。

幾田

心の勉強は本当に大切だと思います。心が豊かでないと、何かを見たときに自分がどう感じるのか、どう考えるのかもわからなくなってしまいます。ただ、今、心を勉強することはとても難しいとも思っています。いざ行動しようとしたとき、自分のことも相手のこともしっかり考えて動ける人たちがいてこそ、豊かな社会が成り立ちます。

入澤

世界で初めて、心の解明をしたのは仏教だと言われています。ちょっと嫌なことがあったらやる気が削がれ、心がモヤモヤでいっぱいになってしまいます。いろんな想いを心に詰めこみすぎると身動きができなくなるのですね。さまざまなことを受け止められる柔軟さをもつには、心を空っぽにすることが大事です。

幾田

すごく共感します。私は自己紹介のときによく「初めまして、とても役に立つ赤ちゃんです」と話します。プロジェクトを始めるとき、私はなるべく先入観を持たず、頭も心も空っぽにして臨むようにしています。すると、とんでもなくワクワクするようなプロジェクトが完成するんですよ。

生き物と共生する地球環境づくりは
多様な人たちと幸せに生きる社会づくりに通じる

入澤

人間が一番すぐれているという考えをもつと、人間中心的な地球が出来上がってしまいます。しかし地球にはたくさんの生き物たちが存在しています。仏教では、生き物すべてのことを「衆生(しゅじょう)」といい、それぞれに尊い命がある、人間は地球において生きとし生けるものの一部なのです。

幾田

私は子どもの頃からよく「もし、いろんな生き物が全員参加できるオリンピックのようなものがあったら」と、想像していました。チーターは短距離走、バショウカジキは水泳、ゴリラは砲丸投げで金メダルでしょう。いろんな生き物と共生する地球環境を作ることと同じように、多様な人たちがそれぞれ活躍できる社会をどう作るべきか。そう考えると、生き物も他者も自分の仲間だと思って行動するということが主軸になると思っています。

入澤

SDGsを進めるには、私たち一人ひとりが豊かな心を持つこと。そして意識と行動を変えることで、永続的に幸せが循環する平等な社会が実現できると考えます。幾田さん、本日は学生にとっても私にとっても、大学と社会との繋がりの重要性を意識する良い機会となりました。ありがとうございました。